72 / 80
72 ファッションの初手
「お前ら、後ろから見ると笑えるくらいそっくりなんだけど」
川上少年は友人から言われたそのからかいの一言にプライドが傷ついた。目立つことを良しとしていた中学校生活の中で週末のプライベートでの出来事だった。誰かと一緒であることは目立つことと相反する。ガンガンと頭にショックを受けた川上少年はその友人の追加の一言で雷に撃たれたような衝撃を受けた。
「服の色くらい別のにしろよ。わはははは!」
隣を見ると自分と似たような地味目色のシャツに安いジーパン。
『そうか…………。洋服で差をつけられるのか』
かといって予算に余裕などない中学生はファッションを雑誌などで勉強するしかできなかった。足が速いことが幸か不幸か、陸上競技に心血を注ぐ中学校高校生活ではおしゃれを楽しむなどできない。高校三年で部活を引退するとバイトに明け暮れ、納得いく金額を得た時に川上青年は決意した。
「東京に買い物に行くぞ!」
目指すは渋谷か原宿か。緊張の面持ちで立った東京は眩しかった…………。初めて雑誌などで有名なアパレルメーカーに入店したものの、店員に話しかける勇気は持てない。威圧を与えているように感じる店員を無視することを自分自身に言い訳する。
『俺の今の格好はバカにされてるかも。きっとそんなやつに接客なんてしたくないんだ。
だけどそんなのこっちもゴメンだ! 俺がファッションを勉強してきて、今ほしいってものを買うんだっ!』
近寄ってきた店員をものともせず、自分の選んだものを購入し、紙袋を受け取ると意気揚々と外に出た。紙袋を目の前に持ち上げジッと見るとその紙袋でさえキラキラと輝いているかのようである。
「ついに東京の服を買ったぜっ!」
宝物のように紙袋を抱えて旭市の自宅に戻る。そっと購入した洋服を取り出すとおもむろに顔を埋めると、すぅーーーと音がするほど吸い込んだ。
「はぁ。東京の匂いがする」
東京の洋服デビューをした川上青年は大学に進み、またしても陸上競技でファッションから遠ざかるものの、就職する時には選択肢は決まっていた。
「他にもやりたいことはあるけど、やりたいことの中で一番現実的なのはファッションだ」
だが、こだわりの強い川上青年は自分好みのアパレルメーカー三社しか受けない。東京には数多あるはずのアパレルメーカーの中で…………三社。なんと無謀な選択に、天は微笑まなかった。だが、ここで諦める川上青年ではない。
「アパレルメーカーってバイトからでも社員になれるんじゃん。なら四月まで待たずにバイト始めちゃえばいいじゃんなっ」
こうして川上青年希望の三社のうちの一つに仕事が決まる。
川上は仕事を覚えれば覚えるほどとある黒歴史を思い出し身もだえることになる。
高校三年生。有り金を握りしめ、ダサい格好で東京のおしゃれな店に入り、店員が愛想で褒めてくれたリュックについて自慢気に講釈をたれ、話を聞いてくれた店員のアドバイスにも耳を傾けずに購入し、着替えもせずにダサい格好のまま帰宅したあの日。
「絶対に、あの時の店員は笑っていたよなぁ…………。高校生の俺…………ダッサ……」
自分をかえりみた川上にやりたい店の形が小さく生まれた瞬間だった。それからはファッションセンスだけでなく、接客についても貪欲に学び始めれば、社員に格上げされるのは当然の結果だ。
だが、川上の試練はそれだけで終わらなかった。接客に磨きをかけようとした時期に例の病が流行した。マスク装着の上、接客はなし。
「俺は服をたたむロボットじゃねぇんだ…………ぞ」
学ぶことも自分を磨くこともできなくなったジレンマで川上は退職とUターンと開業を決意した。
店名は最も単純な名前にしたいと考えて『服装→FUKSO』になる。これは川上のやりたい店の形ゆえである。コンセプトの一つを『若者たちの初手の店』としたいと考えたのだ。
『高校生たちが俺みたいなオノボリさん状態で東京に行かないようにさせたい。おしゃれの初手としてうちの店でおしゃれに少しでも触れてほしい。
高校生が相談とかしに来てくれる店にしてぇなぁ
みんなに着るだけで心躍る服があるって教えたいなぁ』
アメカジを中心とした一癖あるアイテムをセレクトしている店内で川上はいつも身悶えている。
そんな店に恐る恐る入店した真守は自分にはないセンスにドキドキしながらも店内を見てまわった。笑顔の店主川上のラフなのにクールな着こなしにドキドキ感は増す。その時の川上は真守の様子を見ながら話しかけるタイミングを見ていた。
そこにお客が入店してきた。
『アロハシャツの着こなしがかっこいい! こういうお客がくるのかああ!』
そのお客は親しげに店主川上と話を始めた。
持ち合わせがなかった真守は洋太と一緒に出直そうと店を出た。
店主川上の爽やかな挨拶が真守の背中に向けられ、真守は絶対にまた来ようと思ったのだった。
それから近くの店『Seed』へ行くと水萌里に頼まれた『豆花』を購入して家路につく。
家に着くと水萌里が上機嫌で豆花を食べ始めた。
「このぷるぷるがサイコー! 蜜の甘さもちょうどいいわ。今日はいちじくなのね。フルーツとの相性もバッチリ! まさか旭市でこんなに本格的な豆花が食べられるなんて思わなかったわ」
水萌里の最近のお気に入り『豆花日和』は不定期オープンなので「毎回手に入るわけではない」のだと水萌里に何度も聞かされていた真守は、水萌里の嬉しそうに食べる姿に顔をほころばせた。
☆☆☆
ご協力
古着屋FUKSO様
豆花日和様
川上少年は友人から言われたそのからかいの一言にプライドが傷ついた。目立つことを良しとしていた中学校生活の中で週末のプライベートでの出来事だった。誰かと一緒であることは目立つことと相反する。ガンガンと頭にショックを受けた川上少年はその友人の追加の一言で雷に撃たれたような衝撃を受けた。
「服の色くらい別のにしろよ。わはははは!」
隣を見ると自分と似たような地味目色のシャツに安いジーパン。
『そうか…………。洋服で差をつけられるのか』
かといって予算に余裕などない中学生はファッションを雑誌などで勉強するしかできなかった。足が速いことが幸か不幸か、陸上競技に心血を注ぐ中学校高校生活ではおしゃれを楽しむなどできない。高校三年で部活を引退するとバイトに明け暮れ、納得いく金額を得た時に川上青年は決意した。
「東京に買い物に行くぞ!」
目指すは渋谷か原宿か。緊張の面持ちで立った東京は眩しかった…………。初めて雑誌などで有名なアパレルメーカーに入店したものの、店員に話しかける勇気は持てない。威圧を与えているように感じる店員を無視することを自分自身に言い訳する。
『俺の今の格好はバカにされてるかも。きっとそんなやつに接客なんてしたくないんだ。
だけどそんなのこっちもゴメンだ! 俺がファッションを勉強してきて、今ほしいってものを買うんだっ!』
近寄ってきた店員をものともせず、自分の選んだものを購入し、紙袋を受け取ると意気揚々と外に出た。紙袋を目の前に持ち上げジッと見るとその紙袋でさえキラキラと輝いているかのようである。
「ついに東京の服を買ったぜっ!」
宝物のように紙袋を抱えて旭市の自宅に戻る。そっと購入した洋服を取り出すとおもむろに顔を埋めると、すぅーーーと音がするほど吸い込んだ。
「はぁ。東京の匂いがする」
東京の洋服デビューをした川上青年は大学に進み、またしても陸上競技でファッションから遠ざかるものの、就職する時には選択肢は決まっていた。
「他にもやりたいことはあるけど、やりたいことの中で一番現実的なのはファッションだ」
だが、こだわりの強い川上青年は自分好みのアパレルメーカー三社しか受けない。東京には数多あるはずのアパレルメーカーの中で…………三社。なんと無謀な選択に、天は微笑まなかった。だが、ここで諦める川上青年ではない。
「アパレルメーカーってバイトからでも社員になれるんじゃん。なら四月まで待たずにバイト始めちゃえばいいじゃんなっ」
こうして川上青年希望の三社のうちの一つに仕事が決まる。
川上は仕事を覚えれば覚えるほどとある黒歴史を思い出し身もだえることになる。
高校三年生。有り金を握りしめ、ダサい格好で東京のおしゃれな店に入り、店員が愛想で褒めてくれたリュックについて自慢気に講釈をたれ、話を聞いてくれた店員のアドバイスにも耳を傾けずに購入し、着替えもせずにダサい格好のまま帰宅したあの日。
「絶対に、あの時の店員は笑っていたよなぁ…………。高校生の俺…………ダッサ……」
自分をかえりみた川上にやりたい店の形が小さく生まれた瞬間だった。それからはファッションセンスだけでなく、接客についても貪欲に学び始めれば、社員に格上げされるのは当然の結果だ。
だが、川上の試練はそれだけで終わらなかった。接客に磨きをかけようとした時期に例の病が流行した。マスク装着の上、接客はなし。
「俺は服をたたむロボットじゃねぇんだ…………ぞ」
学ぶことも自分を磨くこともできなくなったジレンマで川上は退職とUターンと開業を決意した。
店名は最も単純な名前にしたいと考えて『服装→FUKSO』になる。これは川上のやりたい店の形ゆえである。コンセプトの一つを『若者たちの初手の店』としたいと考えたのだ。
『高校生たちが俺みたいなオノボリさん状態で東京に行かないようにさせたい。おしゃれの初手としてうちの店でおしゃれに少しでも触れてほしい。
高校生が相談とかしに来てくれる店にしてぇなぁ
みんなに着るだけで心躍る服があるって教えたいなぁ』
アメカジを中心とした一癖あるアイテムをセレクトしている店内で川上はいつも身悶えている。
そんな店に恐る恐る入店した真守は自分にはないセンスにドキドキしながらも店内を見てまわった。笑顔の店主川上のラフなのにクールな着こなしにドキドキ感は増す。その時の川上は真守の様子を見ながら話しかけるタイミングを見ていた。
そこにお客が入店してきた。
『アロハシャツの着こなしがかっこいい! こういうお客がくるのかああ!』
そのお客は親しげに店主川上と話を始めた。
持ち合わせがなかった真守は洋太と一緒に出直そうと店を出た。
店主川上の爽やかな挨拶が真守の背中に向けられ、真守は絶対にまた来ようと思ったのだった。
それから近くの店『Seed』へ行くと水萌里に頼まれた『豆花』を購入して家路につく。
家に着くと水萌里が上機嫌で豆花を食べ始めた。
「このぷるぷるがサイコー! 蜜の甘さもちょうどいいわ。今日はいちじくなのね。フルーツとの相性もバッチリ! まさか旭市でこんなに本格的な豆花が食べられるなんて思わなかったわ」
水萌里の最近のお気に入り『豆花日和』は不定期オープンなので「毎回手に入るわけではない」のだと水萌里に何度も聞かされていた真守は、水萌里の嬉しそうに食べる姿に顔をほころばせた。
☆☆☆
ご協力
古着屋FUKSO様
豆花日和様
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
他サイトにも投稿しております。
※本作品をAIの学習教材として使用することを禁じます。
※無断著作物利用禁止
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!
ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。
ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。
そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。
問題は一つ。
兄様との関係が、どうしようもなく悪い。
僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。
このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない!
追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。
それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!!
それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります!
5/9から小説になろうでも掲載中
