5 / 13
5 豪語する人
しおりを挟む
貴族としての責任のため妾婚になることは高位貴族令嬢であってもありえることなので憐れむ気持ちはないが、何とも言えない不快感は拭えない。
嫁ぎ先があるのに婚約者がいなかったニーナに対して疑問も持たずに遊んでいた三人はメリナとダリアーナの説明に納得できてしまい、悪い予感に青くなる。
二人からの説明にフラールが付け加える。
「その嫁ぎ先候補も全てお断りしたそうですのよ。ヘンリ男爵様―ニーナの父親―が豪語して回っているようですわ」
「「「豪語!!??」」」
「何を豪語しているというのだっ!」
コンジュが声を荒げる。
「愛娘のニーナ様が、公爵家の第二夫人か、侯爵家の第二夫人になることが決まったのだと嬉しそうに言って回っております」
第二夫人の存在は、貴族の後継者問題があるために法としては許されている。だが、それは第一夫人との間に三年間子供が生まれなかったら許可されるというものである。また、第一夫人の管理下で許可されるもので、第二夫人は出産後、子供を第一夫人に預けて領地の別荘で優雅に生活するようになる人も多くいるようだ。
また、第一夫人との間に子はできぬとも養子をもらうなり、親戚縁者に譲るなり、やりようはいくらでもある。昨今では第二夫人を持つ者は珍しいほどである。
予感が的中して三人は蹌踉めいた。『学生時代の戯れ』としか考えていなかった自分たちに寒気が走る。
「この時期に名前の出る『公爵家』や『侯爵家』がどなたを示すものか……。みなが知っておりますわ」
「ニーナ様がわたくしどもとお話しされることに抵抗感がないことも、ご自分が第二夫人となると信じていらっしゃるからではないのですか?」
普通の恋人であったなら、婚約者がいる男性を選ぶはずはないし、それでも惹かれた相手に婚約者がいたのなら、その婚約者を敵対視するか罪悪感で別れるかをするはずである。
ニーナのようにフラールたちにもたらされたドレスや領地の情報を喜んだり、フラールたちの婚約者と堂々と腕を組むなど普通ではない。
フラールたちの言い分があまりに的確で三人は気が遠くなる気分になった。
「婚姻前から第二夫人が決定しているなど、聞いたことがありませんわっ」
「タイミングとしては、第一夫人との婚姻と第二夫人との契約は同時になりそうですわねぇ」
「「「全くもってありえませんわっ!」」」
三人は近くの椅子に手を乗せ、何とか倒れることを防いでいた。
「ましてや醜聞はすぐに噂になるものです。皆様のご両親のお耳にも入っていたのではなくて?」
『両親』という言葉に、美男子三人はビクッと肩を震わせた。今日ここに駆けつけた発端は『両親』からの言葉だったのだから。
「おぉまぁたぁせぇ! お茶をしながらこれからの計画を煮詰めていこう!」
キャピキャピした声のニーナが四人分のお茶をフラールたちから少し離れた席に置いた。
「「「ニーナっ! 『これから』はないっ(ないよっ)!」」」
「「「それは酷いですわっ!」」」「えっー!」
美少女四人―ニーナも美少女だ―から批判の声があがる。これ以上婚約者を怒らせたくない三人は口を噤む他にできることはなかった。
そこに美男子たちにとって救世主かと思われる声が響く。
「ニーナ・ヘンリはここにいるかね?」
ニーナの担任教師が学生寮の食堂に現れて一様にびっくりしたようだが、すぐに現在注目中のニーナまでの道がザザザと開かれた。
担任教師は真顔でニーナの隣までカツカツと靴を鳴らしてやって来ると静かに告げた。
「ニーナ・ヘンリ。君の父上が到着した。すぐに学園へ来なさい」
いつもはにこやかで穏やかな教師であることを知っている生徒たちは何事だと驚いた。
「へ? お父様が?」
ニーナは小首を右に傾げてわからないというジェスチャーをした。
嫁ぎ先があるのに婚約者がいなかったニーナに対して疑問も持たずに遊んでいた三人はメリナとダリアーナの説明に納得できてしまい、悪い予感に青くなる。
二人からの説明にフラールが付け加える。
「その嫁ぎ先候補も全てお断りしたそうですのよ。ヘンリ男爵様―ニーナの父親―が豪語して回っているようですわ」
「「「豪語!!??」」」
「何を豪語しているというのだっ!」
コンジュが声を荒げる。
「愛娘のニーナ様が、公爵家の第二夫人か、侯爵家の第二夫人になることが決まったのだと嬉しそうに言って回っております」
第二夫人の存在は、貴族の後継者問題があるために法としては許されている。だが、それは第一夫人との間に三年間子供が生まれなかったら許可されるというものである。また、第一夫人の管理下で許可されるもので、第二夫人は出産後、子供を第一夫人に預けて領地の別荘で優雅に生活するようになる人も多くいるようだ。
また、第一夫人との間に子はできぬとも養子をもらうなり、親戚縁者に譲るなり、やりようはいくらでもある。昨今では第二夫人を持つ者は珍しいほどである。
予感が的中して三人は蹌踉めいた。『学生時代の戯れ』としか考えていなかった自分たちに寒気が走る。
「この時期に名前の出る『公爵家』や『侯爵家』がどなたを示すものか……。みなが知っておりますわ」
「ニーナ様がわたくしどもとお話しされることに抵抗感がないことも、ご自分が第二夫人となると信じていらっしゃるからではないのですか?」
普通の恋人であったなら、婚約者がいる男性を選ぶはずはないし、それでも惹かれた相手に婚約者がいたのなら、その婚約者を敵対視するか罪悪感で別れるかをするはずである。
ニーナのようにフラールたちにもたらされたドレスや領地の情報を喜んだり、フラールたちの婚約者と堂々と腕を組むなど普通ではない。
フラールたちの言い分があまりに的確で三人は気が遠くなる気分になった。
「婚姻前から第二夫人が決定しているなど、聞いたことがありませんわっ」
「タイミングとしては、第一夫人との婚姻と第二夫人との契約は同時になりそうですわねぇ」
「「「全くもってありえませんわっ!」」」
三人は近くの椅子に手を乗せ、何とか倒れることを防いでいた。
「ましてや醜聞はすぐに噂になるものです。皆様のご両親のお耳にも入っていたのではなくて?」
『両親』という言葉に、美男子三人はビクッと肩を震わせた。今日ここに駆けつけた発端は『両親』からの言葉だったのだから。
「おぉまぁたぁせぇ! お茶をしながらこれからの計画を煮詰めていこう!」
キャピキャピした声のニーナが四人分のお茶をフラールたちから少し離れた席に置いた。
「「「ニーナっ! 『これから』はないっ(ないよっ)!」」」
「「「それは酷いですわっ!」」」「えっー!」
美少女四人―ニーナも美少女だ―から批判の声があがる。これ以上婚約者を怒らせたくない三人は口を噤む他にできることはなかった。
そこに美男子たちにとって救世主かと思われる声が響く。
「ニーナ・ヘンリはここにいるかね?」
ニーナの担任教師が学生寮の食堂に現れて一様にびっくりしたようだが、すぐに現在注目中のニーナまでの道がザザザと開かれた。
担任教師は真顔でニーナの隣までカツカツと靴を鳴らしてやって来ると静かに告げた。
「ニーナ・ヘンリ。君の父上が到着した。すぐに学園へ来なさい」
いつもはにこやかで穏やかな教師であることを知っている生徒たちは何事だと驚いた。
「へ? お父様が?」
ニーナは小首を右に傾げてわからないというジェスチャーをした。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
1,682
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる