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第二章 バルバディア聖教国モンサラント・ダンジョン
2-8 遺跡巡回
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「では、私の巡回コースに沿ってまいりますか。
まあなんといいますか、いつもの順路のような物に従って歩くといい感じですか」
ここは遺跡というだけあって、ラビワンの入り口とは異なり、古びた石造りの少々苔生したような床や壁が目を引く。
湿度は少し高そうだ。
「相変わらず湿った場所だ」
「外の明かりは入ってくるんだな」
「ああ、それはそういう風に感じるだけで人工的に照明を設けてあるのです。
特殊な魔導灯の灯りですね」
「ありゃあ」
「まあムードは大切なものなので。
これも魔石を供給してやらないと動きませんので、こうもダンジョンが閑散としてしまうと困ったものです。
今は節約して灯りは一つ置きなのです」
「あ、道理で以前に比べると妙に暗いと思った」
「へえ、ここって下は何階まであるのですか」
「結構ありますよ。
まあ深層タイプではないダンジョンなので比較的浅いですがね。
ここ遺跡ゾーンはアンデッド系の魔物が多いです。
出る種類は雑多な場合が多く、階層魔物という感じではないですね。
もちろん下にいる奴の方が手強いのですが」
「それって、生とか半生も出るの?」
生……思わず想像してしまった。
ラビワンでは中層にはいなかったのだが。
下層に行くといるらしいのだが、特に会いたくはない気分だ。
「いえ、干物ばっかりですのでご安心ください」
「そう。
蛆が湧いた半生とか苦手なのよ。
あたしはこのパーティの中では比較的新参者だから、ここは初めてなんだし」
「そんなものは男だって嫌です」
「リクル、生や半生が出たらお前の担当にしよう。
俺は素手だからな」
「あ、先輩きったねえ。
俺だって半生は嫌っすよ。
ラビワンじゃどうしていたんですか」
「そんな物は無視だ。さっさと抜ければいい」
うわあ。
それで下層の魔物の襲撃を足さばきだけで凌げるくらいでないと、あそこの踏破者にはなれないのかあ。
俺もラビワンに戻って無事にダンジョンへ潜れたら、先輩に倣って、そこは走って抜けるとするか。
「先輩だって今日はミスリル剣を持っているじゃないですか」
「雑魚を片付けるのは下っ端の役目だ」
「う、そいつにだけは反論できない」
どう見ても、この面子の中じゃあ俺が一番下っ端なのだ。
これじゃブライアンのところとそう変わらんな。
まあ今日は武器を使っちゃいけないなんて無慈悲な事は言われていないのだが。
俺だって半生を素手でやるのは嫌だ。
まあここは干物しか出ないそうだけど。
そして俺は油断していた。初めてのダンジョンの景色が物珍しかったのもある。
何しろ、この強面な面子での練り歩きだから、おかしな奴にちょっかいをかけられるような事はあるまいと高を括っていたのだが。
あたりをキョロキョロしながら、その扉とやらを捜していた俺は、いきなり後ろから背嚢を掴まれて引き摺られた。
それはまた、予期せぬ瞬間に突然来られると今の俺でさえ抗えないような物凄い力だったのだ。
「うわあああ」
俺の叫びに振り向いた皆が見たものは。
なんだか緑色をした人間っぽい何かに『扉の中へ』後ろ向きに顔を引き攣らせながら引き摺り込まれていく俺の姿だったろう。
「今の、何?」
「突然、扉が湧いて、しかも勝手に開いた」
「いきなり出現して、向こうから勝手に開けて、中に人間を引き摺り込むのか」
「なるほど、扉について有意義な調査ができましたね。
聞いていますか、リクルさん。
内部についての詳しいリポートをお願いいたします」
「おい、リクル。強そうな相手は俺に回せと言っただろう。
まあドラゴナイトなんぞいらないがな。
さっさと片付けて出てこい。
その手の扉は、普通なら外からは開けられんはずだ。
今も外からは扉が見えなくなっている。
いきなり消化しにかかるミミックじゃなくてよかったな」
くそう、みんな勝手な事を言いやがって。
振り向けば、俺の背嚢を掴んだままじっと見つめてくる蜥蜴人間がいた。
こいつはリザードマンじゃないな。
リザードマンは中層にいる魔物なので、俺も見た事がある。
あれは、ここまでの迫力はない、もっとひょろりっとした感じの奴だ。
おそらく先輩の言った通り、これはドラゴナイトのようだ。
いかにも固そうな鱗に包まれた体躯は凄まじい力を秘めていそうだ。
今の俺の、体の頑丈さと防御力がなかったら泣けるところだぜ。
そして、そいつは何故かぐいぐいと問答無用で俺を引っ張っていく。
「おい、どこへ連れていくつもりなんだよ!」
俺はバックステップのまま歩かされて文句をつけた。
だが奴は当然答えない。
まあ、普通は魔物が喋らないわな。
と思いきや。
「ショウブダ、コゾウ。
オマエガカテバ、ヨイ、ショウヒンヲヤロウ」
「魔物から何か言われてる⁉」
まあなんといいますか、いつもの順路のような物に従って歩くといい感じですか」
ここは遺跡というだけあって、ラビワンの入り口とは異なり、古びた石造りの少々苔生したような床や壁が目を引く。
湿度は少し高そうだ。
「相変わらず湿った場所だ」
「外の明かりは入ってくるんだな」
「ああ、それはそういう風に感じるだけで人工的に照明を設けてあるのです。
特殊な魔導灯の灯りですね」
「ありゃあ」
「まあムードは大切なものなので。
これも魔石を供給してやらないと動きませんので、こうもダンジョンが閑散としてしまうと困ったものです。
今は節約して灯りは一つ置きなのです」
「あ、道理で以前に比べると妙に暗いと思った」
「へえ、ここって下は何階まであるのですか」
「結構ありますよ。
まあ深層タイプではないダンジョンなので比較的浅いですがね。
ここ遺跡ゾーンはアンデッド系の魔物が多いです。
出る種類は雑多な場合が多く、階層魔物という感じではないですね。
もちろん下にいる奴の方が手強いのですが」
「それって、生とか半生も出るの?」
生……思わず想像してしまった。
ラビワンでは中層にはいなかったのだが。
下層に行くといるらしいのだが、特に会いたくはない気分だ。
「いえ、干物ばっかりですのでご安心ください」
「そう。
蛆が湧いた半生とか苦手なのよ。
あたしはこのパーティの中では比較的新参者だから、ここは初めてなんだし」
「そんなものは男だって嫌です」
「リクル、生や半生が出たらお前の担当にしよう。
俺は素手だからな」
「あ、先輩きったねえ。
俺だって半生は嫌っすよ。
ラビワンじゃどうしていたんですか」
「そんな物は無視だ。さっさと抜ければいい」
うわあ。
それで下層の魔物の襲撃を足さばきだけで凌げるくらいでないと、あそこの踏破者にはなれないのかあ。
俺もラビワンに戻って無事にダンジョンへ潜れたら、先輩に倣って、そこは走って抜けるとするか。
「先輩だって今日はミスリル剣を持っているじゃないですか」
「雑魚を片付けるのは下っ端の役目だ」
「う、そいつにだけは反論できない」
どう見ても、この面子の中じゃあ俺が一番下っ端なのだ。
これじゃブライアンのところとそう変わらんな。
まあ今日は武器を使っちゃいけないなんて無慈悲な事は言われていないのだが。
俺だって半生を素手でやるのは嫌だ。
まあここは干物しか出ないそうだけど。
そして俺は油断していた。初めてのダンジョンの景色が物珍しかったのもある。
何しろ、この強面な面子での練り歩きだから、おかしな奴にちょっかいをかけられるような事はあるまいと高を括っていたのだが。
あたりをキョロキョロしながら、その扉とやらを捜していた俺は、いきなり後ろから背嚢を掴まれて引き摺られた。
それはまた、予期せぬ瞬間に突然来られると今の俺でさえ抗えないような物凄い力だったのだ。
「うわあああ」
俺の叫びに振り向いた皆が見たものは。
なんだか緑色をした人間っぽい何かに『扉の中へ』後ろ向きに顔を引き攣らせながら引き摺り込まれていく俺の姿だったろう。
「今の、何?」
「突然、扉が湧いて、しかも勝手に開いた」
「いきなり出現して、向こうから勝手に開けて、中に人間を引き摺り込むのか」
「なるほど、扉について有意義な調査ができましたね。
聞いていますか、リクルさん。
内部についての詳しいリポートをお願いいたします」
「おい、リクル。強そうな相手は俺に回せと言っただろう。
まあドラゴナイトなんぞいらないがな。
さっさと片付けて出てこい。
その手の扉は、普通なら外からは開けられんはずだ。
今も外からは扉が見えなくなっている。
いきなり消化しにかかるミミックじゃなくてよかったな」
くそう、みんな勝手な事を言いやがって。
振り向けば、俺の背嚢を掴んだままじっと見つめてくる蜥蜴人間がいた。
こいつはリザードマンじゃないな。
リザードマンは中層にいる魔物なので、俺も見た事がある。
あれは、ここまでの迫力はない、もっとひょろりっとした感じの奴だ。
おそらく先輩の言った通り、これはドラゴナイトのようだ。
いかにも固そうな鱗に包まれた体躯は凄まじい力を秘めていそうだ。
今の俺の、体の頑丈さと防御力がなかったら泣けるところだぜ。
そして、そいつは何故かぐいぐいと問答無用で俺を引っ張っていく。
「おい、どこへ連れていくつもりなんだよ!」
俺はバックステップのまま歩かされて文句をつけた。
だが奴は当然答えない。
まあ、普通は魔物が喋らないわな。
と思いきや。
「ショウブダ、コゾウ。
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