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第一章 王太子様御乱心

1-35 母子の絆

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 そして、私達は何故か宴の中にいました。

「ねえ、ギルマス」
「ん? なんだ」

 もう出来上がって床の上に胡坐をかいて座り、頭の先までタコになっている禿げが振り向きました。

「なんで宴会なの?」
「そりゃあ決まっているさ。Sランク試験なんてものは宴会のネタにするために始めるようなものだからな」

「ええーっ」
 それで親父達がやけに盛り上がっていたのね~。しまった、やられたわ。公爵令嬢ともあろう者が親父の酒の肴に供されようとは不覚。

「もう! 今お世話になっている商会に何も言ってこなかったのに。従魔証とFランクの冒険者証を貰ってすぐに帰るだけの予定だったのよ。早く冒険者証をちょうだい」

「それは、どこの商会だ」
「ババロア商会という小さな商会よ。まだ若い兄妹がやってる」

 そして少し考える風のギルマス。ああそうか、商会の依頼はよく受けるから冒険者ギルドのギルマスともなれば、商会の事情には詳しいわよね。

「むう、あそこか。最近、確か両親が亡くなっていたな。この街にもエロマンガ商会とかいう性質の悪い奴らが出入りしていて、あれこれとキナ臭い事になっている。ん? そういえば、お前も……」

「そ、それは言わないで!」

 あー、もしかして、もう世界中で噂になっているんじゃないのでしょうね。ああ、伝統あるビスコッティ王国の恥だわ。

 それもこれも、みんな、あの唐変木の跡継ぎ王子が悪い。確かにエロマンガの連中とマンジール王国が諸悪の根源なんだけど、正式の婚約者がいながら、あの体たらくは絶対に許されませんよ。

 時期国王になる立場だという自覚がまったくありません。そもそも一国を預かるだなんて、本来は責務の重大さを考えたら罰ゲーム以外の何物でもありませんからね。

 大統領だの首相だのになりたい奴なんて、権力フリークのただの馬鹿以外の何物でもありません。気楽でやりたい放題の世界一の大富豪あたりが一番美味しいポジションに決まっています。

 この騒動が片付いたら婚約者として、あの色ボケ馬鹿王子様には【教育的指導】を与えねばならないようですね。とりあえず体罰から入るとしましょうか。

「はあ、何もかもが碌でもないわ」

 シナモンの奴は、Sランク以上だけが貰えるという首からぶら下げるオリハルコン製のプレート作成を夢中で見に行っています。

 特に子供用なので、既製品が合わないようで作り直していますからきっとデザインにもいろいろ口を出して、職人さんと一緒に楽しんでいるのに違いありません。

 天使のような無心の笑みを浮かべて。あいうのって職人さんには凄く受けがいのよねえ。うちのドヴェルグの親方もそんな感じなのだし。

 私は女性用の既製品をいただきました。まさか、このような場所にて母子でお揃いの高級アクセサリーを入手してしまえるなど思いもよりませんでした。ちゃんとシリアルナンバーとネーム入りのプレートです。

 そこへ意外な人物がやってきました。これまた、親父の宴会には似つかわしくないような方々でした。

「マリーさん!」
「あら! プリン、どうしてここに?」

「ああ、冒険者ギルドのお使いの方がみえて呼ばれてしまいました。宴会をやっているから来なさいって」

 う、その手があったわけね。プリン達が待っていますからという言い訳をして早めに帰ろうとしていたのに、機先を制して封じられましたか。

 私達が帰ってしまうと宴会を続ける大義名分が無くなってしまいますものね。冒険者ギルド、もうなんて奴らでしょうか。

 筋金入りの宴かいフリークです。冒険者とか傭兵とかいうような明日をも知れない商売の男どもは、みんなこう。

「ああ、御飯、美味しそう」
 そうか。最近碌な物を食べてなかったのかもしれませんね。

「ほらプリン、ここに座って。プディンも。ここは主賓席だから一番美味しい物が集まるのよ」

 そう宣言して手をパンパン叩きました。別に池の鯉を集めているわけじゃありません。

『おら、お客さんがお見えだぞ。てめえら、美味いものじゃんじゃん持って来いよ』
 そのようなオーラを込めて叩いたまでです。

 卑しくも王族の範疇に入り、次期国王の婚約者(現在、絶賛婚約破棄中)ともあろう人間には、あまり相応しくないような力強さで。

「はっはっは、お前はやる事が本当にあいつにそっくりだなあ。さすが血は争えん」
「そうそう初めて見た時は、お前の連れと同じような年だったなあ」

「そうそう。保証人がいないから年齢で引っかかって撥ねられたんだが、当時のギルマスに勝負を挑んで勝っちまったんで、気に入られて【Sランク試験】を受けさせてもらったんだったよなあ。あれは本当に傑作だった」

 お、お母様、あんたという人は。当時の生き証人達の酒飲み話に、思わず絶句した私に皆が生温かく視線を投げかけてくるのが、また痛いのですが。

「まさか、母子して、同じギルドでSランクになろうとはなあ」
「うーん」

 なんといったらいいのでしょうね。吟遊詩人には歌われたくないエピソードだとでも言っておきましょうか。

 この冒険者ギルドでの語り草になってしまうのは仕方がない、というかもうなっていますね。主に親父達の酒の肴として。
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