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40 冬の風物詩
室内釣り堀『新昭園芸』で遊んだ翌日、『めとはな』に買い物に行った水萌里が従業員鹿野に室内釣りが楽しかった報告をした。『こみゅーん』ミユキを通して顔見知りになった鹿野とは同世代なのでよく話をする。
「え! 田中さん、『新昭園芸』に行ったんですか? あそこ最高ですよねぇ。もう楽しくて楽しくて、私、一人で行っちゃうんですよぉ。エビとか釣れちゃうってほんとに面白い」
声をかけてきたのは『めとはな』のもう一人の従業員マイである。
「エビ? それはやってないわ。私たちあまり上手くできなくて金魚しか釣れなかったの」
「そうなんですね。初めてだったならしかたないです。でも慣れればこういうのも釣れますよ」
マイが見せてくれた写真はたしかに『新昭園芸』で、おそらく十センチほどと思われるエビが写っていた。
『まだ二十代のマイちゃんが一人で楽しめる釣りは魅力的な遊びってことね。また行きたい』
水萌里はお弁当を選び始めた。最近の水萌里のお気に入りは『昇月ビアスタンド』のミニ懐石弁当である。お魚もお肉も入っていて鰻やサラダに煮物、『昇月ビアスタンド』定番の卵焼きはもちろん入っている。味の違う三種類のミニおにぎりも水萌里の好みだ。
「あ……母さん……」
水萌里が振り向くと洋太がバツの悪そうな顔で頭をかいている。
「いらっしゃい! う巻き卵でいい?」
店長奈良坂は洋太に笑顔を向けたが、普段と違う雰囲気に首を傾げた。
「洋太ったらずいぶんと常連なのね。それも一点買い?」
水萌里にとって意外だったようで目をパチクリさせていた。
「あー、うん、まあ、そう。この日だけ、な」
う巻き卵は普段から陳列されているが、毎週火曜日は『めとはな』のシェアキッチンで『昇月ビアスタンド』のマスター横町が眼の前で焼いていてそれを熱々を食べることができるのだ。今は十一時少し前。それを知ってからは時間を調整して来店している。
「お金は払っておくわね」
水萌里は自分の弁当を袋に入れて精算を済ませると従業員たちに手を振って離れていった。
洋太はできたてのう巻き卵を奈良坂から受け取りながら水萌里の背中に手を振る。早速広げてひとつ口に入れる。
「うまあぁぁぁ」
「洋太くんって水萌里さんの息子さんだったんだ」
「まあな。まさか母さんがここで名前を知られているとは思わなかった」
「シェアキッチンの利用者さんと仲がよくて利用してくれているよ」
「母さんが? 何を買っていくんだ?」
「今みたいに弁当だったりするけど、主に金曜日の『こみゅーん』さんのお菓子かな」
「………………食ったことないぞ。今夜聞き出さなくちゃな」
気合を入れてもう一口。
「うまあ…………」
奈良坂も横町も笑顔で崩れた顔の洋太を見ていた。
横町は『昇月ビアスタンド』のオーナーである。昇月は祖父と母親と三代続く料亭で、銀座通りの少し奥まった場所にある。宴会を中心とした経営であるが、集まり自粛を期に弁当制作を始め、現在は『道の駅季楽里あさひ』とイオンタウン一階『めとはな』に毎日出している。朝五時から作りはじめるというお弁当はどれも美味しく、ヘルシーな湯葉丼などもある。
「そういえば、この前、少年野球チームが三十人で一時間後って予約を受けてさ、大変だったけど弁当をやってきたノウハウが活きてなんとかできた。宴会しかやってなかったころだったら対応できなかったと思うんだよね。
でさ、その子どもたちが仲間と食べることがすっごく嬉しそうでさ、親たちも喜んでいて、明るい会場になっていたんだよね。その子たちって、集まり自粛の影響で会食とか集まりとかこれまでできてなかったんだ。俺たちのころって仲間と飯って当たり前だったけど、それさえも経験できていなかったって思うと今の子どもたちはかわいそうだよな。俺にも小学生の息子が二人いるから、あいつらに経験させてやりたいよな。
うちは大人の宴会が多かったんだけど、ああいう子どもたちの集まりとかももっともっとやりたいなぁ」
息子たちを思い出した横町は目がなくなるほどに細めてへにゃりと笑う。
「どうしたんですか? 急に」
「洋太くんが俺のう巻き卵をうまそうに食べてくれて思い出した」
「食うか? うまいぞ」
横町がノスタルジックにひったっている間に何も聞かずに食べていた洋太のテイクアウトフードパックは残りが一切れになっていて、それを横町に突き出した。
「いやいやいや、いつもお買い上げありがとうございます」
洋太はにぱりとして最後の一つを食べると小走りで柱の影に行きゴミ箱に捨て、また小走りで戻ってきた。
「横町は親父だったのか。子供は大きいのか? 俺くらいか?」
聞いてないと思っていたら案外ちゃんと耳に入っていたらしい。
「小学生の息子が二人で一人は来年中学生。二人ともサッカーやっているんだ。下の子は週六回だよ」
呆れ笑いと父親愛情笑いとを見せた横町は子どもたちへの愛を見せていることに気がついていないのだろう。本人にそれを指摘したら、照れて否定しそうなので奈良坂はあえて黙っていた。
見た目が同世代なら友人になりたいと思った洋太は少しばかり残念に思ったが気をとりなおして気になっていたことを聞いた。
「そうか、まだ小さいのか。そういえば、キラキラしたやつやるんだろう?」
横町は人懐こい笑顔と決して上から目線にならない素行で、年上にはかまわれ可愛がられ、年下からはフレンドリーに親しまれていて、それを活かして商工会青年部の部長として人気者だ。商工会青年部は毎年クリスマスに向けて海上公民館前を電飾装飾して旭市の冬の風物詩にしているのだった。
「十二月一日から夜の点灯は始まっているよ。『スターライトフェスタ』ていう点灯式もやるんだ」
「そうか。ならおやじたちと行くよ」
洋太は楽しそうなイベント情報に軽やかな足取りでイオンタウンを離れた。
☆☆☆
ご協力
昇月ビアスタンド様(HPにあります電話番号にご予約をお願いします。お子様たちの集いにも対応いたしております)
めとはな様
新昭園芸釣り堀センター様
スターライトフェスタにつきましては、商工会議所のHPをご確認ください。
「え! 田中さん、『新昭園芸』に行ったんですか? あそこ最高ですよねぇ。もう楽しくて楽しくて、私、一人で行っちゃうんですよぉ。エビとか釣れちゃうってほんとに面白い」
声をかけてきたのは『めとはな』のもう一人の従業員マイである。
「エビ? それはやってないわ。私たちあまり上手くできなくて金魚しか釣れなかったの」
「そうなんですね。初めてだったならしかたないです。でも慣れればこういうのも釣れますよ」
マイが見せてくれた写真はたしかに『新昭園芸』で、おそらく十センチほどと思われるエビが写っていた。
『まだ二十代のマイちゃんが一人で楽しめる釣りは魅力的な遊びってことね。また行きたい』
水萌里はお弁当を選び始めた。最近の水萌里のお気に入りは『昇月ビアスタンド』のミニ懐石弁当である。お魚もお肉も入っていて鰻やサラダに煮物、『昇月ビアスタンド』定番の卵焼きはもちろん入っている。味の違う三種類のミニおにぎりも水萌里の好みだ。
「あ……母さん……」
水萌里が振り向くと洋太がバツの悪そうな顔で頭をかいている。
「いらっしゃい! う巻き卵でいい?」
店長奈良坂は洋太に笑顔を向けたが、普段と違う雰囲気に首を傾げた。
「洋太ったらずいぶんと常連なのね。それも一点買い?」
水萌里にとって意外だったようで目をパチクリさせていた。
「あー、うん、まあ、そう。この日だけ、な」
う巻き卵は普段から陳列されているが、毎週火曜日は『めとはな』のシェアキッチンで『昇月ビアスタンド』のマスター横町が眼の前で焼いていてそれを熱々を食べることができるのだ。今は十一時少し前。それを知ってからは時間を調整して来店している。
「お金は払っておくわね」
水萌里は自分の弁当を袋に入れて精算を済ませると従業員たちに手を振って離れていった。
洋太はできたてのう巻き卵を奈良坂から受け取りながら水萌里の背中に手を振る。早速広げてひとつ口に入れる。
「うまあぁぁぁ」
「洋太くんって水萌里さんの息子さんだったんだ」
「まあな。まさか母さんがここで名前を知られているとは思わなかった」
「シェアキッチンの利用者さんと仲がよくて利用してくれているよ」
「母さんが? 何を買っていくんだ?」
「今みたいに弁当だったりするけど、主に金曜日の『こみゅーん』さんのお菓子かな」
「………………食ったことないぞ。今夜聞き出さなくちゃな」
気合を入れてもう一口。
「うまあ…………」
奈良坂も横町も笑顔で崩れた顔の洋太を見ていた。
横町は『昇月ビアスタンド』のオーナーである。昇月は祖父と母親と三代続く料亭で、銀座通りの少し奥まった場所にある。宴会を中心とした経営であるが、集まり自粛を期に弁当制作を始め、現在は『道の駅季楽里あさひ』とイオンタウン一階『めとはな』に毎日出している。朝五時から作りはじめるというお弁当はどれも美味しく、ヘルシーな湯葉丼などもある。
「そういえば、この前、少年野球チームが三十人で一時間後って予約を受けてさ、大変だったけど弁当をやってきたノウハウが活きてなんとかできた。宴会しかやってなかったころだったら対応できなかったと思うんだよね。
でさ、その子どもたちが仲間と食べることがすっごく嬉しそうでさ、親たちも喜んでいて、明るい会場になっていたんだよね。その子たちって、集まり自粛の影響で会食とか集まりとかこれまでできてなかったんだ。俺たちのころって仲間と飯って当たり前だったけど、それさえも経験できていなかったって思うと今の子どもたちはかわいそうだよな。俺にも小学生の息子が二人いるから、あいつらに経験させてやりたいよな。
うちは大人の宴会が多かったんだけど、ああいう子どもたちの集まりとかももっともっとやりたいなぁ」
息子たちを思い出した横町は目がなくなるほどに細めてへにゃりと笑う。
「どうしたんですか? 急に」
「洋太くんが俺のう巻き卵をうまそうに食べてくれて思い出した」
「食うか? うまいぞ」
横町がノスタルジックにひったっている間に何も聞かずに食べていた洋太のテイクアウトフードパックは残りが一切れになっていて、それを横町に突き出した。
「いやいやいや、いつもお買い上げありがとうございます」
洋太はにぱりとして最後の一つを食べると小走りで柱の影に行きゴミ箱に捨て、また小走りで戻ってきた。
「横町は親父だったのか。子供は大きいのか? 俺くらいか?」
聞いてないと思っていたら案外ちゃんと耳に入っていたらしい。
「小学生の息子が二人で一人は来年中学生。二人ともサッカーやっているんだ。下の子は週六回だよ」
呆れ笑いと父親愛情笑いとを見せた横町は子どもたちへの愛を見せていることに気がついていないのだろう。本人にそれを指摘したら、照れて否定しそうなので奈良坂はあえて黙っていた。
見た目が同世代なら友人になりたいと思った洋太は少しばかり残念に思ったが気をとりなおして気になっていたことを聞いた。
「そうか、まだ小さいのか。そういえば、キラキラしたやつやるんだろう?」
横町は人懐こい笑顔と決して上から目線にならない素行で、年上にはかまわれ可愛がられ、年下からはフレンドリーに親しまれていて、それを活かして商工会青年部の部長として人気者だ。商工会青年部は毎年クリスマスに向けて海上公民館前を電飾装飾して旭市の冬の風物詩にしているのだった。
「十二月一日から夜の点灯は始まっているよ。『スターライトフェスタ』ていう点灯式もやるんだ」
「そうか。ならおやじたちと行くよ」
洋太は楽しそうなイベント情報に軽やかな足取りでイオンタウンを離れた。
☆☆☆
ご協力
昇月ビアスタンド様(HPにあります電話番号にご予約をお願いします。お子様たちの集いにも対応いたしております)
めとはな様
新昭園芸釣り堀センター様
スターライトフェスタにつきましては、商工会議所のHPをご確認ください。
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5/9から小説になろうでも掲載中