あなたなんて知らない

おーろら

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第一章:事件

016. 叶羽、衝撃を受けた連休の後半

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 ホテルを出て家に帰った。
 家に帰った、と言っても武田の家ではなかった。
 いつの間にか姉ちゃんは武田の家とは校区の違う高校の近くのマンションを借りていた。
 四LDKでバルコニーが二カ所にあった。

「叶羽~、あんたの部屋はバルコニーに面した場所かリビングを通る部屋か。玄関横の部屋は姉さんの部屋ね~」
「リビングを通る部屋にする」
 部屋には既にベッドや机の家具、テレビや冷蔵庫などの家電はそれぞれの場所に置かれていた。
 キャリーケースを部屋に運び入れてスーツはクローゼットに収納した。
 ここのマンションにどのくらい居られるのか分からなかったから、武田の家に制服と鞄はすぐに持って行けるようにしておいた。
 リビングに行くと姉ちゃんがキッチンで昼食の準備して何故か社長がソファに座って新聞を読んでいた。

「いや、何故だ?何故社長がリビングで寛いでいる?」
 小さな声で俺は呟いた。

「叶羽~、お昼できたから食べよう~。食べ終えたらどこ行こうか~?」
「どこでもいいよ」
「もぉ~、本当に~。子どもらしくないっていうか高校生らしくな~い。少しは遊んだっていいんだよ~」
「いや、行きたいと思った場所がないんだって。映画とかも何がいいか知らないし…」
「よぉ~し、わかった~。それじゃ姉さんがいろいろな所に連れて行ってあげる~」
「はいはい、それじゃいただきます」
 武田の家では気配を消すようにして毎日を過ごして十五年生きた。
 そろそろ、というよりもういい加減あんな家に帰りたいなんて普通の人間だって思わないのではと思っている。
 だから姉ちゃんも誰の気兼ねなく休みの一日を満喫しているようだ。
 まぁ、姉ちゃんがそうしたいならそれでいいか。

「車で行くか?」
「うーん、マンションの周りにショッピングモールとかあるから調べながら見たいのよね~」
「そうだな…車よりもバスや電車の方がいいな」
 姉ちゃんが楽しそうに社長と話している。
 見ているだけで俺も嬉しくなる。
 こういうのが普通の家族なんだろうなと思った。

「なんとなく叶羽が嬉しそうにしてる~」
「そ、そ、そんなことないよ」
「ふーん…。叶羽の気持ちが変わらないうちに行くよ~」
 ニヤニヤ笑いながら姉ちゃんが俺の顔を見てきた。

「早く行こう。財布とスマホ、部屋から取ってくる」
 姉ちゃんに顔を見られることに恥ずかしくなって照れていることがバレないように部屋に向かった。

「姉ちゃん、社長お待たせしました。俺は準備O.K.です」
「どこから行く~?」
「駅周辺からお店を見ていくか、ショッピングモールに行くか映画を観に行くか。明日も一日楽しめるから好きなプランを選んで」
「うーん、駅周辺のお店から見たいかな~」
 マンションを出て駅に向かって歩いた。
 姉ちゃんがスーツを脱いで身軽な服装で外を歩いているのは久しぶりに見た。
 社長と姉ちゃんの二人が並んで歩いているのを見ていると恋人同士というか、夫婦に見えてくる感じがする。
 そんな二人の邪魔はしちゃいけないような気がしてはぐれないように近づきすぎないように歩いていく。
 周りを気にしながら歩いていくと俺たちとは反対側の歩道を歩いていく人物に目が止まった。



「もぉ~、陸哉ってばぁ。やっぱり叶羽じゃなくて陸哉の方がかっこいいねぇ」
「そうだろー?だからさぁ、お前ももう叶羽と付き合うことやめて俺にしておけよー」
 葵と陸哉だった。

「そうしちゃおっかなー、叶羽ってば私のこと全然好きじゃないのかな?デートに誘うのはいつも私からだし放課後は途中まで一緒に家に帰るだけ。休みになると用事があるからって言って絶対に会ってくれないんだよね~」
「そんなの彼氏って言わねぇだろー?葵のこと好きだったら拒否るなんてしねぇだろぉ?」
 周りに誰がいるなんて見ていない様子だった。

「それじゃぁ、叶羽の約束なんかドタキャンしてさぁ俺とデートしようぜ」
「うーん、それいいかも。私ももう叶羽となんて一緒にいても面白くないんだから」
「そうだよ、そうしよう。叶羽とできなかったこと経験させてやるよ」
「えー?なぁに~。叶羽とできなかったことって?」
「葵お前さぁ、彼氏と”キス”、したかったんじゃねぇの?」
「もぉ~。陸哉って積極的なんだからぁ。でもそんな陸哉が好き!」
 俺は黙って葵と陸哉の様子を見ていた。
 二人はお互いのことしか見えていないようで俺が二人の後を追いかけた。
 かなり近くにいても気づいていなかった。

 ”ピコン”とRYMEライムの着信音が鳴った。

 ―叶羽~、どこ行っちゃったの~?―
 ―迷子の叶羽ちゃ~ん、連絡くれないと捜索あ~んど警察に連絡しちゃうよ?―
 ―ごめん、姉ちゃん。俺マンションに戻る―
 ―えー?なんで~―
 ―何も話したくない…じゃ―
 それ以上姉ちゃんとRYMEでも直接でも話をするのは嫌だった。
 姉ちゃんや社長と歩いてきた道を俺は一人走ってマンションに向かった。
 俺はマンションの自分の部屋に入り鍵をかけた。
 ベッドの上に寝転がった。
 ポケットからスマホを出したらまたRYMEの通知音が鳴った。
 アプリを開かずメッセージが届いた画面を見ていたら葵からのRYMEだった。
 葵からの着信だと思ったらスマホの画面を見ただけでイラついた。
 その瞬間、スマホを投げていた。
 俺は一応彼女となった葵と中学生から仲良くなった友だちが裏切ったことが悔しかった。信じられなかった。

「叶羽~、いるの~?ねぇ、どうしたの」
「……」
「叶羽くん、美桜と話すのが嫌だったら俺と話すのはどうだい?男同士だったら言えることあるだろう?」
「……」
 姉ちゃんに話すことも男同士だから社長と話すことも友だちにさえ聞くこともできない。
 これから俺はどうしたらいいのか判らなくなっていた。
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