あさひ市で暮らそう〜小さな神様はみんなの望みを知りたくて人間になってみた〜

宇水涼麻

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56 しゃちょうクラブ

「ふふふふーん」

 軽く鼻歌を歌いながら店主ユミは季節に合わせた飾りつけをしている。『FAVO』は令和五年七月にオープンしたばかりの小さな雑貨屋だ。干潟中学校から坂を登りきった左手にあるクリーム色のコンテナハウスの入口は観葉植物の緑が眩しい。駐車場には数十個の鉢植え観葉植物が壁替わりに並んでいて、大風が吹くとユミは諦めたように苦笑いし風が止んだらせっせと助けに行く。
 
 今日もまた倒れた鉢を立たせるとふぅと息を吐いて振り向いた。

「ハロウィン、楽しかったなぁ」

 コンテナハウスの後ろに取り付けられた黄色の可愛い階段とコンテナハウス屋上のグレーの柵に取り付けられた電飾を見てにっこりと笑った。

 ここで行われたハロウィンでは子どもたちが仮装を楽しみ、屋上でランチをした。はしゃぐ子どもたちの姿に「やってよかったなぁ」と満足したユミも三人の子供を持つ母親だ。

「なんだかんだ言ってマサヒロに楽しませてもらってるんだよね」

 ユミは一軒向こうにある古民家の大きな屋根を見て優しく微笑んでから店の中に戻って行った。

 ユミの旦那マサヒロは『FAVO』の近隣にある吉原重機を経営している。行動力があふれすぎているマサヒロと器用さが溢れすぎている義弟ぎていによってとにかく店をオープンすることになった。観葉植物を扱う会社の救済だと多くの観葉植物を引き取ってきたマサヒロがその販売場所を作ろうと動き出した結果である。

「店はさ、ユミがやればいいだろう」

 満面の笑みで伝えていたマサヒロに呆れながらもワクワクしたユミは『誰に声をかけようなかぁ』と頭をフル回転。

「せっかくやるなら地域活性化の発信基地になるわよ! 楽しみぃ!!」

 張り切って小さな握りこぶしを上下に震わせる。観葉植物販売は決定していたので、その緑に合うように店内の壁はピンクにした。棚は黒鉄の足に木の棚板でシックで何を置いても映えるもの。

「美味しいお弁当がほしい。子どもたちが手にとってウキウキしながら選べるような雑貨もほしいな。地域らしい食材も置きたいよね」

 幼馴染の飲食店『食彩亭とくじ』にお弁当の打診をして、手先の器用なママ友に相談する。マサヒロの顔の広さで食材も集まったのだが、マサヒロがオープンニングに人が実際に運転するミニユンボまで用意していたのにはさすがのユミも驚いた。

 そして何より強力な相棒はすぐ近くにいた。義妹ヒロコは多趣味で何でもそつなくこなし、観葉植物にも詳しく、小物制作もできて、気軽に相談できて、気軽にお手伝いを頼める無くてはならない存在だ。

「マサヒロが持ってきた観葉植物たちが元気ないの」

 ユミが悲しい顔をするとヒロコが一つ一つチェックし対処していく。

「観葉植物って小さい方が好きって人もいるよねぇ」

 ユミがそうつぶやくと数日後にはヒロコは可愛らしいビンに土と観葉植物をあしらった商品を持ってくる。

「クリスマスツリーっていったらやっぱりボール飾りかなぁ?」

 数日後には毛糸で作られたポンポン飾りが寂しかったミニツリーをカラフルに彩った。そうやってユミとヒロコは二人でお店を試行錯誤しながら運営している。

 そんなある日、ユミはポツリとつぶやいた。

「レッドキウイがね、いっーーーぱい実ったの。どうしよっか?」

「FAVOで詰め放題する?」

 楽しそうなヒロコのアイディアにユミは早速準備をし、インスタに告知すると反響がすごく、お客さんに喜ばれた。

「これをジャムにしたいっ!」

 興奮気味にそう言ったお客さんには少しばかり面食らったが、そのお客さんが持ってきてくれたキウイジャムの美味しさには更に面食らうことになる。

 ユミの人柄で出店者も増えていく。『石井ファーム』のミニトマトジュースは爽やかな酸味が人気。シフォンケーキやカップデザートも並ぶようになっていき、店は日々商品が変わっていく楽しさも持っている。
 それは『食彩亭とくじ』の弁当もしかりで、定番のハンバーグやからあげだけでなく、時にはナポリタン、時にはかつサンドと多彩なラインナップだ。

 二人はマルシェに出店に行くこともある。そこで出会った『移動ごはん又兵衛』は無添加オリジナルカレースパイスと多古米を使ったカレーライスをキッチンカーで販売していて、そのスパイスを家庭用にしてもらったりもしている。

 車好きの車好きによる車を眺めるための会『しゃちょうクラブ』が利用したいと聞いた時に「社長さんが来る?」と思ったユミは目をキョドっていたに違いない。
 約束のその日、赤や黄色やシルバーの個々ご自慢の車が並んだ様子をコンテナハウスの上から見る。爽快さと自慢話で お弁当を食べながらワイワイとはしゃぐおじさんたちは本当に楽しそうで、それを主催した社長は『たこみんFM』でその楽しさを紹介するほどだった。『車眺しゃちょうクラブ』戸森は車の楽しさを若者たちに伝えたいと日々活動している。

 そんな雑貨屋『FAVO』のインスタを見た水萌里は目的を持って訪れ、それがあったときには思わず顔が綻んだ。

『旭市はウィンナーも美味しいんだもの。この粒マスタードはきっと最高の相性よ』

 水萌里の手には全く黄色ではない粒マスタードのビンが握られていた。真守の喜ぶ顔を想像して水萌里はフッと微笑んだ。

 年明け、ユミはまたしてもヒロコを巻き込み新たな挑戦を始めた。

「『FAVOマルシェ』やりまーす!」

 ヒロコは目をしばたかせたがすぐに切り替えた。

「何を作ろうかなぁ」

 マルシェの当日、可愛いネコミミクリップは出店者たちにも好評だった。

 次々に新たな取り組みをするユミの店『FAVO』には最近キッチンカーがよく出没する。

「まあ! 明日はこのキッチンカーなのね! 行かなくちゃ! イシイファームのミニトマトジュースも忘れずに買わなくちゃあ」

 ウキウキとする水萌里の『FAVO』インスタチェックに余念はない。

『あ! この人、たこみんFMのユーチューブで見たことあるぅ!』

 カレーのキッチンカー又兵衛の郡司を見た水萌里はおののいた。郡司はたこみんFMパーソナリティの一人だった。

 ☆☆☆
 ご協力
 雑貨屋FAVO様
 吉原重機様
 食彩亭とくじ様
 カレースパイス又兵衛様
 たこみんFM様
 しゃちょうクラブともり様
 イシイファーム様
 
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