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第二章 バルバディア聖教国モンサラント・ダンジョン
2-2 扉
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「姐御。
どうせ勇者の子孫なんだから、そこの先輩が勇者でもよかったんじゃないの?」
「はっはっは、いくら私が長生きし過ぎたからって、そこまでボケてはおらんよ。
第一、そいつは元々お前の後を追いかけてきただけじゃないか」
それを受けて先輩が、またいつもの何とも言えない『達観した狂人の目』を静かに燃やして俺を眺め回す。
「ふ、今は親父の勅命もいただいてきたのだから安心するがいい。
リクルよ、しばらくは堂々と王命の下、お前を見張れそうだ」
「それって、本当は先輩から強請ったんじゃないの⁉」
妖しい笑みを浮かべて返事をしないところを見ると、図星か!
あの王様、この狂人に凄く甘いからなあ。
まあ実の子供なんだからしょうがないんだけど。
もしかしたら勇者の一族なんだから強い子供には甘いという側面もあるのかもしれない。
俺はステーキの二枚目を半分ほどたいらげたところで、後ろで給仕をしてくれている若い神官さんに遠慮なく三枚目のステーキを頼んでから提案した。
「なあ、今回のダンジョンアタックに関しての、各メンバーの目標というか希望を明確にしておかない?
後で本当はこうしたかったとかいうのは嫌だしさ」
「俺は、お前がここ聖都でしっかり美味しく育って俺に食われる事が望みだな」
「先輩、そういう事は聞いてねえんだよ。
というか、すべての能力が十倍になっても、まだあそこまでボコボコにされるくらいの能力差ってなんだ!」
「それは単に、お前が弱すぎるだけの話だ。
あれでも結構手加減はしたのだぞ。
相手の固さを見定める前に、うっかり殺してしまうような事も多くてな。
いつもヒヤヒヤしているのだ」
この時、俺は先輩の言う弱さという言葉の意味がよく理解できていなかったのだ。
「かーっ、こんな事を言っている奴がいるう」
あれで手加減したのだと⁉
スキルによるブースト抜きで、百十倍の身体の頑丈さと二百倍のダメージ軽減に百十倍の回復力でも、あれだけのダメージを食らっているというのに。
「私は基本的に聖女として邪神を封印した者の責任で、最近様子がおかしいと言うダンジョンの見回りに来ただけで、それが出来ればいい。
そもそも今回の遠征は、新しい魔法武具や魔法金属を入手するのが当初の主な目的だったのだから。
ここへ近づくにつれ、どんどん話がキナ臭くなってきたのだがな」
「そういや、そうだったね」
なんか、あちこちで姐御が崇められて、とうとう俺まで勇者扱いで万歳コールなんだから。
それに関しては姐御がいけないんだけど。
瓢箪から駒で、今では俺も本格的に勇者扱いだ。
「あ、私からも一ついいですか」
食後のお茶をしながら、案内人の神官マイアから探索についての提案があった。
「なんだ、マイア。
宝箱からのお宝の中から、回復用の杖でも欲しいのか」
「ああ、それも手に入れば嬉しいですが、現状では特に困ってはいませんので。
それよりも、ダンジョン内に出現する扉に関しての調査がしたいですね」
その不穏な響きに姐御は、その整った眉の片方をピクリと撥ね上げた。
「扉だと。それは初耳だな。
何の話だ」
「ええ、それは発見した冒険者達の報告にあったのですが」
扉ねえ。
向こうのダンジョンにそのような物は……。
「そいつはラビワンにもあったな」
その場にいた全員が、その発言をした先輩に注目した。
「え、何それ。
俺は聞いてないけど」
「お前のようなペーペーが知っているはずもない。
俺達、深層の最奥まで踏み込んだ踏破者なら知っている話なのだが。
俺の親父も踏破者だったが、当然ながら彼も見たと言っている」
あの国王様ってば、惚けた顔してとんでもない人だな。
蛙の親は蛙だったか。
そういや、あの王様ってこいつよりも強い人なんだった。
手加減付きで先輩にフルボッコにされたばかりの、今の俺ならば彼の強さも推し量る事が可能だ。
要は今の俺が百人いたとしたって、あの王様なら笑顔を添えた無手の指一本で全滅させる事が可能だという事さ。
「ラビワンの扉、それは一体どんな物なのですか?」
興味深そうにマイアが訊いていたが、先輩は事も無げに言った。
「俺達が見たのは、まず【最終の扉】だ。
ダンジョンコアを守る最後の番人がいる場所を守る扉だ。
そこには、この古の都ニムロデでも用いられていた古代文字でこう書かれている。
『この地獄の門を開けし者に、死と至福を与える』とな。
他にあそこで見る扉とは、ここでいう宝箱のような物なのだが、まあ大概はトラップルームの入り口だな」
それ、たぶんこのダンジョンでも同じなんじゃないのかな。
嫌だねえ。
どうせ勇者の子孫なんだから、そこの先輩が勇者でもよかったんじゃないの?」
「はっはっは、いくら私が長生きし過ぎたからって、そこまでボケてはおらんよ。
第一、そいつは元々お前の後を追いかけてきただけじゃないか」
それを受けて先輩が、またいつもの何とも言えない『達観した狂人の目』を静かに燃やして俺を眺め回す。
「ふ、今は親父の勅命もいただいてきたのだから安心するがいい。
リクルよ、しばらくは堂々と王命の下、お前を見張れそうだ」
「それって、本当は先輩から強請ったんじゃないの⁉」
妖しい笑みを浮かべて返事をしないところを見ると、図星か!
あの王様、この狂人に凄く甘いからなあ。
まあ実の子供なんだからしょうがないんだけど。
もしかしたら勇者の一族なんだから強い子供には甘いという側面もあるのかもしれない。
俺はステーキの二枚目を半分ほどたいらげたところで、後ろで給仕をしてくれている若い神官さんに遠慮なく三枚目のステーキを頼んでから提案した。
「なあ、今回のダンジョンアタックに関しての、各メンバーの目標というか希望を明確にしておかない?
後で本当はこうしたかったとかいうのは嫌だしさ」
「俺は、お前がここ聖都でしっかり美味しく育って俺に食われる事が望みだな」
「先輩、そういう事は聞いてねえんだよ。
というか、すべての能力が十倍になっても、まだあそこまでボコボコにされるくらいの能力差ってなんだ!」
「それは単に、お前が弱すぎるだけの話だ。
あれでも結構手加減はしたのだぞ。
相手の固さを見定める前に、うっかり殺してしまうような事も多くてな。
いつもヒヤヒヤしているのだ」
この時、俺は先輩の言う弱さという言葉の意味がよく理解できていなかったのだ。
「かーっ、こんな事を言っている奴がいるう」
あれで手加減したのだと⁉
スキルによるブースト抜きで、百十倍の身体の頑丈さと二百倍のダメージ軽減に百十倍の回復力でも、あれだけのダメージを食らっているというのに。
「私は基本的に聖女として邪神を封印した者の責任で、最近様子がおかしいと言うダンジョンの見回りに来ただけで、それが出来ればいい。
そもそも今回の遠征は、新しい魔法武具や魔法金属を入手するのが当初の主な目的だったのだから。
ここへ近づくにつれ、どんどん話がキナ臭くなってきたのだがな」
「そういや、そうだったね」
なんか、あちこちで姐御が崇められて、とうとう俺まで勇者扱いで万歳コールなんだから。
それに関しては姐御がいけないんだけど。
瓢箪から駒で、今では俺も本格的に勇者扱いだ。
「あ、私からも一ついいですか」
食後のお茶をしながら、案内人の神官マイアから探索についての提案があった。
「なんだ、マイア。
宝箱からのお宝の中から、回復用の杖でも欲しいのか」
「ああ、それも手に入れば嬉しいですが、現状では特に困ってはいませんので。
それよりも、ダンジョン内に出現する扉に関しての調査がしたいですね」
その不穏な響きに姐御は、その整った眉の片方をピクリと撥ね上げた。
「扉だと。それは初耳だな。
何の話だ」
「ええ、それは発見した冒険者達の報告にあったのですが」
扉ねえ。
向こうのダンジョンにそのような物は……。
「そいつはラビワンにもあったな」
その場にいた全員が、その発言をした先輩に注目した。
「え、何それ。
俺は聞いてないけど」
「お前のようなペーペーが知っているはずもない。
俺達、深層の最奥まで踏み込んだ踏破者なら知っている話なのだが。
俺の親父も踏破者だったが、当然ながら彼も見たと言っている」
あの国王様ってば、惚けた顔してとんでもない人だな。
蛙の親は蛙だったか。
そういや、あの王様ってこいつよりも強い人なんだった。
手加減付きで先輩にフルボッコにされたばかりの、今の俺ならば彼の強さも推し量る事が可能だ。
要は今の俺が百人いたとしたって、あの王様なら笑顔を添えた無手の指一本で全滅させる事が可能だという事さ。
「ラビワンの扉、それは一体どんな物なのですか?」
興味深そうにマイアが訊いていたが、先輩は事も無げに言った。
「俺達が見たのは、まず【最終の扉】だ。
ダンジョンコアを守る最後の番人がいる場所を守る扉だ。
そこには、この古の都ニムロデでも用いられていた古代文字でこう書かれている。
『この地獄の門を開けし者に、死と至福を与える』とな。
他にあそこで見る扉とは、ここでいう宝箱のような物なのだが、まあ大概はトラップルームの入り口だな」
それ、たぶんこのダンジョンでも同じなんじゃないのかな。
嫌だねえ。
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