【完結】虐げられた男爵令嬢はお隣さんと幸せになる[スピラリニ王国1]

宇水涼麻

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21 新年パーティー

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 ベルティナは夜中に2度悲鳴と共に目を覚ました。セリナージェは、そのたびにベルティナの背を擦り、『大丈夫よ。大丈夫よ』と語りたかけた。

〰️ 〰️ 〰️

 翌日、寮の共同談話室に、ティエポロ侯爵夫妻が来た。セリナージェと話をしている。

「ベルティナはどうだ?」

「眠っているわ。昨夜は何度か悪夢で目が覚めたみたい。保健室から寝るお薬をもらったわ」

「そう、あなたがそばにいてくれてよかったわ。引き取ったばかりの時も、悲鳴を上げながら起き上がったりしていたの。記憶が鮮明に蘇ってしまったのかもしれないわ」

 ティエポロ侯爵夫人は、セリナージェの手を握った。瞳は悲しみに濡れていた。

「そのための家族だ。屋敷に戻ってくるか?」

 ティエポロ侯爵の口調は、とても優しいものだった。

「ううん、今、ベルティナを動かしたくないし、このままでいいわ」

 セリナージェの『ベルティナは自分が守る』という強い意思を感じられて、両親は頷いた。


「あの後、男爵はどうなったの?」

「以前、金を払ってベルティナを買ったはずだと、言ってやったさ。これ以上ベルティナに関わるなら、うちの州からは出ていってもらうとも伝えた。うちの州を首になれば、どの州も管理者として雇ってくれるわけがない。もう、来ないだろうさ」

 ティエポロ侯爵は、打って変わって、厳しい口調厳しい表情で説明した。

「ほっ、よかったわ」

 セリナージェは、心から、ホッとした。

「セリナ、あなたは寝むれているの?」

 ティエポロ侯爵夫人は、少しだけ眉尻を下げて、セリナージェの心配をした。

「お母様、ありがとう。大丈夫よ。学園はお休みにしてるの。ベルティナが元気になったら、また頑張るわ。心配しないでね」

 セリナージェは、ティエポロ侯爵夫人にガッツポーズをしてみせた。

「あなたも大人になっているのね」

 ティエポロ侯爵夫人は、セリナージェを眩しそうに見て、少し笑顔になった。

「私は今、ベルティナが私にしてきてくれたことをしているだけよ」

「そうか、わかった。じゃあ、ベルティナのことは任せたぞ」

 ティエポロ侯爵は、セリナージェの肩を叩いた。

「うん!」

 セリナージェは、父親ティエポロ侯爵から聞いたことをベルティナに話した。ベルティナはまた泣いた。

〰️ 〰️ 〰️ 

 それから3日後、ベルティナはセリナージェともにクラスに戻った。まだ笑顔はぎこちないが、普段の生活に戻れば、回復するだろう。

 ベルティナとセリナージェで、ロゼリンダにお礼に行くと、ロゼリンダに笑顔で3人でのお茶会の約束をさせられた。

 放課後になると、エリオたちは教室を出てから女子寮の玄関にベルティナとセリナージェが入るまで、決して離れることはしなかった。朝も女子寮の前まで、迎えに来た。
 エリオは、ベルティナに危害を加える者を近づけさせたくなかったのだ。

 ロゼリンダとのお茶会は、とても楽しく、それ以来、月に二度ほど行うようになった。3度目には、ベルティナのお願いで、フィオレラとジョミーナを招待して、二人とも蟠りをなくすことができた。


〰️ 〰️ 〰️


 明日から短い冬休みだ。ベルティナの心の傷もすっかり癒えて、笑顔が戻っていた。

「セリナ、ベルティナ、実は、僕たち、新年のパーティーに呼ばれたんだよ。セリナとベルティナには、僕たちのパートナーをお願いしたいんだけど」

 エリオからのお誘いだった。

「いいわよ。イルミネはどうするの?」

「俺の役割は騎士だからね、パートナーはなくても大丈夫!」

 イルミネが、親指を立てて、グッとポーズをした。

 ベルティナは、はっと思い出した。

『いつか感じた違和感だ。でも、あの頃と違って、私はエリオを信じている。違和感を感じさせる何かは、理由があってのことだろう。いつか話てもらえればいい』

そう考え直して、何も言わなかった。


〰️ 〰️ 〰️


 そして、パーティー当日、ベルティナとセリナージェは、口を開けて、建物を見上げていた。



 確かに新年のパーティーのパートナーは頼まれた。
『1番おしゃれをしてきて』とも言われたし、
『ドレスは間に合わなかったから』と言われて送られたのはすごいアクセサリーだったし、
それに合わせてお姉様方がドレスを貸してくれたり、髪をセットしてくれたり、お化粧もしてくれた。

 双子のお姉様たちが、ベルティナたちの年の頃に着ていたというドレスを簡単に仕立て直ししたものを着ているので、ベルティナとセリナージェはまるで双子のようだった。

 迎えに来てくれたエリオとクレメンティは、とっても喜んでくれたし、すごく褒めてくれたし、二人が贈ってくれたアクセサリーもまるで双子のようだったので、ちょうどよかった。

 だ・け・ど、エリオとクレメンティとともに、会場に到着してみれば、そこは王城であった。

「ねぇ、ベルティナ、お姉様方は知っていたわねぇ」

 二人とも、随分と大人びた化粧をしてくれるのだなと思っていた。

「ということは、お義父様お義母様もご存知ねぇ」

 ティエポロ侯爵夫人が、『また後でね』と笑顔で言っていた。

「「ふぅ………」」

 二人は顔を合わせて、再び王城を見上げた。そんな二人を、イルミネがクスクスと笑って見ていた。

 エリオとクレメンティがそれぞれエスコートのため腕を差し出す。ベルティナもセリナージェも『女は度胸!』とその腕に手を置いた。

「ベルティナ、約束してほしいんだ。これから、何が起こっても、僕を信じてほしい」

 エリオの腕に通されたベルティナの手をエリオはギュッと握った。まるで逃さないと言われているようだ。

「これ以上まだ何かあるの?
ふぅ、でも、もういいわ。ストックの丘でも、そう言われたし。私はエリオを信じているわよ」

「うん!何があっても君を守ると誓うし、隣にいてほしいのは、君だけだから」

 エリオは、ベルティナに力強く頷いた。

「ありがとう、エリオ。私もあなたの隣にいたいわ」

 ベルティナは、心からエリオに微笑むことができた。

「よし、じゃあ行こう!」

 大きな扉の前にたくさんの人が溢れ、文官の紹介とともに、会場入りしていく。
 前には、ランレーリオとロゼリンダがいて、ロゼリンダがこちらに手を振っている。ベルティナとセリナージェが手を振り返す。
 その前あたりにティエポロ侯爵夫妻と兄夫妻がいるはずだが、人混みで見えない。
 伯爵家以上は、成人している者は呼ばれているので、お姉様たちも前の方にはいるはずだ。自分たちも参加するのに、ベルティナとセリナージェのお支度のお手伝いをしてくれたお姉様たちには、とても感謝している。

 身分の低い者から入場なのだが、エリオは子爵(ベルティナはエリオは子爵でないだろうと思っているが)でも海外からのお客様だ。公爵子息のランレーリオより後になるのだろう。

 『私たちはレムの前かしらね』

 ベルティナは、そう考えて待っていた。


 残るはクレメンティ組とエリオ組だけになった。

「ピッツォーネ王国より、お越しいただきました、ガットゥーゾ公爵家クレメンティ様、お連れ様はティエポロ侯爵家セリナージェ様でございます」

 文官が紹介文を先に読んだのは、クレメンティだった。

「え?」

 ベルティナは少しだけびっくりしたし、セリナージェはベルティナをチラチラ見ていた。しかし、セリナージェのすぐ目の前は会場だ。ティエポロ侯爵家の令嬢としても恥をかくわけにはいかない。

 大きな拍手の中、クレメンティとセリナージェが進む。セリナージェは、クレメンティと目を合わせてから、笑顔を取り戻せたようだ。


 一人残されたベルティナは、人知れずその順番にため息が出る。そんなことを知らない文官は、先に進める。

「最後でございます。ピッツォーネ王国より、お越しいただきました、ピッツォーネ王家エリージオ第三王子殿下。お連れ様は、ティエポロ侯爵家ベルティナ様でございます。お付きは、マーディア伯爵家イルミネ様でございます」

 クレメンティたちより、さらに大きな拍手で迎えられた。

「ベルティナ、大丈夫だから、ね」

 エリオの声を聞いたら、ベルティナは全く平気になった。『この人を信じるのだもの』ベルティナの心は決まっていた。

「ええ、知ってるわ」

 ベルティナが笑顔でエリオにそう答えると、後ろのイルミネが、小さく吹き出した。エリオも笑顔で返した。

 エリオとベルティナが腕を組んで前へ進み、後ろにはイルミネがついている。イルミネが入場すると大扉が閉まる。3人は王族が立つ予定の舞台の真ん前まで進んだ。
 
「それでは、スピラリニ王国国王陛下並びに王妃殿下、並びに王子殿下王女殿下のご入場です」

 文官の進行に、会場全体が頭を垂れる。楽団が美しい音楽を奏で、舞台の上に貫禄のある面々が現れた。音楽が止む。

「みな、面をあげてくれ」

 『ザッ!』国王陛下へと向く。ベルティナが初めて近くで見た国王陛下は、とても堂々としていて、年若いはずなのに、とても貫禄があった。

「みなのお陰で、また新しい年を迎えることができた。感謝している。今宵は存分に楽しんでほしい」

 『ザッ!』会場全体が頭を垂れる。

 国王陛下が手で合図を送れば、優雅な曲が、話し声を邪魔しない程度に流れる。
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