異世界へようこそ、ミス・ドリトル

緋色優希

文字の大きさ
63 / 104
第二章 世直し聖女

2-6 たまたま持ってましたま

しおりを挟む
「サヤ」

「あ、はい。
 ありがとうございます。
 謹んで拝命いたします」

 一瞬、そうなるとまた面倒な事にならないかなという考えが、ふと頭の片隅によぎったのだが、同時に天秤にかけられた打算の方が勝った。

 一介の異国の少女であるよりは、そういう権威みたいなものがあった方が、あの悪魔の青い鳥の捜索が容易になるのではないかとね。

 あと、裏称号として悪魔聖女というのはどうかしら。
 そっちの方がみんなビビって、おかしなちょっかいをかけられるなんて事もなくなるかなと。

「お前には王国より今回の恩賞を授けよう。
 して、少し訊ねたいのだが、あの世にも希少な七色ガルーダの羽根はお前がもってきたのだな。
 他に、なんというかな、珍しい玉のような物は持っておらぬか?」

 周囲の大気を、何か驚きのような波動が駆け抜けていった。

 ここに集まっているのは貴族のような偉い人達ばかりのようなので、驚きを言葉にして吐き出した者はいないようなのだが、なんというかな、そういう気配は隠しきれないみたいな空気、雰囲気。

 何故か、リュールさんも驚いていたようだ。

 え、何?
  何かあるのかな。

「玉……ですか。
 いくらか持っていますが、御覧になります?」

「うむ、見せてもらおう。
 何か台を持ってまいれ」

 王様の指示の下、係の人が少し大きめの立派な装飾が周囲や足回りに施された台を持ってきてくれた。

 日本だと美術館に展示されるような立派な品だった。
 いいな、これ恩賞としていただけないかしら。

 なんていうか、ちょっとチュールを座らせておくのにいいというか、何かこうちょっと置いてみるとか。

 今回の恩賞、これだけでもいいんだけど。
 私は脳内で、これを部屋のどこに置こうかと楽しく妄想しながら、まずそれを出してみた。

 王様がはっきりとは口で言わずに、言葉をぼかしているような感じなので、何が欲しいのかさっぱりとわからない。

「これは違いますかね」

 そう言って私が出したものは、まず黒い球。

 そこそこの大きさで私の小さめな手の平にすっぽりと余裕で収まってしまう、ずっしりとして重めのそれは、なんだかよくわからないものなのだが、

 ガルさんの宝箱ゴミ箱に仕舞ってあったコレクションガラクタだ。
 ナナさんのジャッジは即答だった。

「捨てろ。
 いやサヤにあげなさい。
 何かの役に立つかもしれないから。

 あんたがそんな物を持っていてどうするつもり。
 片付けもせずに巣に放り込んでおいて」

「い、いや、これは男の趣味のコレクションというものでな」

 そういう物に対しては、人間の世界でも奥さんからはいい顔をされないのはよく聞く話だ。

 よってナナさんは強制執行を執り行い、これの所有権は涙目のガルさんから私に移った。

「それは一体なんじゃな」

 あ、これは王様がご希望の品とは違う物だったらしい。

「これはですね。
 ある種の高位魔物が作り出す、一種の魔法物質の玉だそうです。
 どうやっても壊せないほど硬く、魔物が砲弾として打ち出してくるのだそうです。

 たぶん、珍しい物だと思うので高く売れるといいなと思っていたのですが、国家にご用命はないようですね。
 商談がまとまらなくて非常に残念です」

 周囲の空気が再びざわめいた。
 これはあまり、人の世では知られていないもののようだった。

「うむ、それはまた珍しいものよの。
 もしかしたら、国のどこかの部署が欲しがるかもしれぬので、大切に持っていておくれ」

「はい、わかりました」

 残念、せっかく都合七十八個もあるガラクタをいい値段で売りさばくチャンスだと思ったのに。

 冒険者ギルドじゃ引き取れない物だったから、国くらいしか売る相手がいないんだよね。

 結局、ガルさんのゴミ箱から私の収納に移動しただけだったな。

 そういえば、収納の能力を見せてしまったけど、それに関しては誰も驚かないんだなあ。

 卑しくも聖女呼ばわりされるような人間は持っていたって当然の扱いなのか。

 ちなみにこの玉、もっと撃たせれば好きなだけ手に入っただろうに、ガルさんは面倒臭がりなのですぐに倒してしまったらしい。

 そのくせ、大事にコレクションしていたんだから、まったくもってオスの考える事は私には皆目理解ができません。

 最近は、収納の能力もゲームのアイテム画面であるインベントリのように整理して検索もできるように弄ってみた。

 あれがカスタマイズできるなんて知らなかったけど、なんとなく試してみたら出来てしまった。

 えー、お次はと。
 頭の中で収納のインベントリを操作して見つけた。

「次はこれでしょうか」
「それはなんじゃ」

 またですか。
 これは何かの白い球なのだが。

「さあ、わかりません。
 少なくとも魔物の糞には見えませんね。

 うちの国には動物の糞などを転がして丸くする虫なんかはおりますが、そういうものではないようです。

 だってこれ、綺麗好きな七色ガルーダの奥さんの方からいただいたので。
 旦那さんの方だと危ないですけど」

 これは鑑定しても何なのかよくわからないんだなあ。
 ただの不思議玉。

「そうか、して他には」

 やはり違ったようだ。
 次は少し玉とは言い難い物体なのだが、一応出してみる。

 それは瑠璃色に輝く、いろいろな色が絵の具を溶かし込んだように入り混じって独特の美しさを見せている。

 そして光り輝いている感じなのだ。
 正体不明の内部から漏れ出るような不思議な光を放って。

 なんというか、丸っこい感じに不定形でいかにも大きな石って感じの奴。
 そう、ただの綺麗な石ですね。

 半端でない色合いで凄く綺麗なんだけど。
 ひょっとしたら宝石のような石の原石か何かだと嬉しいなと思って見せてみた。

「おお、それはっ!」

「王様、これをご存知なので?」

 立て続けに外れを引いたので、今度は変わり種を出してみたのだが当たった?

「うむ。
 それは魔法鋼のような物の希少な鉱石じゃ。
 それもまた滅多に見つからぬ珍しい物でのう。

 是非、国で探してほしいと役所から陳情が繰り返されておるものなのじゃ。
 して、これをどれくらい持っておる」

「そこそこありますよ。
 これはコレクターである七色ガルーダの旦那さんがなんとなく集めていた物で、結婚を機に奥さんによって処分されたというだけの物です。
 要るんならどうぞ」

 そして、今までの不要な玉を仕舞い、手持ちの鉱石をすべて並べてみた。
 こいつも全部で大小合わせて八十個くらいある。

 そのあまりに残念な理由に、周囲はまた唸っていたが、王様は苦笑いをして返答をくれた。

「おお、これはありがたい。
 全部引き取ろう。
 宰相よ、きちんと計算して代金を払ってやってくれ」

「ははっ」

 おお、ちゃんと王家が引き取ってくれるだけの値打ちのある売り物が入っていたなあ。

 このお金はとっておいて、いつかチャックのためのオリハルコンの代金にしようかな。

 あの子って、普通の物は特に欲しがらないからねえ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

奥様は聖女♡

喜楽直人
ファンタジー
聖女を裏切った国は崩壊した。そうして国は魔獣が跋扈する魔境と化したのだ。 ある地方都市を襲ったスタンピードから人々を救ったのは一人の冒険者だった。彼女は夫婦者の冒険者であるが、戦うのはいつも彼女だけ。周囲は揶揄い夫を嘲るが、それを追い払うのは妻の役目だった。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

処理中です...