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第14話 モブにだって悩みはある・・・解決出来るかは別問題

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「・・・おかしい」
「何がですか?」
 夜、ベッドの上であぐらをかいて悩んでいると、アルファが話し掛けて来た。
「いや、リーゼと王子達との仲が進展している様子が無い・・・というか、そもそも知り合ってすらいない事が気になって」
 神様から送られて来た説明書を手に取り呼んでみる。
「う~ん、やっぱりすでに知り合っておかないとおかしいよなぁ」
「彼女も平民なのですから、王子達と会っている方がおかしいと思いますが」
「まあ、そこはゲームの世界だから都合の良いように話しが進むと思うんだよ」
「マスターの言うことが本当なら悩む必要は無いのでは? 彼女の都合の良いように進むのならば悩む方が馬鹿らしいですよ」
「いや、その都合の良い展開が起きてなさそうだから悩んでいるんだよ」
 実は、この世界乙女ゲームとRPGが合体したような世界になっている。
 ヒロインが王子達を攻略していくのだが、その過程で冒険や戦闘する必要があるらしい。誰と一緒に冒険するかで、好感度が変わってくるのだと説明書に書いてあった。
 俺が悩んでいるのは冒険の事だ。
 近々、授業でダンジョンに潜ることになっている。
「今度の授業で、リーゼは攻略対象達とチームを組んで一緒に行動する筈なんだけど・・・今の所そんな様子は無いよなぁ。当日にいきなり仲良くなったりとかは・・・」
「ありえませんね」
「そんなズバッと言うなよ。まあ、俺も無いと思うけど」
「良いではないですか。今、彼女と一番親しいのはマスターです。上手く行けば、生涯のパートナーになるかもしれませんよ」
「いやいや、流石にそれは無いんじゃないか?」
「嫌いなのですか?」
「顔もスタイルもドストライクです」
「クズな発言ですね。マスターらしいと言えばらしいですが」
「いや、正直分からないんだよな。リーゼの事は好きだよ? 正直付き合えるなら付き合いたいとすら思える。だけど、彼女は物語のメインヒロイン。本来俺と仲良くしていること事態まず可笑しい。モブと付き合うべきじゃないし、そもそも俺とじゃ釣り合わないんだよ」
「面倒な人ですね」
「人間ていうのは皆こんなものだよ」
「しかし、どうするのですか? マスターが上流貴族でもあれば、リーゼと王子達を上手く引き合わせる事も可能かもしれませんが」
「そうなんだよね~。悩んでも、出来る事が無いんだよね~。せめて、説明書じゃなくて攻略書を送って貰えていたら違ったのかもしれないけど」
 悩みはしたが、結局自分にはどうにも出来ないと感じ、布団を深く被り眠りについた。


 翌日、いつも通り昼食を食べる為に中庭に移動すると
「いい加減にしろ!」
 女性の怒鳴り声が聞こえて来た。
 驚いた俺は、思わず近くの物陰に身を隠して声がした方を確認する。
「な、何だ、何だ? ここにはあまり人が来ないはずだけど」
「誰かが揉めているようですね。おや? あの方は、昨日の」
「マジか、どうしてあの人がここに」
 普段あまり人が来ない中庭に人が集まっている。
 2つのグループが対峙しているようだ。
 片方のグループには、花壇の水やりをする時に出会った悪役令嬢がいる。
 ゼシカ・シューエルデ、説明書によれば悪役令嬢でありヒロインの邪魔をしてくる存在らしい。
「めちゃくちゃ怒っているじゃん。あんなに綺麗な顔をしていたのに」
 確かに平民が近づきづらい雰囲気はあったが、顔を赤くするほど怒るような人にも見えなかった。
「対立している側に気に入らない相手がいるみたいですね」
「えっと、対立している側というと・・・はは、攻略対象達じゃん」
 中庭には説明書に載っていた攻略対象達が、全員揃っていた。
 今まで誰1人見たことなかった奴らが、一斉に集まるってどうなっているんだよ。
「いきなりイベント発生とか止めて欲しいんだけど、知っていたらお昼は別の場所にしたのに」
「マスター、少し妙ではありませんか?」
「・・・何が?」
「マスターが言うには、リーゼ・ミリアーデという少女がヒロインなのですよね?」
「えっ? ああ、リーゼがメインヒロインの筈だよ」
「だとすると、王子達と仲良くしているリーゼ・ミリアーデに対してゼシカ・シューエルデは怒っていることになりますよね」
「そうそう、王子と悪役令嬢は婚約者だからヒロインが王子に近づくのが気に入らないんだよ」
「もう一度聞きますが、リーゼ・ミリアーデとゼシカ・シューエルデが対立するのですよね?」
「ん? まあ、そうなる筈だけど、何か変なところでも・・・」
 アルファが珍しく念に入りに聞いてくるので、不安になる。
 もう一度、王子達の方を見る。
 王子含め5人いる攻略対象達。真ん中に王子がいて、王子の前に少女がいる。
「王子の前に少女がいますよね?」
「・・・いる」
「マスター、あの方は本当にリーゼ・ミリアーデなのですか? 私には別人に見えますが」
「奇遇だね、アルファ君。俺もだよ」
 王子の前にいたのは、薄い金色の髪をした女の子。
長い髪の先をクルンと巻いている、ちんちくりんな女の子だった。
『誰だ、お前~~~~~!!!!』
 驚きのあまり心の叫びが、声になりそうだった。


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