外れスキル【レバレッジたったの1.0】を進化させ、俺はエルフ聖女と無双する ―冒険者パーティ追放勇者、バージョンアップの成り上がり―

緋色優希

文字の大きさ
84 / 169
第一章 外れスキル【レバレッジたったの1.0】

1-84 ついに来たチャンス

しおりを挟む
「ほお、それはなかなか殊勝な心掛けだな。

 マルコス、時計はあるか。
 携帯できる軽量で丈夫な物がいい。

 なければ、とりあえず私の物を与える。
 王都でもう一つ用意してくればよかったな」

「それでは、とりあえず私のものをどうぞ。
 首から下げられる物で、なかなか便利な物にございますよ」

 そう言って彼は自分の首に提げていた、見事な金時計をはずして俺に差し出した。

 立派な高級品だから、きっちりタイムを測ってくれる事だろう。

「そいつを貰ってしまって、お前の政務に支障はないのか」

「大丈夫でございます。
 近々、新調する予定もありましたので、どの道マイアに譲るつもりでございました。

 それは明日ないし明後日にも届く予定でございます。
 彼女にはもう一つ同じ新品を発注しておきましょう」

「ならよい」

「これにはストップウォッチの機能もついております。
 使い方はここをこうして押します。
 止めるのはこうでリセットはこう」

「ありがとう。
 俺は今すぐにそれが欲しいんで」

 俺は恭しくそれを受取った。
 それを見た先輩の目が異様に妖しく光を帯びた。

 ふん、食い付いてきたな、こっちの狙いぴったりだぜ。

「リクル、今から塔に登るのかい」

「まだだよ、先輩。
 そう慌てなさんな。
 塔は逃げやしないよ。
 まだ大司祭様のお話が途中だし、これから武具を持ってきてくれるところじゃないか」

「僕は武具なんかよりも、ドラゴンを倒した今の君の力が知りたいなあ」

「だから慌てるなって、先輩。
 それはこっちだって望むところなんだからさ」

 そう、時計で計るなんて言えば、先輩が食いついてくると思ったのさ。

 果たして、今の俺にこの先輩から鬼ごっこで逃げ切れる力があるのかどうか!

 比較的安全そうな鬼ごっこで勝負だ。

 こういう、御遊び的な要素を混ぜてやると、この先輩は妙なスイッチを入れずに純粋に勝負してくれるはずなのだ。

 この塔という壮大な仕掛けは、その舞台として実に相応しい。

 そのうちに試してやろうと思い、ずっとその機会を虎視眈々と狙っていたのだから。

 ついにその機会は到来した。
 バージョン11目前の力でブーストをかけて先輩から逃げられなければ、更に精進と鍛錬あるのみよ。

 地下遺跡探索で、目指せバージョン12.0。

 あんな蜥蜴どもの相手なんか、ただの余興も同然だ。
 素で、このヤバ過ぎる狂人の相手をする脅威に比べたらな!

 それを見て、俺の鬼教官どもも笑っていた。
 もしかしたら一緒に参加する気なのか?

 この人達が先輩相手にどれくらいやれるものなのか興味は尽きないが、今日のところはただの邪魔者だよな。

「リクル。バージョンを上げるつもりならば今日中にな。
 我々は街へ支度に行くから、明日からダンジョンに潜るぞ」

「ちょっと!」
 また姐御がスパルタな事を言い出し、先輩の目に宿った狂気が加速している。

 姐御、今の台詞は絶対にわざとだよな。
 くそったれ。

 彼女の身体に流れる聖女バルバディアと同じ血筋に賭けて、聖女なんて奴らはどいつもこいつも碌な物じゃない。

 きっと歴代勇者達は、草葉の陰でうんうんと頷いてくれているはずだ!

「ではお話の続きを。
 そして、それからです。
 ダンジョンに異変のような物が起き出したのは。

 やたらと宝箱が発生して昔の武具のような物や、古い刻印のインゴットなどが湧くようになったのです」

「なるほどな、その辺りは噂に聞いた通りだ」

「皆が噂しておりました。
 それは古の時代に邪神に挑んだ者達の遺物や、当時の産物なのだと。

 その武具の多くが破損した物ばかりでしたもので。
 そして、それは邪神復活の予兆なのではないかと恐れたのです」

 俺達のパーティはさすがに沈黙した。
 俺はチラっと先輩の変わらずド派手な趣味の【布の鎧】に目をやった。

 そいつは武具に入るものなのかどうか。
 野郎は不敵に笑うのみだったのだが。

「そしてダンジョンに潜った冒険者も恐ろしいほどの数が戻ってまいりませんでした。

 冒険者協会は事態を重く見て初級冒険者の探索を禁じました。

 そして中級以上の者がパーティを再編成して倍の人数のパーティで潜ったのでありますが、やはり多くの者が戻ってこなかったのです」

「想像以上にヤバイなあ。
 聞いていた話よりもかなり酷いぞ」

「そうです。
 だから諦めた冒険者は立ち去り、中には食うに困り盗賊に身をやつしたものなどもおります。

 一旦南のラビワンへ向かった物も多数おるのでは。
 今潜っておる冒険者もどれだけの者が戻ってこれるやら」

 やっぱり、あの槍目当ての追い剥ぎの内の幾人かや、また道中に現れた冒険者崩れの盗賊なんかも、そういう連中のお仲間なのかねえ。

「住人達も一様に厳しい顔をしておる次第でありまして、我々も対応しあぐねておりました次第にございます。
 聖女様の来られる報をいただき、歓喜しておった次第なのでありますが」

 この大司祭様らしきお方の渋い顔も無理はない。

「そして、私がそれを収めにやってきたタイミングでドラゴンの大群が現れたと言う訳か」

「左様にございます。
 噂に震える者ばかりではございません。
 蔭では邪神を崇拝する者達も動き出しているのでございましょう」

 かーっ、碌でも無さに拍車がかかってきたな。

 本来なら俺達の一行は、あの王都を上回るほどの大群衆から『聖女様万歳』の歓喜で迎えられていたはずなのか。

「それはつまり」
「へたをすれば、直接聖女様のパーティも狙われかねないという事でございます」

「ほお、そいつはまた好都合だな。
 是非ひっとらえて内幕を吐かせよう」

 そえを聞いた大司祭様はにっこりとお笑いになった。
 この人も敬謙な割には大概だなあ。

 うわあ、まったくなんて聖女だ。
 きっと拷問して自白させるテクや、その手の魔法も各種常備していやがるのに違いない。

 この女、本当に聖女なのだろうか⁉

 まあ少なくとも正義の御旗を心に掲げ、決して悪の道を行かれる事だけはないのだろうが。

 そして、常に『勇者の小僧』の襟首を掴んで邪神との戦いに備えていらっしゃるのだろう。

 そこへ台車に載せられた数々の武具が持ってこさせられた。
 確かに破損した物が殆どだ。

 普通なら魔法金属の再利用という事で鋳潰されてしまうような物だが、古代の貴重な術式が込められている者が多いので研究用に高価買い取りなのだ。

 これを手にした冒険者連中は一生遊んで暮らせる金を手にして王都暮らしなのだろう。
 そして入れ替わりにやってきたのが俺達という訳だ。

「大司祭よ。
 これはわしが貰い受けてよいかな。
 術式を解析できなかったものについては返却しよう。

 出来たものについては、その結果を実用化可能な報告書にまとめてから、わしが打ち直して再生する事にしよう」

 やっぱり、この方は大司祭様なのであったらしい。
 全然威張っていないから大司祭と言われてもあまりピンとこないのだけれども。

「はは、偉大なる聖女様のブラックスミス・エルバニッシュ導師よ。
 仰せのままに」

 おー、すげえな、バニッシュは。

 もしかして、俺の装備も魔法金属で古代と現代の英知を併せ持って出来ちゃうのかな。

 出来れば【対先輩用に】凄いのを作ってほしい!
 俺も頑張って宝箱を捜そうっと。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勤続5年。1日15時間勤務。業務内容:戦闘ログ解析の俺。気づけばダンジョン配信界のスターになってました

厳座励主(ごんざれす)
ファンタジー
ダンジョン出現から六年。攻略をライブ配信し投げ銭を稼ぐストリーマーは、いまや新時代のヒーローだ。その舞台裏、ひたすらモンスターの戦闘映像を解析する男が一人。百万件を超える戦闘ログを叩き込んだ頭脳は、彼が偶然カメラを握った瞬間に覚醒する。 敵の挙動を完全に読み切る彼の視点は、まさに戦場の未来を映す神の映像。 配信は熱狂の渦に包まれ、世界のトップストリーマーから専属オファーが殺到する。 常人離れした読みを手にした無名の裏方は、再びダンジョンへ舞い戻る。 誰も死なせないために。 そして、封じた過去の記憶と向き合うために。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

自由でいたい無気力男のダンジョン生活

無職無能の自由人
ファンタジー
無気力なおっさんが適当に過ごして楽をする話です。 すごく暇な時にどうぞ。

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

(更新終了) 採集家少女は採集家の地位を向上させたい ~公開予定のない無双動画でバズりましたが、好都合なのでこのまま配信を続けます~

にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
突然世界中にダンジョンが現れた。 人々はその存在に恐怖を覚えながらも、その未知なる存在に夢を馳せた。 それからおよそ20年。 ダンジョンという存在は完全にとは言わないものの、早い速度で世界に馴染んでいった。 ダンジョンに関する法律が生まれ、企業が生まれ、ダンジョンを探索することを生業にする者も多く生まれた。 そんな中、ダンジョンの中で獲れる素材を集めることを生業として生活する少女の存在があった。 ダンジョンにかかわる職業の中で花形なのは探求者(シーカー)。ダンジョンの最奥を目指し、日々ダンジョンに住まうモンスターと戦いを繰り広げている存在だ。 次点は、技術者(メイカー)。ダンジョンから持ち出された素材を使い、新たな道具や生活に使える便利なものを作り出す存在。 そして一番目立たない存在である、採集者(コレクター)。 ダンジョンに存在する素材を拾い集め、時にはモンスターから採取する存在。正直、見た目が地味で功績としても目立たない存在のため、あまり日の目を見ない。しかし、ダンジョン探索には欠かせない縁の下の力持ち的存在。 採集者はなくてはならない存在ではある。しかし、探求者のように表立てって輝かしい功績が生まれるのは珍しく、技術者のように人々に影響のある仕事でもない。そんな採集者はあまりいいイメージを持たれることはなかった。 しかし、少女はそんな状況を不満に思いつつも、己の気の赴くままにダンジョンの素材を集め続ける。 そんな感じで活動していた少女だったが、ギルドからの依頼で不穏な動きをしている探求者とダンジョンに潜ることに。 そして何かあったときに証拠になるように事前に非公開設定でこっそりと動画を撮り始めて。 しかし、その配信をする際に設定を失敗していて、通常公開になっていた。 そんなこともつゆ知らず、悪質探求者たちにモンスターを擦り付けられてしまう。 本来であれば絶望的な状況なのだが、少女は動揺することもあせるようなこともなく迫りくるモンスターと対峙した。 そうして始まった少女による蹂躙劇。 明らかに見た目の年齢に見合わない解体技術に阿鼻叫喚のコメントと、ただの作り物だと断定しアンチ化したコメント、純粋に好意的なコメントであふれかえる配信画面。 こうして少女によって、世間の採取家の認識が塗り替えられていく、ような、ないような…… ※カクヨムにて先行公開しています。

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕 タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】 3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

処理中です...