それが運命というのなら

藤美りゅう

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それが運命というのなら#4

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 それから丸三日間、理月は将星に抱かれ続けた。

 目を覚ますと見慣れた天井が目に入り、何も考えられず暫く呆然とした。尋常じゃないくらいに怠く、喧嘩をした時以上に体が痛かった。目を覚ましものの、起き上がる事が出来ない。
 左手首に痛みが走り、手を掲げればそこにはくっきりと将星の歯形が残っており、血が滲んでいた。
 (くっそ……いてぇ……)
 手首に触ると、更に激痛が走る。何とか寝返りを打つと、後ろから生暖かい液体が尻を伝ってくるのを感じた。
「!?」
 それが、将星の精液なのは一目瞭然だ。夢だと思いたくても、この体の痛みと怠さ、体中にある将星の歯形と赤い跡、そして尻から流れ出る将星の精液がこの三日間、将星に抱き潰されたのだと物語っている。

 (そういや、将星は……? )
 帰ったのだろうか、そう思ったが将星の着ていた黒いTシャツが枕元に投げ出されており、それを手に取るとおもむろに広げた。
 背中に冥界の番犬『ケルベロス』をモチーフにしたプリントが施されており、ローマ字で『Kerberos』の文字。左肩には『将星』の名前が入っていた。

 玄関が開いた音がし、理月は無意識にそのTシャツを布団の下に隠した。リビングに入ってきた白いライダース姿の将星がコンビニの袋を手にしている。将星は理月がいるベッドの端に腰を下ろすと、
「起きたか。飯、買ってきた。腹減っただろ?」
そう言って、ミネラルウォーターを差し出された。
「これ、飲んでおけ」
 そう言って、錠剤を渡された。差し出された左手の甲は、自分で噛んだ跡なのか、幾つもの歯形が付いていた。自分の手を噛む事で、理月の首を噛むのを阻止していたのだろう。
「抑制剤。市販のだからあまり効果はないかも知れねえけど、飲まないよりマシだろ。アフターピルは、飲ませておいたからよ」
 どうやって? とも聞かずとも、恐らく眠っている時に口移しで飲ませたのだと予想はつく。

「体大丈夫か?」
 将星はベッドの端に腰を下ろすと、理月の頭を撫でた。
 コクリと頷き、抑制剤を水で流し込んだ。
「一応風呂に入れておいたけど、まだ気持ち悪かったらまた入れ。お湯は張ってあるから」
 言われてみれば、体が妙にさっぱりしていた。恐らく将星が後ろも綺麗にしてくれたのだろう。そう思うと、いたたまれなくなってくる。
 元々、将星は寡黙な男だと聞いている。きっと、何か話していないと落ち着かないのかもしれない。流される形で自分を抱いてしまった罪悪感があるのだと思った。

「悪かった……な」
喉から出た声が自分の声じゃないのかと思うほど掠れていて、一瞬動きが止まった。ケホケホと何度か咳をし、もう一度水を飲んだ。
「まぁ、びっくりはしたけどな」
 フッと鼻で笑ったのが分かった。
「黙っておいてくれねぇか? 俺がオメガだって事」
「それは言われなくても分かってる」
「あと……忘れてほしい、この事」

 沈黙が流れた。将星の顔を見る事ができず、理月は手にしているペットボトルに視線を落とした。
 今回の事は互いに事故のようなものだと理月は思っている。もう二度とこんな乱れた自分を目の当たりにしたくはない。
「理月……」
 名前を呼ばれ、顔を上げると将星に抱きしめられた。
「番に……ならねぇか?」
 耳元でそう言われた。
「!?」
「この三日、おまえを抱き続けて、おまえと番になってもいいと俺は思ったんだ」

 次の瞬間、理月は将星を突き飛ばしていた。
「ふ、ざけんな! 誰がなるか!」
 将星は理月の言葉に目を丸くしている。
「やっちまった責任でも取るつもりか⁈そんな同情みたいなもんいらねえよ! 俺は……俺は……オメガとして生きていくつもりはねぇ!番だと?ざけんな!そんなオメガだと認めるような事、するわけねぇだろ! 俺はこの先も誰とも番わず生きていくつもりだ!」
「この三日間、おまえがどんな風になってたか分かって言ってんのか!?これから先、周期的におまえにはヒートが来る! どうするつもりだよ!」
 掴まれた肩に、将星の指が食い込み痛みが走る。
「おまえさえいなければ……おまえさえ俺の前に現れなければ……こんな風にはならなかった……」
 理月は頭を抱え、大きく首を振った。

 (きっとそうだ……将星が自分の前に現れなければ、ヒートなど起こさなかったはずだ、俺は他のオメガと違うんだ、あんなみっともなく足を開くなんてするわけがない!たまたまだ……!たまたまこいつに反応しただけなんだ……)

「そんな……!」
 将星にしてみれば、理不尽なただの八つ当たりにしか聞こえないだろう。
「もう……俺に、関わらないでくれ……」
「理月……」
「これから先、俺に近づくっていうなら、俺は……」
一度言葉を切ると、
「死ぬからな……」
理月は将星に真っ直ぐ目を向けると、そう言い放った。
 その言葉に将星が息を飲むのが分かった。

 オメガという性に絶望し、自ら命を絶つ人間が後を絶たない。その気持ちが今、痛いほど分かった。
「理月……! 俺は、本気でおまえと番になってもいいって思ったんだ!」
「それは! おまえがオメガの俺が可哀想だって……そう思って同情しているだけだ! もう、気にしなくていいから! 忘れてくれ! 頼む……忘れてくれ……!」
 理月は初めて泣いた。その初めての涙が、こんなみっともなく懇願する形であったが、この三日間の事を将星が忘れてくれるなら、今だけはプライドを捨てる事など他愛もないと思う。
それくらいに理月の心は壊れかけていた。

「理月……」
 自分を呼ぶ声は、ケルベロスのリーダーである宝来将星のものとは思えない程、小さく頼りない声だった。
「分かった……だけど、頼むから死ぬなんて考えないでくれ」
 そう言って将星が腰を上げた。
「この事は忘れる。けど一つ約束してくれ。抑制剤はきっちり飲むって、約束してくれるか?」
 その言葉に力なく頷くと、理月は布団を頭から被り体を隠した。

「なぁ理月……俺たちアルファとオメガじゃなかったら……いいダチになれていたかな?」

 その言葉に理月の目が壊れたように、涙が次から次へと溢れてきた。返事などできるはずもなかった。そんな事を考えても、自分たちはオメガとアルファという絶対的な性で生まれてきてしまった。

 パタリと静かに扉が閉まった音がし、将星が出て行ったのだと分かった。
 (そうだな……俺がオメガじゃなければ……きっと良きライバルとしてダチになれていたかもしれねぇな……)
 理月は将星の歯形の残る左の手首を掴み、声を押し殺して泣き続けた。
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