ノノと夢みる人形

ツチフル

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3、夢みる人形を夢みる女の子をさがして

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 さて。
 今日はお人形と約束をしてから、一ヶ月ほど過ぎたある夜です。
 ノノはいつものように夜空をトントンと歩いていましたが、気分はすっかり落ちこんでいました。
 なぜなら、お人形の夢をみる女の子をまだ見つけることができていないからです。
「こんなの、見つけられっこないわ!」
 ノノがウンザリしてしまうのもしかたありません。
 お人形の夢をみる女の子をさがすには、ひとりひとり女の子の夢をのぞいてみなければならないのですが、こまったことに―― そして、あたり前のことですが―― 女の子 が住んでいるのはこの町だけではないのです。
 となりの町にも、そのとなりの町にも、そのとなりにも、またそのとなりにも、女の子はたくさん住んでいるのです。
 そのたくさんの女の子の中で、お人形の夢をみる女の子をさがさなければならないのですから「見つけられっこないわ!」 と、いいたくもなります。
「もう、女の子をさがすのはやめにしましょう。どうせ見つけられっこないもの。お人形さんには悪いけれど、あきらめるべきだわ」
 こんなふうにぼやいてばかりのノノですが、それでも毎日、毎夜、町から町へと歩きまわってはお人形の夢を見ている女の子をさがしつづけているのでした。
 だって、
「でも、やっぱり世界でいちばんすてきな夢は食べてみたいもの!」
 と、いうことです。
                


 さらに何ヶ月かが過ぎました。
 ノノはあれからも、ずいぶんとがんばったのです。
 東の町へも行きましたし、西の町へも行きました。
 北へも、南へも、さらにはその先の町さえも、ノノが行くことのできるところへはすべて行ったのです。
 それでも、あのお人形の夢を見る女の子は見つかりませんでした。
「きっと、もっとずっと、遠くへ引っこしてしまったんだわ」
 ひょっとしたら、海の向こうへ行ってしまったのかも……
 そうなってしまっては、とてもさがすことはできません。
 ノノはすっかりあきらめてしまい、トボトボと夜空を歩いていきます。
 行き先は、あの大きなお家。
 夢みるお人形に、女の子を見つけられなかったことを伝えにいくのです。
 お人形はきっと、とても悲しむことでしょう。
 ノノだって、とても悲しい気持ちでした。
 世界でいちばんすてきになるはずだったお人形の夢は、世界でいちばん悲しい夢になってしまうのです。
 そんなの、とても食べる気になんてなりません。
 と、そのとき。
「やあ、こんばんは」
 夜空をトボトボ歩くノノを、のんきな声が呼びとめました。
 見ると、いつもの夜ふかしの人がこちらに向かって手をふっています。
「こんばんは。あなたは今日も夜ふかしなのね。たまには早く眠ったらどうかしら。それで、すてきな夢を見たらいいのに」
  いつにもましてつっけんどんなノノに、夜ふかしの人は首をかしげました。
「どうしたんだい。今日はずいぶん、ごきげんナナメだね」
「それはそうよ」
「どうして?」
「だって、世界でいちばんすてきな夢が食べられなくなってしまったんだもの。ごきげんだって、ナナメになるわ」
「世界でいちばんすてきな夢? それはすごい!」
「でも、もう食べられないのよ」
「どうして食べられないんだい?」
「お人形を、女の子のところへつれて行ってあげられないからよ」
「お人形?」
「そう。夢みるお人形よ」
「夢みるお人形だって? 人形が夢をみるのかい? いったいどうやって?」
 夜ふかしの人は何のことわからず、つぎからつぎへと質問をしてきます。
 ノノはでも、それ以上お話をする気になりませんでした。
 ぜんぶ説明したところで、女の子の住んでいる場所がわかるわけではないのですから。
 だって、そうでしょう。
 夜ふかしの人が、女の子の引っこし先を知っているなんてこと――
 ノノはそこで「あら?」と首をかしげました。
「でも、ひょっとしたら……」と思ったのです。
 だって、あんなに大きなお家に住んでいたんですもの。
 もしかしたら、すごく有名な人たちだったかもしれません。
 そんな人たちの引っこし先なら、ひょっとして。と。
「ねえ。ちょっと、あなたに聞きたいのだけど」
「なんだい?」
 ノノはどうせガッカリするだけだわと思いながらも、夜ふかしの人に聞くことにしました。
「あなたは、あの大きなお家に住んでいた人たちがどこへ引っこしたのか、知っているかしら?」
「あの大きなお家って、どの大きなお家?」
「西にある、あの大きなお家よ」
 夜ふかしの人はすこし考えてから、ポンと手をたたきました。
「ひょっとして、あの町はずれの大きなお家のこと?」
「そう! そこに住んでいた人たちが、あの女の子がどこへ引っこしたのか、あなたは知ってるかしら?」
 期待に胸をふくらませるノノに、夜ふかしの人は肩をすくめて答えました。
「さあ、ぼくにはわからないな」
 それは、予想どおりの答えでした。
「…そうでしょうね」
 たしかに予想どおりの答えだったのに、ちがう答えを期待をしてしまったノノは今まで以上にガッカリしてしまいました。
 ガッカリしすぎて、小さな背中がますます小さくなっています。
 それはでも、ほんの一瞬のことでした。
 夜ふかしの人の話は、まだ終わっていなかったのです。
「さあ、ぼくにはわからないな」といったあとで、夜ふかしの人はこんなふうにつづけました。
「だって、あの大きなお家は、ぼくが生まれるずっと前から誰も住んでいないんだもの」



 ノノは大きなお家にたどりつくと、いちばん奥の、いちばん小さなお部屋にとびこみ、ベッドで眠るお人形のおでこを力いっぱいこすりました。
 たちまち白いモヤモヤの夢があわらわれ、そこに青い目のお人形が映し出されます。
「あまり強くこすらないでちょうだい! おでこがすりきれてしまうわ」
「そんなことより、聞きたいことがあるの!」
「なにかしら? ねえ、あの子を見つけてくれたの?」
「その女の子のことよ!」
「あの子のこと? それなら、たくさんお話したでしょう」
「もうひとつだけ教えてほしいの」
 ノノはドキドキする胸をおさえながら、お人形に聞きました。
「女の子がこのお部屋を出ていってしまったのは、いったい、いつのこと?」
「いつですって? ずいぶん変なことを聞くのねえ。あの子が出て行ったのは、ついこの間よ」
「ついこの間って、どれくらい前のこと?」
「だから、ついこの間よ」
「ちゃんと教えて!」
 お人形は「どうしてそんなことを聞くのかしら?」と不思議に思いながら、ふわりといいました。
「ほんの、七十年前よ」
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