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20 元凶
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しかし、喜びもつかの間、ある日の放課後、ベルティナとセリナージェが、学園から寮へ戻る途中、不幸の元凶に呼び止められた。
「ベルティナ!」
怒鳴りながらドシドシと音がしそうな歩き方で近づいてきたのは、タビアーノ男爵、ベルティナの血の繋がった父親だった。
「お前、親に許可も得ず、他人と養子縁組するとはどういうことだっ!こんのぉ!裏切り者がぁっ!」
タビアーノ男爵は、怒鳴り散らしながら、ベルティナの襟元を掴んで、ベルティナを数センチ持ち上げた。ベルティナは、幼い頃、襟元を掴まれ、何度も何度も頬を叩かれたことがフラッシュバックして、震え上がってしまった。
「きゃー!!助けてぇ!」
セリナージェの声に、衛兵が即座に駆けつける。近くにいたエリオたちも、駆けつけた。衛兵によって、タビアーノ男爵とベルティナは引き離されたが、ベルティナは、その場に頭を抱えて震えていた。タビアーノ男爵は、ずっと喚いている。
エリオたちは、二人の間に立ちふさがり、セリナージェは、ベルティナを抱きしめて、ベルティナの耳を塞ぎ、ベルティナからタビアーノ男爵が見えないようにした。
ベルティナのこんな様子をみたのは、あの湖以来だ。いや、湖の時以上だ。セリナージェは、ベルティナが幼少期に受けていた虐待がどれほどひどいものであったかを改めて知り、タビアーノ男爵に憎しみの目を向けた。
学園長が来て、タビアーノ男爵は、学園長室に連れていかれ、ティエポロ侯爵も王城から呼ばれることになった。
タビアーノ男爵が連れていかれたので、寮へ戻ろうと、セリナージェはベルティナを立たせた。
「大丈夫ですか?」
1番に駆けつけてくれた衛兵が声をかけてきた。
「いやぁー!」
ベルティナが再び、しゃがみこんで頭を抱えて震えてしまった。衛兵はとてもびっくりしていた。エリオが衛兵に、大丈夫だと言って下がってもらった。しばらくして、セリナージェがベルティナを抱くようにして、女子寮へと入って行った。
セリナージェは、3人に、共同談話室で話をすることを約束して、ベルティナを部屋へと連れて行った。ベルティナは立つのもやっとで、ふらふらした足元をセリナージェが必死で支えていた。そこにロゼリンダがかけてきて、ベルティナの片方を支えた。二人でなんとか、ベルティナを部屋まで運んだ。
ロゼリンダは、何も聞かず、でも悲しげに微笑んで、ベルティナの部屋をあとにした。
今のベルティナの目には何も映っていなかった。セリナージェは、いつも自分が悲しんだ時や拗ねている時にベルティナがやってくれていたように、ベルティナに着替えをさせ、水を飲ませ、ベッドへと連れていき、ベルティナが寝るまでそばで手を握っていた。ベルティナは、まるで糸が切れたようにすぐに眠りについた。
〰️
共同談話室。
セリナージェは、自分も先日姉たちから聞いたばかりで、実際に、ベルティナがおかしくなったのを見たのは、あの湖以来、初めてだということを前置きして、3人に説明した。
「タビアーノ男爵領で暮らしていたときには、食事もまともじゃなくて、肋骨が見えるほど痩せていたそうなの。お姉様たちが始めて会ったときには、ベルティナは目も落ち窪んでいたって、お姉様たちから聞いたわ」
『バン!』エリオがテーブルを叩いた。
「そんなの!浮浪孤児じゃないかっ!」
イルミネがエリオを抑える。
「暴力は毎日だったらしいわ。うちに来たときには、全身真っ青だったって聞いたわ。あまりの酷さに、私に合わせられないと、別棟で3週間療養していたのですって。だから、私だけベルティナが虐待されていたって知らなかったの」
セリナージェは泣きそうなのを我慢して説明を続けた。クレメンティが、そっと椅子を近づけて、すぐ隣に座る。足と足が触れられる距離に来てくれた。人の温もりを感じると頑張れる。
「俺、ベルティナの明るさからそんなこと想像もしなかった」
「だが、あの震えている姿を見れば、セリナの言うことが本当だと誰でもわかる」
イルミネもクレメンティも沈痛な顔をしていた。
「私、初めてベルティナに会ったとき、すごく痩せている子だなぁっていうのと、すごく短い髪の子だなぁっていうことしか、わからなかったの」
「髪?」
エリオが訝しむ。
「ええ、まるで男の子みたいに短くしていたの。髪に泥がこびりついて取れなくて散切り髪にされたのをうちで整えたから短かかったのですって」
「か…み………?女の子の命じゃないのか?……」
イルミネがショックを受けていた。
「私、ベルティナと出会って、初等学校をやめて家庭教師になったのね。あれって、ベルティナの髪をうちの両親が気にしたからなのね。今更気がついたわ。友達として最低ね」
セリナージェがポロリと涙をこぼした。
「それは違うぞ、セリナ。君のご両親は、君にベルティナの純粋な友達であってほしかったのではないかな。だから、内緒にしていたのだろう」
クレメンティが、セリナの背を擦った。
「さっきのベルティナ………胸倉を掴まれた瞬間にベルティナの様子が激変したわ。きっと、そうやって、何度も何度も殴られてきたのよ」
セリナージェは、その様子を想像して、ブルッと震えた。クレメンティがセリナージェの手を握る。セリナージェがクレメンティを見ると、クレメンティも悲しそうな瞳をしていた。
「みんなは、夏休みの湖のことを覚えている?ベルティナが泳げなかったこと」
「ああ、もちろん、覚えているよ」
エリオが、まるで自分も痛みを感じているように顔を歪めた。実はエリオにとっては、まだ気にしている事案であった。
「ベルティナは、男爵家の池に何度も何度も落とされて、顔を沈めれたこともあるのですって」
「それって、人殺しじゃないか……」
イルミネは目を見開いているがどこにも定まっていない。
イルミネの頭には、パニックが収まらないベルティナを横抱きにするエリオの背中が鮮明に浮かんでいた。『あの時、俺も側にいれば…』口に出したことはないが、実はイルミネにとっても、まだ気にしている事案だったのだ。
「ま、まさか、そんなことするやつが?そんなやつが、親なのか?」
エリオは、無意識に眉根をギュッと寄せていた。
「ええそうよ。ベルティナは、実は今でも顔が洗えないんですって。毎日、タオルで拭いているそうよ。手で汲んだ水を顔に近づけることができないそうなの。その手が母親や姉の手に見えるのですって」
「え?それって、母親も、姉も、やっていたってこと?」
俯いていたイルミネがあまりの驚きにセリナージェの顔を見た。
「父親、母親、兄、姉、使用人。11歳のベルティナより年上の者、すべてから、よ」
「信じられん」
クレメンティは拳を握りしめていた。
「それで、あいつは何をしに来たんだ」
エリオの声は震え、目は血走り、拳は真っ白になるほど、強く握られていた。
「私の両親がベルティナをあの家に戻したくないからって、ベルティナを我が家の養子にしたのよ。誕生日の当日に書類を提出するって言っていたから、もう受理されたはずよ。
恐らく、確認の手紙がタビアーノ家に届いたのだと思うわ。あの人、ベルティナを裏切り者って言ってたから」
エリオが小さく息を吐いた。
「そうか、ベルティナは今、ティエポロ侯爵家の者になって、守られていたのか。よかった。
それにしても、勝手な男だ。いや、勝手な家族か。ベルティナを金だとでも思っているのか?」
「ええ、私の両親も、ベルティナの扱いがそうされることを恐れていたわ。だからこその、養子縁組なの」
「なるほどね、奴隷扱いされることが、ティエポロ侯爵殿には、見えていたってことか」
イルミネも小さく息を吐いた。少しだけホッとしたようだ。
「もしかしたら、私たち、数日、学園をおやすみするかもしれないわ。でも、心配しないでね」
「ああ、その方がいいだろう。ベルティナのそばにいてやった方がいい」
クレメンティは、励ますように、セリナージェの肩に手を置いた。
「セリナ、よろしく頼む」
エリオがセリナージェに頭を下げる。
「さっき、言ったでしょう。ベルティナは、私のお姉様になったのよ。任せておいてっ!じゃあ、もう、ベルティナのところに戻るわね。いつ目が覚めるともわからないし」
〰️ 〰️ 〰️
3人はエリオの部屋にいた。
「イル、夏休みの執事長たちの話を覚えているか?」
「何の話だ?」
イルミネがクレメンティに説明した。
「あの時、17歳のベルティナではなく、11歳のベルティナが、それぞれやったことや言ったことだと話されて、違和感があったんだ」
エリオはあの時の違和感を思い出すように目を閉じた。
「確かにね、11歳では、メイドや執事や、さらに庭師や料理人まで。その存在の大切さに気がつくのは早すぎる」
イルミネは、自分の11歳を思い返してみた。悪ガキで使用人たちに迷惑をかけていた自分と想像のベルティナを比べていた。
「それまで受けたことのないことだったから、シーツの匂いに喜べたってことか………」
クレメンティは幼い頃からいい子だった。しかし、流石にシーツの匂いに喜んだことなどない。
「ああ、食事も、な……」
エリオは、肋骨が見えるほど痩せている少女を想像しただけで、眉根が寄っていく。
「虐待か、かなり壮絶だったのかもしれないね。そして、侯爵家の使用人たちは、それを知っている。ベルティナが、使用人たちの仕事を喜ぶ理由を知っているから、泣いていたのかな……」
イルミネはティエポロ侯爵邸の使用人たちを思い出して、悲しくなった。
「それでも、今のベルティナはそれを糧に優しく逞しくなってる!」
クレメンティは、強く主張した。
「そうだな。今のベルティナがいるのは、昔のベルティナがいるからだ。
でも、だからといって、やってた奴らは、許せないけど、ね」
エリオは、頭の中のタビアーノ男爵に冷たい視線をぶつけていた。
「ベルティナ!」
怒鳴りながらドシドシと音がしそうな歩き方で近づいてきたのは、タビアーノ男爵、ベルティナの血の繋がった父親だった。
「お前、親に許可も得ず、他人と養子縁組するとはどういうことだっ!こんのぉ!裏切り者がぁっ!」
タビアーノ男爵は、怒鳴り散らしながら、ベルティナの襟元を掴んで、ベルティナを数センチ持ち上げた。ベルティナは、幼い頃、襟元を掴まれ、何度も何度も頬を叩かれたことがフラッシュバックして、震え上がってしまった。
「きゃー!!助けてぇ!」
セリナージェの声に、衛兵が即座に駆けつける。近くにいたエリオたちも、駆けつけた。衛兵によって、タビアーノ男爵とベルティナは引き離されたが、ベルティナは、その場に頭を抱えて震えていた。タビアーノ男爵は、ずっと喚いている。
エリオたちは、二人の間に立ちふさがり、セリナージェは、ベルティナを抱きしめて、ベルティナの耳を塞ぎ、ベルティナからタビアーノ男爵が見えないようにした。
ベルティナのこんな様子をみたのは、あの湖以来だ。いや、湖の時以上だ。セリナージェは、ベルティナが幼少期に受けていた虐待がどれほどひどいものであったかを改めて知り、タビアーノ男爵に憎しみの目を向けた。
学園長が来て、タビアーノ男爵は、学園長室に連れていかれ、ティエポロ侯爵も王城から呼ばれることになった。
タビアーノ男爵が連れていかれたので、寮へ戻ろうと、セリナージェはベルティナを立たせた。
「大丈夫ですか?」
1番に駆けつけてくれた衛兵が声をかけてきた。
「いやぁー!」
ベルティナが再び、しゃがみこんで頭を抱えて震えてしまった。衛兵はとてもびっくりしていた。エリオが衛兵に、大丈夫だと言って下がってもらった。しばらくして、セリナージェがベルティナを抱くようにして、女子寮へと入って行った。
セリナージェは、3人に、共同談話室で話をすることを約束して、ベルティナを部屋へと連れて行った。ベルティナは立つのもやっとで、ふらふらした足元をセリナージェが必死で支えていた。そこにロゼリンダがかけてきて、ベルティナの片方を支えた。二人でなんとか、ベルティナを部屋まで運んだ。
ロゼリンダは、何も聞かず、でも悲しげに微笑んで、ベルティナの部屋をあとにした。
今のベルティナの目には何も映っていなかった。セリナージェは、いつも自分が悲しんだ時や拗ねている時にベルティナがやってくれていたように、ベルティナに着替えをさせ、水を飲ませ、ベッドへと連れていき、ベルティナが寝るまでそばで手を握っていた。ベルティナは、まるで糸が切れたようにすぐに眠りについた。
〰️
共同談話室。
セリナージェは、自分も先日姉たちから聞いたばかりで、実際に、ベルティナがおかしくなったのを見たのは、あの湖以来、初めてだということを前置きして、3人に説明した。
「タビアーノ男爵領で暮らしていたときには、食事もまともじゃなくて、肋骨が見えるほど痩せていたそうなの。お姉様たちが始めて会ったときには、ベルティナは目も落ち窪んでいたって、お姉様たちから聞いたわ」
『バン!』エリオがテーブルを叩いた。
「そんなの!浮浪孤児じゃないかっ!」
イルミネがエリオを抑える。
「暴力は毎日だったらしいわ。うちに来たときには、全身真っ青だったって聞いたわ。あまりの酷さに、私に合わせられないと、別棟で3週間療養していたのですって。だから、私だけベルティナが虐待されていたって知らなかったの」
セリナージェは泣きそうなのを我慢して説明を続けた。クレメンティが、そっと椅子を近づけて、すぐ隣に座る。足と足が触れられる距離に来てくれた。人の温もりを感じると頑張れる。
「俺、ベルティナの明るさからそんなこと想像もしなかった」
「だが、あの震えている姿を見れば、セリナの言うことが本当だと誰でもわかる」
イルミネもクレメンティも沈痛な顔をしていた。
「私、初めてベルティナに会ったとき、すごく痩せている子だなぁっていうのと、すごく短い髪の子だなぁっていうことしか、わからなかったの」
「髪?」
エリオが訝しむ。
「ええ、まるで男の子みたいに短くしていたの。髪に泥がこびりついて取れなくて散切り髪にされたのをうちで整えたから短かかったのですって」
「か…み………?女の子の命じゃないのか?……」
イルミネがショックを受けていた。
「私、ベルティナと出会って、初等学校をやめて家庭教師になったのね。あれって、ベルティナの髪をうちの両親が気にしたからなのね。今更気がついたわ。友達として最低ね」
セリナージェがポロリと涙をこぼした。
「それは違うぞ、セリナ。君のご両親は、君にベルティナの純粋な友達であってほしかったのではないかな。だから、内緒にしていたのだろう」
クレメンティが、セリナの背を擦った。
「さっきのベルティナ………胸倉を掴まれた瞬間にベルティナの様子が激変したわ。きっと、そうやって、何度も何度も殴られてきたのよ」
セリナージェは、その様子を想像して、ブルッと震えた。クレメンティがセリナージェの手を握る。セリナージェがクレメンティを見ると、クレメンティも悲しそうな瞳をしていた。
「みんなは、夏休みの湖のことを覚えている?ベルティナが泳げなかったこと」
「ああ、もちろん、覚えているよ」
エリオが、まるで自分も痛みを感じているように顔を歪めた。実はエリオにとっては、まだ気にしている事案であった。
「ベルティナは、男爵家の池に何度も何度も落とされて、顔を沈めれたこともあるのですって」
「それって、人殺しじゃないか……」
イルミネは目を見開いているがどこにも定まっていない。
イルミネの頭には、パニックが収まらないベルティナを横抱きにするエリオの背中が鮮明に浮かんでいた。『あの時、俺も側にいれば…』口に出したことはないが、実はイルミネにとっても、まだ気にしている事案だったのだ。
「ま、まさか、そんなことするやつが?そんなやつが、親なのか?」
エリオは、無意識に眉根をギュッと寄せていた。
「ええそうよ。ベルティナは、実は今でも顔が洗えないんですって。毎日、タオルで拭いているそうよ。手で汲んだ水を顔に近づけることができないそうなの。その手が母親や姉の手に見えるのですって」
「え?それって、母親も、姉も、やっていたってこと?」
俯いていたイルミネがあまりの驚きにセリナージェの顔を見た。
「父親、母親、兄、姉、使用人。11歳のベルティナより年上の者、すべてから、よ」
「信じられん」
クレメンティは拳を握りしめていた。
「それで、あいつは何をしに来たんだ」
エリオの声は震え、目は血走り、拳は真っ白になるほど、強く握られていた。
「私の両親がベルティナをあの家に戻したくないからって、ベルティナを我が家の養子にしたのよ。誕生日の当日に書類を提出するって言っていたから、もう受理されたはずよ。
恐らく、確認の手紙がタビアーノ家に届いたのだと思うわ。あの人、ベルティナを裏切り者って言ってたから」
エリオが小さく息を吐いた。
「そうか、ベルティナは今、ティエポロ侯爵家の者になって、守られていたのか。よかった。
それにしても、勝手な男だ。いや、勝手な家族か。ベルティナを金だとでも思っているのか?」
「ええ、私の両親も、ベルティナの扱いがそうされることを恐れていたわ。だからこその、養子縁組なの」
「なるほどね、奴隷扱いされることが、ティエポロ侯爵殿には、見えていたってことか」
イルミネも小さく息を吐いた。少しだけホッとしたようだ。
「もしかしたら、私たち、数日、学園をおやすみするかもしれないわ。でも、心配しないでね」
「ああ、その方がいいだろう。ベルティナのそばにいてやった方がいい」
クレメンティは、励ますように、セリナージェの肩に手を置いた。
「セリナ、よろしく頼む」
エリオがセリナージェに頭を下げる。
「さっき、言ったでしょう。ベルティナは、私のお姉様になったのよ。任せておいてっ!じゃあ、もう、ベルティナのところに戻るわね。いつ目が覚めるともわからないし」
〰️ 〰️ 〰️
3人はエリオの部屋にいた。
「イル、夏休みの執事長たちの話を覚えているか?」
「何の話だ?」
イルミネがクレメンティに説明した。
「あの時、17歳のベルティナではなく、11歳のベルティナが、それぞれやったことや言ったことだと話されて、違和感があったんだ」
エリオはあの時の違和感を思い出すように目を閉じた。
「確かにね、11歳では、メイドや執事や、さらに庭師や料理人まで。その存在の大切さに気がつくのは早すぎる」
イルミネは、自分の11歳を思い返してみた。悪ガキで使用人たちに迷惑をかけていた自分と想像のベルティナを比べていた。
「それまで受けたことのないことだったから、シーツの匂いに喜べたってことか………」
クレメンティは幼い頃からいい子だった。しかし、流石にシーツの匂いに喜んだことなどない。
「ああ、食事も、な……」
エリオは、肋骨が見えるほど痩せている少女を想像しただけで、眉根が寄っていく。
「虐待か、かなり壮絶だったのかもしれないね。そして、侯爵家の使用人たちは、それを知っている。ベルティナが、使用人たちの仕事を喜ぶ理由を知っているから、泣いていたのかな……」
イルミネはティエポロ侯爵邸の使用人たちを思い出して、悲しくなった。
「それでも、今のベルティナはそれを糧に優しく逞しくなってる!」
クレメンティは、強く主張した。
「そうだな。今のベルティナがいるのは、昔のベルティナがいるからだ。
でも、だからといって、やってた奴らは、許せないけど、ね」
エリオは、頭の中のタビアーノ男爵に冷たい視線をぶつけていた。
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