あさひ市で暮らそう〜小さな神様はみんなの望みを知りたくて人間になってみた〜

宇水涼麻

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48 習字と書道の達人

 習字と書道は別物だと芸術家平山爆風は語る。習字は手本通りに正しく書くもの。書道は自由に芸術心を表現するもの。
 とはいえ、正しく書けなければ表現もできないので習字が大切なことは確かである。
 もちろん爆風も幼い頃から鍛錬してきた。小学生ですでに才能を見出されいくつもの賞を獲る。
 
 中学生になり剣道部に所属すると当時の中学部活の厳しさを知っている世代の方は想像つくと思うが、忙しさのあまり部活以外はできない……もう体力やら気力やら時間やら……すべてにおいてできない。爆風もその一人で、筆から離れてしまった。

 高校に入ると書道部顧問は期待の星の入学に目を輝かせて待ち構えていたが、爆風が出したのは剣道部入部届けだった。その剣道部はなかなかに名を馳せた強豪部であったのだ。書道部顧問は涙に暮れたに違いない。
 しかし、書道部顧問の願望が強かったのか、書の神が爆風を離さなかったのか……剣道部は活動休止となる。それが決まったその日のうちに爆風は退部届けと書道部への入部届けを提出した。

「よぉし! では、明後日、書道のライブパフォーマンスをやってくれ!」

 待ち構えていた書道部顧問は爆風に無茶振りをしたが、爆風はきっちりとそれに応えた。冷静にしかし力強く華麗にパフォーマンスを繰り広げたように見えた爆風であったが、実は緊張していたらしい。

「何を書いたかも覚えていないんですよ」

 現在の爆風は照れ笑いでそう言った。

 高校を卒業し、紆余曲折うよきょくせつながら様々な会派で活躍した爆風が芸術家となったのは自然な流れである。

 個展を開いたり祭典へ参加したりと芸術家としての平山爆風はどんどん成長を遂げていく。
『書』と『』がミックスされた『巌流島』は『画』といえど習字のルールにのっとった作品であり、予想もつかない筆運びは達人の証明である。

 力強さが特徴の作品たちであるが、筆を持たない時の爆風は気さくで面倒見がよくおとなしめな口調の男である。秋の芸術祭の一つ『海上うなかみ公民館祭』で一室を与えられた爆風はその部屋に終始いて、訪れる人たちに作品についての説明を丁寧にしていた。

「ある人から「武蔵のことを書にしてほしい」と頼まれたんです。武蔵のことを調べていくうちに僕が武蔵を好きになっちゃったんです」

 その一室には宮本武蔵を想像させる書が多く並んでいた。爆風はロゴデザインや筆耕ひっこう――筆写すること――なども手掛け、幅広く芸術活動をしており、その一部である。

「これはテレビのドラマを見ているときに『ビッ!』ときて書いたものです」

 芸術家本人の話は面白い。

「それからこちらはコーヒーで書いています」

 来客たちも楽しそうに書に近づいてよく見たり、文を一つ一つ読んだり、質問をしたりと優雅な時間を過ごしていく。

「昔は墨は黒か朱だったのですが、最近は紫や青などもあり、芸術の幅が広がりました」

 嬉しそうに話す爆風は次の芸術へ想いをはせていた。 
 爆風の書は『ちば醤油アート広場』に野外展示されているものもあり、市民の目を楽しませている。

 そして習字師範平山爆風は子どもたちへの指導も行っており、旭駅前にある『進学塾ミズヤ』にて書道教室を開いている。また日本でおなじみの行事のため冬は忙しくあちらこちらへとおもむく。
 そう『書き初め』である。爆風も子供の頃にはお題が決まるやいなや練習が始まり、毎年のように賞を獲得していたものだ。

 二学期のうちから市内の小学校へ講師として招かれたり、市のイベントでスポーツの森体育館を使って多くの子どもたちの指導をしている。爆風のこだわりで、会場には親は入場させず、子どもたちは練習にしっかり集中できる環境作りもした。
 一生懸命やった子どもたちへのプレゼントとして太筆パフォーマンスを披露し、子どもたちにもその太筆で書かせる。自分の背丈ほどの筆に自分の番がくるとわくわくと立ち上がる子どもたちを微笑ましく指導する爆風の目は優しさにあふれていた。

 年明けに発表された優秀作品の中には爆風のミズヤ書道教室の子どもたちも数人選ばれ、爆風は誇らしい気持ちと安堵の気持ちで笑顔を見せた。

 その間にも精力的に芸術家平山爆風の活動は続けている。そして様々な出会いから刺激を受け芸術家としての領域をどんどん広げた。

 演歌歌手一条貫太と出会い、力強さに触発され彼の歌を書にした。一条貫太の大ヒット曲『やんちゃ船』の歌詞を書いた書は書き出しの『親』という文字が……なぜか薄墨書きである。書に携わる者なら誰もが入り・・はインパクトを与えるためにじませたり濃くしたりするものである。

「これはこうした方が「なぜだ?」と思ってもらい逆にインパクトを与えるんです。筆を持った瞬間のアイデアと判断と直感です。書は重ね塗りは絶対にしてはいけないので。
僕は作品に勢いと直感を大切にしています」

 十二月のあさげー展覧会でその作品を展示した爆風は満足気に自分の作品を見つめていた。

 これからも爆風の勢いは止まらない。
 あさげーメンバーとしての活動は続けている。個展『爆風書道展』が、一月十三日から一ヶ月間東総文化会館で開催される。

「これは子どもたちが書いたのか? すごいな」

「俺よりうまい……」

「すごいわねぇ」

 旭市民センターに書き初め大会の作品たちを見に来た田中家は感心しきりであった。爆風はその後ろ姿を見て嬉しそうに笑った。

 書き初め大会作品展は、旭市民センターにて一月十三日まで開催されている。


 ☆☆☆
 ご協力
 書家 平山爆風様
 あさげー様
感想 4

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