108 / 169
第二章 バルバディア聖教国モンサラント・ダンジョン
2-21 同志よ
しおりを挟む
だが、俺が背を向けた途端に、通路の方から男性の悲鳴が坑道ダンジョンに轟々と反響して轟いた。
「なんだ⁉」
俺は慌てて角の向こうまで出た。
こういう時も狼が先に立ち、安全を確認してくれている。
数人の冒険者が坑道の何もない壁の前で集まっている。
リナも一緒だ。
「どうした、リナ。
まさか、そこに」
「そのまさかよ。
お姉ちゃんの彼氏が扉の中に引っ張り込まれたみたい」
「マイケル、マイケル!」
「アレナ、俺は見たぞ。
緑色をした人型の奴があいつを凄い勢いで引っ張り込むのを」
「こんな現象は聞いた事がない」
「あっはっはっは」
俺の笑い声に、その場にいたメンバーの険しい顔が揃う。
そして詰問してきた。
いやあ、つい。
「貴様、何がおかしい!」
「ああ、すいません。
いやうちの先輩みたいに、この『混沌の扉』を捜していて扉を開けまくって間抜けにも中で捕まっている人もいれば、こんな感じに普通に『混沌の扉』へ連れ込まれちゃう人もいるんだなと思って。
さてはマイケルさんって強者なんだなあ」
少なくとも、アイツに見込まれる程度には『見所がある』人のはずなのだ。
おそらく、ここの中級冒険者らしい人達のリーダーなのだろう。
「何、『混沌の扉』だと⁉」
俺に半ば詰め寄っていた彼も困惑を隠せないようだった。
「中にいるのが『緑色をした人型の奴』ことドラゴナイトなら、そう心配ないと思うけどな。
それに、いくら外から心配したって中側から出てくるしかないよ。
その人、根性の方はどうです」
「は? 根性だと」
「ええ、根性を見せて頑張ると、こういういい物がもらえるかもよ」
俺はオリハルコンの槍を前に突き出して見せた。
皆の視線が、思わずその高性能なアイテムに集中した。
全員の視線が集中するのは、さすがに冒険者パーティだ。
「もし根性がなかったら?」
「すぐに手ぶらで出てくるんじゃないかと思います」
「そ、そうなの?」
そして、その直後に早くも彼は中から飛び出てきた。
「は、はやっ。
ええい、マイケルさんの根性無し~!」
「ええっ。誰だ、君は!」
いきなり見ず知らずの俺から根性無し呼ばわりされて驚く彼。
「よかった、無事で」
美人の恋人から、鎧越しに抱き着かれながらも彼は悔しさを滲ませた。
「クソウ、ショウヒンハ、スンゲエケンダッタノニ。
アレハ、ホシカッター」
「何故、ドラゴナイト風の喋り方!」
「君、どうしてそれを知っているんだ!
って、ああそうか。
いやあ、羨ましいな」
彼は俺の槍を羨望の眼差しで見つめた。
「ちなみに今日の競技は何でした?」
「鬼ごっこさ。
追いかけて捕まえたら勝ちだったんだけど、もう少しで周回遅れにされるところだったから慌ててギブアップ宣言したのさ」
中級冒険者とドラゴナイトの鬼ごっこか。
そりゃあ早い決着がつく訳だ。
足も速いのかよ。
無敵の怪物だな。
主にビースト族的な方向性を備えた。
「もし、捕まっていたら?」
「さあなあ、朝まであいつと鍛練だったかもしれないなあ。
あれはそういう奴だった」
「うわあ、次こそ無事賞品が取れるようにってか~!
親切なのか、単に自分の趣味に付き合わせたいだけなのか。
その手の鍛練なら間に合っているよ。
俺はなんとか勝ててよかったなあ」
俺と彼は苦笑いで友情を分かち合った。
彼らは臨時で遊びに来ているリナを加えて、総勢五人だった。
もうすぐ新人二名を加える予定だそうで、メンバー全員が中級になったお祝いにここで腕試しをしていたらしい。
骨休めの意味もあり、隣国から来たと言う。
「まあ、ここのダンジョンからはいい物も貰っちゃったしね。
あたしはホクホクよー」
「まあ、せっかくの聖都のダンジョンなんだ。
楽しんでいくさ」
みんな結構いい根性をしているな。
逃げ出す奴らも多いというのに。
まあこれくらいの根性がなかったら、本来冒険者なんてやっていけないのだがなあ。
「よかったら、君も一緒に探索するかい」
「ありがとう、そうしようかな。
遺跡探索がメインなんだけど、今日は他のメンバーが来ていないんで、一人でも大丈夫そうなこっち側にいるんだ」
「もしかして扉が目当てなのか?」
「正確に言えば、大神殿の神官さんと一緒に調査活動をしているのさ。
昨日なんか、酷かったぞ。
大神殿の壁に扉が湧いて、その中でパーティメンバーであるラビワン・ダンジョンの踏破者が中で強い魔物に捕まってしまっていたからな。
やっぱり、あの扉はヤバイ」
「踏破者がか⁉」
「おいおい、そいつは洒落にならねえな」
「それで、そいつはどうした」
「後で引っ張り込まれた間抜けな俺と二人で撃破したけど、しかもお宝無しのスカだった」
「うっわー、きっついなあ、それは」
「罰ゲームかよ」
「まあ、お陰様でそこの主の素材は手に入ったけどね。
あと、お宝の代わりがこの子達なんだ。
みんな、出ておいで」
再び、隠しておいた狼達を見えるようにしてやる。
「何それ、もしかして霊獣なの」
「うぇーい」
うちの子達は何故かリナのお姉ちゃんに集中して群がっていった。
何気に女の方に懐くのか?
まあ動物って、女子供によく懐くものだけど。
「可愛いわね」
「それにしてもいいなあ、リナのポーチ」
それを聞いて、腕組みして自慢そうなリナ。
「リナが持っているそいつはレアだから、なかなか出ないと思うぞ」
「なんだ⁉」
俺は慌てて角の向こうまで出た。
こういう時も狼が先に立ち、安全を確認してくれている。
数人の冒険者が坑道の何もない壁の前で集まっている。
リナも一緒だ。
「どうした、リナ。
まさか、そこに」
「そのまさかよ。
お姉ちゃんの彼氏が扉の中に引っ張り込まれたみたい」
「マイケル、マイケル!」
「アレナ、俺は見たぞ。
緑色をした人型の奴があいつを凄い勢いで引っ張り込むのを」
「こんな現象は聞いた事がない」
「あっはっはっは」
俺の笑い声に、その場にいたメンバーの険しい顔が揃う。
そして詰問してきた。
いやあ、つい。
「貴様、何がおかしい!」
「ああ、すいません。
いやうちの先輩みたいに、この『混沌の扉』を捜していて扉を開けまくって間抜けにも中で捕まっている人もいれば、こんな感じに普通に『混沌の扉』へ連れ込まれちゃう人もいるんだなと思って。
さてはマイケルさんって強者なんだなあ」
少なくとも、アイツに見込まれる程度には『見所がある』人のはずなのだ。
おそらく、ここの中級冒険者らしい人達のリーダーなのだろう。
「何、『混沌の扉』だと⁉」
俺に半ば詰め寄っていた彼も困惑を隠せないようだった。
「中にいるのが『緑色をした人型の奴』ことドラゴナイトなら、そう心配ないと思うけどな。
それに、いくら外から心配したって中側から出てくるしかないよ。
その人、根性の方はどうです」
「は? 根性だと」
「ええ、根性を見せて頑張ると、こういういい物がもらえるかもよ」
俺はオリハルコンの槍を前に突き出して見せた。
皆の視線が、思わずその高性能なアイテムに集中した。
全員の視線が集中するのは、さすがに冒険者パーティだ。
「もし根性がなかったら?」
「すぐに手ぶらで出てくるんじゃないかと思います」
「そ、そうなの?」
そして、その直後に早くも彼は中から飛び出てきた。
「は、はやっ。
ええい、マイケルさんの根性無し~!」
「ええっ。誰だ、君は!」
いきなり見ず知らずの俺から根性無し呼ばわりされて驚く彼。
「よかった、無事で」
美人の恋人から、鎧越しに抱き着かれながらも彼は悔しさを滲ませた。
「クソウ、ショウヒンハ、スンゲエケンダッタノニ。
アレハ、ホシカッター」
「何故、ドラゴナイト風の喋り方!」
「君、どうしてそれを知っているんだ!
って、ああそうか。
いやあ、羨ましいな」
彼は俺の槍を羨望の眼差しで見つめた。
「ちなみに今日の競技は何でした?」
「鬼ごっこさ。
追いかけて捕まえたら勝ちだったんだけど、もう少しで周回遅れにされるところだったから慌ててギブアップ宣言したのさ」
中級冒険者とドラゴナイトの鬼ごっこか。
そりゃあ早い決着がつく訳だ。
足も速いのかよ。
無敵の怪物だな。
主にビースト族的な方向性を備えた。
「もし、捕まっていたら?」
「さあなあ、朝まであいつと鍛練だったかもしれないなあ。
あれはそういう奴だった」
「うわあ、次こそ無事賞品が取れるようにってか~!
親切なのか、単に自分の趣味に付き合わせたいだけなのか。
その手の鍛練なら間に合っているよ。
俺はなんとか勝ててよかったなあ」
俺と彼は苦笑いで友情を分かち合った。
彼らは臨時で遊びに来ているリナを加えて、総勢五人だった。
もうすぐ新人二名を加える予定だそうで、メンバー全員が中級になったお祝いにここで腕試しをしていたらしい。
骨休めの意味もあり、隣国から来たと言う。
「まあ、ここのダンジョンからはいい物も貰っちゃったしね。
あたしはホクホクよー」
「まあ、せっかくの聖都のダンジョンなんだ。
楽しんでいくさ」
みんな結構いい根性をしているな。
逃げ出す奴らも多いというのに。
まあこれくらいの根性がなかったら、本来冒険者なんてやっていけないのだがなあ。
「よかったら、君も一緒に探索するかい」
「ありがとう、そうしようかな。
遺跡探索がメインなんだけど、今日は他のメンバーが来ていないんで、一人でも大丈夫そうなこっち側にいるんだ」
「もしかして扉が目当てなのか?」
「正確に言えば、大神殿の神官さんと一緒に調査活動をしているのさ。
昨日なんか、酷かったぞ。
大神殿の壁に扉が湧いて、その中でパーティメンバーであるラビワン・ダンジョンの踏破者が中で強い魔物に捕まってしまっていたからな。
やっぱり、あの扉はヤバイ」
「踏破者がか⁉」
「おいおい、そいつは洒落にならねえな」
「それで、そいつはどうした」
「後で引っ張り込まれた間抜けな俺と二人で撃破したけど、しかもお宝無しのスカだった」
「うっわー、きっついなあ、それは」
「罰ゲームかよ」
「まあ、お陰様でそこの主の素材は手に入ったけどね。
あと、お宝の代わりがこの子達なんだ。
みんな、出ておいで」
再び、隠しておいた狼達を見えるようにしてやる。
「何それ、もしかして霊獣なの」
「うぇーい」
うちの子達は何故かリナのお姉ちゃんに集中して群がっていった。
何気に女の方に懐くのか?
まあ動物って、女子供によく懐くものだけど。
「可愛いわね」
「それにしてもいいなあ、リナのポーチ」
それを聞いて、腕組みして自慢そうなリナ。
「リナが持っているそいつはレアだから、なかなか出ないと思うぞ」
0
あなたにおすすめの小説
勤続5年。1日15時間勤務。業務内容:戦闘ログ解析の俺。気づけばダンジョン配信界のスターになってました
厳座励主(ごんざれす)
ファンタジー
ダンジョン出現から六年。攻略をライブ配信し投げ銭を稼ぐストリーマーは、いまや新時代のヒーローだ。その舞台裏、ひたすらモンスターの戦闘映像を解析する男が一人。百万件を超える戦闘ログを叩き込んだ頭脳は、彼が偶然カメラを握った瞬間に覚醒する。
敵の挙動を完全に読み切る彼の視点は、まさに戦場の未来を映す神の映像。
配信は熱狂の渦に包まれ、世界のトップストリーマーから専属オファーが殺到する。
常人離れした読みを手にした無名の裏方は、再びダンジョンへ舞い戻る。
誰も死なせないために。
そして、封じた過去の記憶と向き合うために。
掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~
テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。
しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。
ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。
「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」
彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ――
目が覚めると未知の洞窟にいた。
貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。
その中から現れたモノは……
「えっ? 女の子???」
これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!
おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。
ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。
過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。
ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。
世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。
やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。
至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる