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9 猫の愛で方を教えて差し上げました
私は『猫といても怪我はしない』などという誤魔化しはしなかった。
「怪我はするかもしれません。でも、猫が嫌がることをしなければこの程度ですよ。
人だって、嫌がることをされれば攻撃的になりますでしょう?」
「そうですわよね……」
「あの、それでもよければですけど……。猫を触ってみますか?」
ゲルダリーナ様は驚いた顔で私を見た。
「よろしいんですの?
わ、わたくしなら、大丈夫ですわっ! もし怪我をしてしまっても手袋で誤魔化しますっ! 念の為、お薬をもらっていってもかまいませんわっ! わたくし、撫でてみたいのですっ!」
ゲルダリーナ様は途中から興奮なさって、私の肩下を両手でガシッと掴み、私をガクガクさせながら私を説得しようとしていた。
「わ、わかりましたわ。ゲルダリーナ様。
で、では、ランチの時にご一緒いたしましょう。
今日は午後から授業はお休みでしたよね?」
「そうですわね! 楽しみですわ」
ゲルダリーナ様はそれはもう大変嬉しそうなお顔をなさりました。
ゲルダリーナ様は保健師様に報告に行かれると言い、私とは階段の下で分かれた。
「あ、フロレントが一緒だって言うの忘れてた」
後ろを振り向くもゲルダリーナ様の姿はすでになく、私も『ま、いっかぁ』と教室へ戻った。
それから昼休みまでなんとなくドタバタして、ゲルダリーナ様にそれを伝えることはできなかった。
昼休みになり私の席に集まったフロレントとゲルダリーナ様はお互いに口を少し開けていた。
「フロレント様。わたくしがゲルダリーナ様をお誘いしましたの。ゲルダリーナ様は猫にとても興味があるそうなのですわ」
「そ、そうなんだ。知らなかったよ」
「お家の方に止められていただけのようですわ」
ゲルダリーナ様は朝のような勢いはない。照れているのか、緊張しているのかは、顔ではわからない。微笑の真顔、淑女の仮面。さすがに淑女教育がいきどどいている。
「では、まずは食堂室でランチをしましょう。猫の食事についてお話しますね」
「ああ、よろしく頼むね」
食堂室ではフロレントが私の分もゲルダリーナ様の分も、そして、私が選んだ猫の分も奢ってくれた。
食事をしながら猫の話に興じる。今日もとても楽しいランチだった。二人は私の話を真剣に聞き、私も用意してあったメモを二人に見せながら説明した。特に食べさせてはいけないものについて説明をした。
フロレントは、私の知識に感心しきりだった。本当は前世の知識だが『辺境田舎の知識』だと押し切った。
食事を終えると、フロレントが使っていたミルク皿に餌分を移し食器を返却した。そして、手洗い場へ行く。
「人間の食べるものはお塩やお砂糖などが多めに使われているのです。それを猫に与え続けると猫は病気になります」
フロレントは一生懸命にメモまでしていた。私は餌分の食べ物をジャブジャブと洗った。それを皿に戻す。
「近くに池があるので、水はいらないと思います。あくまでも外で生きている子なのでこのくらいの手助けがいいと思います」
『手助け』という言葉に二人はコクコクと頷く。教会でのボランティアに参加しているだけはあり、やり過ぎはよくないことを理解してくれているようだ。
三人で林へ来た。
「ペロぉ。ご飯持ってきたよぉ」
フロレントが林に向かって声をかけた。
『名前までつけていたのか』
私は小さく笑ってしまった。ペロと呼ばれた猫は低木の影から顔を出した。フロレントでさえまだ1週間だ。警戒が完全に解けているわけではない。
「お皿を置いて少し離れましょう」
私の指示で皿を置き後ろ向きで離れる。私達がお皿から2メートルほど離れると、ペロは近づいてきてクンクンと皿の匂いをかぐ。そして餌を食べ始めた。
「か、かわいいっ!」
ゲルダリーナ様が押し殺した感嘆の声を上げた。猫に配慮しつつ感動を消せない感じのゲルダリーナ様が可愛らしい。
フロレントがゆっくりとペロに近づいて頭を撫でた。そして、手を来い来いしてゲルダリーナ様を呼んだ。ゲルダリーナ様がそっと近寄る。
「最初は優しくね」
フロレントがゲルダリーナ様にアドバイスし、ゲルダリーナ様も頷く。ゲルダリーナ様がゆっくりとペロの頭に手を置いた。ペロが少しピクリとする。ゲルダリーナ様がピクリとして手を離す。だが、ペロはすぐに餌に集中を戻した。フロレントがもう一度と手で合図し、ゲルダリーナ様が再びゆっくりとペロの頭を触った。ペロは今度は何も反応しなかった。ゲルダリーナ様が手を少しだけ動かす。それにも反応せず餌を食べていた。どうやら、ゲルダリーナ様はペロに許されたようだ。
私は離れていたところから二人と一匹の様子を見ていた。
ゲルダリーナ様が本当に嬉しそうな笑顔だった。フロレントもそんなゲルダリーナ様を嬉しそうに見ていた。二人で何やら小さな声で話をしているようだ。ペロに話しかけているのかもしれない。
そして、ふと気がついた。
朝のゲルダリーナ様への既視感。あれはペロとゲルダリーナ様が同じ配色だったのだ。ペロは猫のくせに優しげな顔で顔つきも似ている気がする。フロレントが可愛がっていたのはゲルダリーナ様に似た猫だった。いつか二人はそれに気がつくのだろうか。
私は私も愛でたい気持ちをグッと我慢し、その場をそっと立ち去った。
〰️ 〰️ 〰️
フロレントとゲルダリーナ様に気が付かれないようにペロの林を抜けると、来たことがない場所に出てしまった。校舎は見えているのでそちらへと歩みを進めた。
『ガッシャーン!!!』
私が通り過ぎようとした脇の建物から大きな音がした。私は早足でそちらへ向かい室内へ入った。怪我人でもいたら大変だ。
そして、室内を見て唖然とした。そこは武道の鍛錬場だった。
『画面では室内だけだったから、外からでは鍛錬場ってわからなかったわよ。わかっていたら入らなかったのに』
と思ったが、あの音では気になって入ってきていただろう。
ゲームでは、鍛錬場から気合いの入ったエリアウス・ギーゼルト侯爵子息の声がして、何をしているのかと覗くところから恋が芽生えることになっている。
なのに、声などという半端なものでなく、大きな衝突音がしたのだ。
『音が違うのだから、エリアウスじゃないかもしれないし、ね』
私は気を取り直して室内をキョロキョロしながら進んだ。
そして、そこには私の期待をそっくり裏切った光景があった。
「怪我はするかもしれません。でも、猫が嫌がることをしなければこの程度ですよ。
人だって、嫌がることをされれば攻撃的になりますでしょう?」
「そうですわよね……」
「あの、それでもよければですけど……。猫を触ってみますか?」
ゲルダリーナ様は驚いた顔で私を見た。
「よろしいんですの?
わ、わたくしなら、大丈夫ですわっ! もし怪我をしてしまっても手袋で誤魔化しますっ! 念の為、お薬をもらっていってもかまいませんわっ! わたくし、撫でてみたいのですっ!」
ゲルダリーナ様は途中から興奮なさって、私の肩下を両手でガシッと掴み、私をガクガクさせながら私を説得しようとしていた。
「わ、わかりましたわ。ゲルダリーナ様。
で、では、ランチの時にご一緒いたしましょう。
今日は午後から授業はお休みでしたよね?」
「そうですわね! 楽しみですわ」
ゲルダリーナ様はそれはもう大変嬉しそうなお顔をなさりました。
ゲルダリーナ様は保健師様に報告に行かれると言い、私とは階段の下で分かれた。
「あ、フロレントが一緒だって言うの忘れてた」
後ろを振り向くもゲルダリーナ様の姿はすでになく、私も『ま、いっかぁ』と教室へ戻った。
それから昼休みまでなんとなくドタバタして、ゲルダリーナ様にそれを伝えることはできなかった。
昼休みになり私の席に集まったフロレントとゲルダリーナ様はお互いに口を少し開けていた。
「フロレント様。わたくしがゲルダリーナ様をお誘いしましたの。ゲルダリーナ様は猫にとても興味があるそうなのですわ」
「そ、そうなんだ。知らなかったよ」
「お家の方に止められていただけのようですわ」
ゲルダリーナ様は朝のような勢いはない。照れているのか、緊張しているのかは、顔ではわからない。微笑の真顔、淑女の仮面。さすがに淑女教育がいきどどいている。
「では、まずは食堂室でランチをしましょう。猫の食事についてお話しますね」
「ああ、よろしく頼むね」
食堂室ではフロレントが私の分もゲルダリーナ様の分も、そして、私が選んだ猫の分も奢ってくれた。
食事をしながら猫の話に興じる。今日もとても楽しいランチだった。二人は私の話を真剣に聞き、私も用意してあったメモを二人に見せながら説明した。特に食べさせてはいけないものについて説明をした。
フロレントは、私の知識に感心しきりだった。本当は前世の知識だが『辺境田舎の知識』だと押し切った。
食事を終えると、フロレントが使っていたミルク皿に餌分を移し食器を返却した。そして、手洗い場へ行く。
「人間の食べるものはお塩やお砂糖などが多めに使われているのです。それを猫に与え続けると猫は病気になります」
フロレントは一生懸命にメモまでしていた。私は餌分の食べ物をジャブジャブと洗った。それを皿に戻す。
「近くに池があるので、水はいらないと思います。あくまでも外で生きている子なのでこのくらいの手助けがいいと思います」
『手助け』という言葉に二人はコクコクと頷く。教会でのボランティアに参加しているだけはあり、やり過ぎはよくないことを理解してくれているようだ。
三人で林へ来た。
「ペロぉ。ご飯持ってきたよぉ」
フロレントが林に向かって声をかけた。
『名前までつけていたのか』
私は小さく笑ってしまった。ペロと呼ばれた猫は低木の影から顔を出した。フロレントでさえまだ1週間だ。警戒が完全に解けているわけではない。
「お皿を置いて少し離れましょう」
私の指示で皿を置き後ろ向きで離れる。私達がお皿から2メートルほど離れると、ペロは近づいてきてクンクンと皿の匂いをかぐ。そして餌を食べ始めた。
「か、かわいいっ!」
ゲルダリーナ様が押し殺した感嘆の声を上げた。猫に配慮しつつ感動を消せない感じのゲルダリーナ様が可愛らしい。
フロレントがゆっくりとペロに近づいて頭を撫でた。そして、手を来い来いしてゲルダリーナ様を呼んだ。ゲルダリーナ様がそっと近寄る。
「最初は優しくね」
フロレントがゲルダリーナ様にアドバイスし、ゲルダリーナ様も頷く。ゲルダリーナ様がゆっくりとペロの頭に手を置いた。ペロが少しピクリとする。ゲルダリーナ様がピクリとして手を離す。だが、ペロはすぐに餌に集中を戻した。フロレントがもう一度と手で合図し、ゲルダリーナ様が再びゆっくりとペロの頭を触った。ペロは今度は何も反応しなかった。ゲルダリーナ様が手を少しだけ動かす。それにも反応せず餌を食べていた。どうやら、ゲルダリーナ様はペロに許されたようだ。
私は離れていたところから二人と一匹の様子を見ていた。
ゲルダリーナ様が本当に嬉しそうな笑顔だった。フロレントもそんなゲルダリーナ様を嬉しそうに見ていた。二人で何やら小さな声で話をしているようだ。ペロに話しかけているのかもしれない。
そして、ふと気がついた。
朝のゲルダリーナ様への既視感。あれはペロとゲルダリーナ様が同じ配色だったのだ。ペロは猫のくせに優しげな顔で顔つきも似ている気がする。フロレントが可愛がっていたのはゲルダリーナ様に似た猫だった。いつか二人はそれに気がつくのだろうか。
私は私も愛でたい気持ちをグッと我慢し、その場をそっと立ち去った。
〰️ 〰️ 〰️
フロレントとゲルダリーナ様に気が付かれないようにペロの林を抜けると、来たことがない場所に出てしまった。校舎は見えているのでそちらへと歩みを進めた。
『ガッシャーン!!!』
私が通り過ぎようとした脇の建物から大きな音がした。私は早足でそちらへ向かい室内へ入った。怪我人でもいたら大変だ。
そして、室内を見て唖然とした。そこは武道の鍛錬場だった。
『画面では室内だけだったから、外からでは鍛錬場ってわからなかったわよ。わかっていたら入らなかったのに』
と思ったが、あの音では気になって入ってきていただろう。
ゲームでは、鍛錬場から気合いの入ったエリアウス・ギーゼルト侯爵子息の声がして、何をしているのかと覗くところから恋が芽生えることになっている。
なのに、声などという半端なものでなく、大きな衝突音がしたのだ。
『音が違うのだから、エリアウスじゃないかもしれないし、ね』
私は気を取り直して室内をキョロキョロしながら進んだ。
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