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今日までの話をわかったうえで行動したいと思っていたエトリアは怒りを隠さずにアロンドに問いかける。
「避妊薬のお話が本当なら、セイバーナさんのお子である可能性はないのだから、わたくしとセイバーナさんとの婚約を破棄する必要はなかったのではないの?」
「避妊薬の出処がわかったのは僕が学園へ行く直前なんだよ。君は放課後にセイバーナ殿に婚約解消を話すつもりだったのに、彼らが昼休みにやらかしたから、僕から君に避妊薬について話す時間もなかったんだ」
避妊薬といってもピンからキリまであり、安価なものはほとんど意味がないと言われている。
「そうなのね。だけど……」
エトリアは真剣な顔で考えあぐねていた。
「ヨネタス殿と婚姻したかったの?」
「え!? んー、ちょっと違うわね。わたくしがヨネタス公爵家へ嫁ぐことが国の安寧の一部になると信じていたから、それがなくなったことが少し不安なの」
「今日のヨネタス公爵閣下のご様子を見る限りその心配はないよ」
「どんなご様子だったの?」
「とても恐縮なさってお可哀想なほどだった。焦燥感も悲壮感も漂わせて消えてしまいそうだったよ。
国王陛下はお怒りでなかったけど、王妃陛下のお顔をご覧になったらああなるのはわかる気がするけどね」
「お母様が? ちょっと嬉しいかも」
エトリアが小さく微笑んだ。普段は家族の前以外では無表情で有名な王妃陛下がエトリアのために怒りを前面に出していたと聞けば、どれほど愛されているのかがわかる。
アロンドはエトリアに優しい声音で話す。
「国王陛下もエトリアをずっと心配なさっていたよ。陛下はエトリアのためにヨネタス殿を試したんだ」
「試した? 何をですの?」
「君と夫婦としてやっていけるか、を、さ」
「………………どういうこと?」
エトリアは意味がわからず眉を寄せた。
「君は王女だからね、普通の男は気後れする。でも、それでは夫婦は上手くいかない。何でも相談して何でも二人で乗り越えなくっちゃ」
「そ、そんなこと……政略結婚には無意味でしょう」
「君はすぐにそうやって自分だけで背負おうとするでしょう。両陛下はそれを危惧していたよ。君は『政略結婚相手と信頼関係を築ければ僥倖』なんて言っていたけど、両陛下は『信頼関係も築けない相手とは結婚させたくない』とお考えだった」
「えっ! ……うそ」
「本当だよ。だから、ヨネタス殿があの男爵令嬢に脅された時に君に相談していれば、その場で避妊薬の話もしてあげる予定だったんだ。避妊薬の精度がわかったのは今日だけど、使っていることは調査済みだったからね」
『その時点で避妊薬について教えていただきたかったわ。でも、セイバーナさんを試すというなら、わたくしに話はできないわね』
エトリアは思考を巡らせる。
「だけど彼は君に相談せず、君と婚約解消をする道を選んだ。
王妃陛下は一度だけでもそうなったことをお怒りでいらしたけど、国王陛下は若い男性の生理的なこともわかってやれと王妃陛下に仰っておいでだった」
「そう……。それにしても、アロンドはいつの間にお父様お母様とそんなお話をしているの?」
「エトリアが学園にいる間は両陛下のお仕事のお手伝いをさせてもらっているんだ。とても勉強になるよ。その際、両陛下の愚痴を聞くことも……。ふふふ、たまに、ね」
両陛下が愚痴るなど余程のことである。アロンドが自分の両親に信頼されすぎていることに唖然とする。
「国王陛下は『その女は娼婦とかわらんのだから致し方あるまい』と仰っておいでだったなぁ」
エトリアはハッと我にかえる。
「わたくしも正直なところ、妊娠しているかもと聞かされるまで、気にしていなかったわ」
「王妃陛下はそれも仰っておいでだったよ。ヨネタス殿に好意があるなら男爵令嬢とのことを怒ったはずだって。それを怒らないような相手と婚姻しても幸せじゃないって」
「そういうものなのかしら?」
エトリアは小首を傾げる。
「避妊薬のお話が本当なら、セイバーナさんのお子である可能性はないのだから、わたくしとセイバーナさんとの婚約を破棄する必要はなかったのではないの?」
「避妊薬の出処がわかったのは僕が学園へ行く直前なんだよ。君は放課後にセイバーナ殿に婚約解消を話すつもりだったのに、彼らが昼休みにやらかしたから、僕から君に避妊薬について話す時間もなかったんだ」
避妊薬といってもピンからキリまであり、安価なものはほとんど意味がないと言われている。
「そうなのね。だけど……」
エトリアは真剣な顔で考えあぐねていた。
「ヨネタス殿と婚姻したかったの?」
「え!? んー、ちょっと違うわね。わたくしがヨネタス公爵家へ嫁ぐことが国の安寧の一部になると信じていたから、それがなくなったことが少し不安なの」
「今日のヨネタス公爵閣下のご様子を見る限りその心配はないよ」
「どんなご様子だったの?」
「とても恐縮なさってお可哀想なほどだった。焦燥感も悲壮感も漂わせて消えてしまいそうだったよ。
国王陛下はお怒りでなかったけど、王妃陛下のお顔をご覧になったらああなるのはわかる気がするけどね」
「お母様が? ちょっと嬉しいかも」
エトリアが小さく微笑んだ。普段は家族の前以外では無表情で有名な王妃陛下がエトリアのために怒りを前面に出していたと聞けば、どれほど愛されているのかがわかる。
アロンドはエトリアに優しい声音で話す。
「国王陛下もエトリアをずっと心配なさっていたよ。陛下はエトリアのためにヨネタス殿を試したんだ」
「試した? 何をですの?」
「君と夫婦としてやっていけるか、を、さ」
「………………どういうこと?」
エトリアは意味がわからず眉を寄せた。
「君は王女だからね、普通の男は気後れする。でも、それでは夫婦は上手くいかない。何でも相談して何でも二人で乗り越えなくっちゃ」
「そ、そんなこと……政略結婚には無意味でしょう」
「君はすぐにそうやって自分だけで背負おうとするでしょう。両陛下はそれを危惧していたよ。君は『政略結婚相手と信頼関係を築ければ僥倖』なんて言っていたけど、両陛下は『信頼関係も築けない相手とは結婚させたくない』とお考えだった」
「えっ! ……うそ」
「本当だよ。だから、ヨネタス殿があの男爵令嬢に脅された時に君に相談していれば、その場で避妊薬の話もしてあげる予定だったんだ。避妊薬の精度がわかったのは今日だけど、使っていることは調査済みだったからね」
『その時点で避妊薬について教えていただきたかったわ。でも、セイバーナさんを試すというなら、わたくしに話はできないわね』
エトリアは思考を巡らせる。
「だけど彼は君に相談せず、君と婚約解消をする道を選んだ。
王妃陛下は一度だけでもそうなったことをお怒りでいらしたけど、国王陛下は若い男性の生理的なこともわかってやれと王妃陛下に仰っておいでだった」
「そう……。それにしても、アロンドはいつの間にお父様お母様とそんなお話をしているの?」
「エトリアが学園にいる間は両陛下のお仕事のお手伝いをさせてもらっているんだ。とても勉強になるよ。その際、両陛下の愚痴を聞くことも……。ふふふ、たまに、ね」
両陛下が愚痴るなど余程のことである。アロンドが自分の両親に信頼されすぎていることに唖然とする。
「国王陛下は『その女は娼婦とかわらんのだから致し方あるまい』と仰っておいでだったなぁ」
エトリアはハッと我にかえる。
「わたくしも正直なところ、妊娠しているかもと聞かされるまで、気にしていなかったわ」
「王妃陛下はそれも仰っておいでだったよ。ヨネタス殿に好意があるなら男爵令嬢とのことを怒ったはずだって。それを怒らないような相手と婚姻しても幸せじゃないって」
「そういうものなのかしら?」
エトリアは小首を傾げる。
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