それが運命というのなら

藤美りゅう

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それが運命というのなら#11

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 病院を出て、ゆっくりと歩みを進めていると不意に、将星の気配を感じた気がした。足を止め、振り返ってみるが姿はない。
 (気のせいか……)
 駅まで歩こうと通りに出る。後ろからバイクの低いマフラー音が聞こえたと思うと、そのバイクが自分の横に止まった。
「理月」
 黒い馬のような大型バイクに跨った将星だった。
「よぉ、偶然だな」
「……ああ」
 将星の顔を見た瞬間、体がジワリと熱を持ち始め手首の噛み跡が熱くなるを感じる。それはもう理月の中で条件反射のように思えた。
 不意に《仮の番》という言葉が過り、そのせいで今日はいつもより体が過剰にアルファの将星に反応しているような気がする。

「今日、病院だったのか?」
 なぜ分かったのか、そう思うと顔に出ていたのか将星は自分の首を指差した。
 ハッとして、理月は首元に触れるとプロテクターをしたままなのに気付き、慌ててそれを外した。将星を前にその行動が酷く恥ずかしく感じて誤魔化すように、
「将星は仕事休みなのか?」
 そう尋ねた。
「そう、水曜日定休日だからな……この後、何も予定なければ飯でもいかねぇか?」
「夕方からバイトだけど、それまでなら……」
「そうか! じゃあ、乗れよ」
 そう言って、親指で後ろのダンデムシートを指さした。
 ガードレールを跨ぎ、将星の肩に手を置きダンデムシートに腰を下ろす。
 将星の広い背中が嫌でも目に入る。将星の香水の匂いなのかアルファのフェロモンの匂いなのか、ほのかに柑橘系の匂いが鼻をついた。将星に近付くと、いつもこの匂いがした。理月の脳は既に、この匂いは将星のものであると植え付けられている様だった。
 心音が徐々に早くなっていく。
 (ヒートの予定日まで日数はあるから大丈夫なはずだ。抑制剤も飲んでる……大丈夫だ)
 そう自分に言い聞かせ、手首の噛み跡が少し疼いたが、気付かない振りをした。

 近くのラーメン屋に入り、早めの夕飯となった。
「旨かったな、あのラーメン屋」
 理月がそう素直な感想を述べると、
「当たりだったな」
 将星も満足そうに笑みを溢した。
 将星はバイクを止めてある駐輪場へ、理月はバイト先である居酒屋に向かって並んで歩く。遠目からでも将星のハーレーだとひと目で分かる程、将星のバイクは駐輪場で浮いているのが理月は少し笑えた。

「バイクいいよな。初めて乗ったけど気持ち良かった」
「おまえも免許取れよ。そんでツーリングでも行こうぜ」
「免許なぁ……でも、俺はバイク買ったところでメンテとか無理だし、俺は後ろに乗ってる方が気楽でいいな」
「なら……今度、バイクでどっか行かねえか? おまえの夏休みが終わる前に」
 こちらに目を向ける事なくそう言ってきた。将星は手にした鍵を、手の中で軽く上に投げそれをキャッチする行動を繰り返している。
「うん……そうだな……」
 理月の口から自然とそう言葉が漏れると途端、将星は満面の笑みを理月に向けた。
「そうか……! どこにする?……王道だけど、海がいいか? 海行って美味い海鮮もの食べるのもいいな」
 そう子供の様にはしゃぐ将星が少し可愛く見えてしまった。
 (子供みてえだな……)
 そんなに自分と出掛けるのが嬉しいのか、普段強面な男からは想像できないような無邪気な表情をしている。

「いいな、海鮮もの。海鮮丼とか食いてえな」
「そういや昔、ツーリングで行った食堂の海鮮丼が美味かったな」
 そこにするか? そう嬉しそうに尋ねられ理月はコクリと頷いた。
 将星は先程から言葉が止まることがない。
「はしゃぎ過ぎだろ」
 そんな将星を見、て理月の口から呆れた声が漏れていた。
「はしゃぎたくもなるさ! おまえとデートだぞ」
 その言葉に理月の顔が一気に熱くなる。
「デッ……!」
 思わず将星の左肩を叩いた。
「デートじゃねえだろ! アホか!」
 将星はそんな理月を見て、笑いを溢した。

 友達同士でバイクに二人乗りをして、出掛けたりもする。決してデートなんかではない、そう自分に言い聞かせる。
 これから少しずつ、将星と友達と言える関係になれるだろうか。きっと、将星と自分にはこういう関係が合っているのだ。自分の中で、将星の存在がまだ特別である事は認めざる得ない。でも、その特別な存在というのが、友として大切な《特別な存在》になっていけばいいと理月は思う。
 それでも、将星とのその日を楽しみにしている自分がいた。
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