外れスキル【レバレッジたったの1.0】を進化させ、俺はエルフ聖女と無双する ―冒険者パーティ追放勇者、バージョンアップの成り上がり―

緋色優希

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第二章 バルバディア聖教国モンサラント・ダンジョン

2-78 王子様ご来訪

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 そしてマイアと入れ替わるようにして、なんと『クリス殿下』その人がやってきた。

 ぷふ、せっかくの滅多にない先輩弄りのいい機会だからな。

 思いっきり弄っちゃおうっと。

「あれえ?
 これはこれは、国王陛下の名代たるクリス殿下ではございませんか!

 本日は現場の視察でございますか?
 ご苦労様です」

 それを聞いて、そこに居並ぶ人たちが慌てて居住まいを正し、頭を垂れた。

「この馬鹿者が、怪我人に余計な気を使わせるんじゃない。

 今、早馬を出して近隣の村から食料・医薬品、あと手伝いの人工などを出させるよう手配をしてきたところだ。

 金は全て王国が持つ」

 おー、ちゃんとお仕事をなさっておられるのじゃないですか。

 まあ方向性さえ間違っていなければ、この先輩だって優秀な人ではあるのだが。

「へいへい。
 まあ、さすがにここが落ちたら洒落にならんだろうから、王国も踏ん張りどころだなあ」

「他人事みたいに言いおって、この腐れ勇者が」

「ところで何か御用?
 怪我人の治療に邁進中の聖女や勇者を激励にでも来てくれたのかい」

「違うわ、馬鹿者。

 聖女セラシア、緊急の治療で忙しいところ済まないが、あれこれと対策をするのにお前がいないと話にならん。

 各地への王国へ手紙なども書いてほしい。

 いくら王の代理とはいえ、俺からでは駄目なのだ」


 ああ、なるほどなあ。
 聖都復興には彼女の力が必要なのだ。

 とはいえ、この有様じゃあなあ。

 本来は回復治療士でもなんでもなく、宝箱を沸かせたり怪物とのバトル要員だったりするはずの俺でさえ、この場から離れられないほど酷い状態なのだから。

「そうか。
 まあ酷い事になってしまったからな。
 早く行きたいのはやまやまなのであるが」

 そう言って彼女は、治療待ちで土気色の顔色をした人々をチラっと見た。

 これを見捨てておける状態なら俺だってとっくに宝箱漁りに行っているよ。

 また聖都が輪をかけて酷い事になったので金が要るのに決まっているのだ。

「早めに大司祭のところへ来てくれ。
 今、手の空いた人間総出で回復神官の尻を叩いて回らせている。

 そのうちにここへやってくるだろう。
 近隣の街から回復術士もかき集めているところだ」


「ああ、わかっている。
 そのつもりでおるのだが、未だにこの有様なのでな。

 危急の分は思いついた分だけマイアに伝言を頼んである」


「ああ、こんな状態だから神官達も身動きが取れなくてな。

 潜りっぱなしだった冒険者も戻ってきた連中は、応援をさせるために協会が捕まえてくれている。

 あと、リクル。

 こちらの手が空いたら、早めにダンジョンに行って宝箱でもなんでもいいから金目の物を取ってこい」


 あっは。
 冒険者達が帰ってきて、あの天下に聞こえた狂人クレジネスが指揮を執って自分達もかき集められているなんて知ったら、連中も目を剥くだろうなあ。

 しかも国王の名代ときたもんだ。


「またなんか無茶を言い出したな、この王の名代様め。

 今すぐはとても無理!
 見ればわかるだろうが」


「喧しいぞ、この馬鹿リクルめ。

 王国からの金も議会や役所を通さんといかんから、すぐには入ってこん。

 第二王子には通信の魔道具で現金を持ってこいとは言ってあるが、どうなるかは来てみないとなんともな。

 商人はキャッシュないし、現物がないと動かん」


「へーい」

 そいつはブライアン・パーティ時代に身に沁みているさ。


「とりあえず、これ一枚持って行けよ。

 聖山でいただいた冒険者稼業で稼いだ金だ。
 そいつは俺とリナからさ」

 先輩は頷いて、俺が放った白金貨をパシっと受け取った。

 多分、先輩も手持ちを提供しているはずだろうから。


「ダンジョンに行く時は、そこの熊と魔法剣士を連れていけ。

 あと、また何かあるといかん。
 一通り潜ったら、一回ごとに戻ってこい。

 連絡用にお前の狼は一体置いていけ。

 あとバニッシュはあれこれと材料が欲しいと言っていたぞ」


 あのイカれた先輩が、このように真面な指示を矢継ぎ早に出すなんて。

 さすが王の落胤と言ったものだろうか。


「それとリナ。

 バニッシュがお前のゴーレムを助手に寄越せと悲鳴を上げていたから、そっちへ行かせてやってくれ」


「了解~。
 ナタリー、聞こえる?

 そっちのお手伝いは切り上げて、バニッシュ導師のところへ行ってちょうだい」


 どうやらリナは離れていてもナタリーと通信する方法があるようだった。

 指でオッケーを意味する形を先輩に向けていた。


 それだけやり取りして諸々確認すると、ふらふらとしながら先輩は出ていった。

 慣れない仕事とはいえ、あの先輩があそこまでになるとはねえ。

 その一部始終を見聞きした、そこに居合わせた人々は先輩の後姿に向かって全員が頭を下げていた。

 それは、総大将の王子様自らあそこまでガンガン動いてくれていたら、ありがたいだろうなあ。

 でも本性はアレだからな。

 とてもじゃないが、この人達にそれだけはお見せ出来ないわ。


「そうか、ああやって仕事を押し込んでおけば、あの人は大人しくしているんだなあ」

「はは、なかなかそうもいかぬだろう。
 さて、仕事も押しておるようだし、皆の者もう一頑張りするぞ」

「へーい」
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