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第一章 孤独の果てに
1-6 雪中行軍
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「ねえ、見て。
あんなところにお花が咲いている」
メリーベルが目聡く、道の横にある斜面に積もった雪の中から突き出して、雪の中で頑固に花をつけている白い花びらに黄色いアクセントを真ん中にあしらった可愛い花を見つけた。
姉の方は妹に気を配っているらしくて、あまり細かいところまで景色を観察できていないようだったが。
アリエスは今もメリーベルのコートの襟を丁寧に直してやっている。
「ああ、あれは雪見草だな。
今の時期のようなたくさん雪のある寒い時期にしか咲かないという珍しい花だ。
この時期なら他の花は咲かず、ライバル不在だからな。
蜂による受粉はしない花だから繁殖には何も問題ないらしい。
ちょっと寒いのに耐えねばならんのが難点らしいが、たいそう根性のある花だといつも感心しているよ」
「へえ、ジンは物知りなんだなあ」
「なあに、毎日あれこれと観察していればな。
まあ、このような場所では他に見るべき物もないし。
単に人間だった頃に勉強した事と照らし合わせているだけさ」
そして、メリーベルは可愛らしく小首を傾げて、前を行く俺を見上げながら子供らしく質問を放ってきた。
「ジンはどこから来たの。
どこの国の人だったの?」
「ああ、日本という国さ。
そこは、お前達が見も知らぬ、こことは違う別の世界にある国だ。
そこには、こんな魔神のような怪物もフェンリルもいない世界だ」
「えー、つまんないね、フェンリルがいない世界なんてさ」
「うおーん!」
シルバーがその意見に賛同するかのように人間っぽい感じに鳴いた。
まあ伝説というか神話の中になら地球にもいたがね。
むしろ、この世界にフェンリルやガルーダがいる事の方に違和感があるのだが、まあそんな事を言ったっているものは仕方がない。
それにフェンリルがいない世界がつまらないという素晴らしい意見には俺も大賛成なのだから。
そしてメリーベルが可愛らしくお腹を鳴らした。
「はは、そろそろお昼の休憩にするとしようか。
まあ、ここならそうそう襲われる心配もあるまい。
あの吹雪ではお前達の追手もそう簡単にはやってこれなかっただろうからな」
それにこの雪の中を追跡してくる者がいるとして、慣れぬ人の足ではそう簡単に進軍は出来ぬから追いつく事は非常に困難だ。
俺が露払いをして道を作り、フェンリルの足ならではの進行速度なのだ。
だが俺が道を作ってしまっている形になっているのは気にかかる。
どこへ進んだのか一目で丸わかりだ。
だが、俺達があそこにいた痕跡は綺麗に消してきたのだし、この時期の山の天気は長くは持たない。
それが俺達の進んだ足跡もじきに白いカーペットで厚く覆い隠してくれる事だろう。
「じゃあ、御飯の支度をしましょうかね」
そう言って、アリエスのポケットの中から飛び出してきたルーが言った。
彼女はその姿を自在に縮める事ができるのだ。
さすがは神とさえ呼ばれたガルーダだ。
魔神と呼ばれようとも、俺には絶対に真似ができない芸当なので、こういうシーンでは実に羨ましい限りだ。
この進軍で一番足跡を残してしまうのが他ならぬ俺なのだから。
「わあい、お昼御飯は何かなあ」
「ふふ、さっき見つけておいた、この時期に雪の下からしか採れない山菜アルゲルのスープと、同じくこの時期でないと採れない美味しい寒芋のカルン芋を吹かした物ですよ。
先程そっと集めておいたから。
それに、持ってきた山岳山羊のジャーキーを炙って、山天茶でいただきましょうか」
「やったあ」
もうすっかりこの異形のガルーダがお母さん代わりになってしまっている二人の少女。
この状態でお別れの日が来てしまった時が心配だ。
俺としては、貴重な人間との交流が終わる日をメランコリーな気分で憂いていたいところなのだが、それどころではない有様だった。
「時にお前達、人里に出るのはいいが、どこかに行く当てでもあるのか」
「はい。
お母様の姉に当たる方が嫁いでいる王国があって、そこで王妃様をやっていらっしゃいます。
我が国を訪問してくださった事があって、一度だけお会いした事があるのですが、私達の事も大変可愛がってくださって。
きっと力になってくれると思います。
政治的にも帝国とは相容れない国ですし。
それを言ったら、大概の国がそれに当てはまってしまうのですがね」
「なるほど、血縁を頼れるならば大丈夫そうだな」
「ですが、その国は大変に遠いのです。
海を渡って船で行けば早いのですが、その道中は」
彼女アリエスの表情は雲った。
さてはそのナントカいう帝国め、海軍が強いのだな。
だから奇襲も可能なレベルの兵力を輸送できるし、あちこちの港を封鎖したり、へたをすれば海上封鎖をしたりなどもやってのけられるのかもしれない。
各地で臨検などを行う事も可能なのだろう。
「まあ当面は陸地を行くしかないかな。
だが、そこまで山地ばかりを辿っていくのも難しかろう。
俺が一緒では何かと目立っていかんし。
襲ってくる奴もいる。
手がない事はないのだが、それもいろいろ難しい部分もある。
最悪の場合は従魔という事にしてシルバーとルーをお前達と一緒に行かせて俺は残るという選択肢も考えねばならんな。
それだと俺だけがつまらんので少し不本意な選択なのだが」
「えー、お父さんも一緒に行くの!」
「はは、シルバー。
俺も行けるところまでは行きたいさ。
だが、この図体ではどこまでいけるものかな。
お前には弟として二人のお姉ちゃんを、ちゃんと国まで連れていく任務があるのだぞ」
「わかった。僕、頑張る!」
その全長がシルバーにさえ迫るほどの巨大な体躯を誇る山岳山羊の美味しい生肉を頬張りながら、シルバーは犬座りの格好で素晴らしい白銀色の毛並みに輝く胸を張ったのだった。
あんなところにお花が咲いている」
メリーベルが目聡く、道の横にある斜面に積もった雪の中から突き出して、雪の中で頑固に花をつけている白い花びらに黄色いアクセントを真ん中にあしらった可愛い花を見つけた。
姉の方は妹に気を配っているらしくて、あまり細かいところまで景色を観察できていないようだったが。
アリエスは今もメリーベルのコートの襟を丁寧に直してやっている。
「ああ、あれは雪見草だな。
今の時期のようなたくさん雪のある寒い時期にしか咲かないという珍しい花だ。
この時期なら他の花は咲かず、ライバル不在だからな。
蜂による受粉はしない花だから繁殖には何も問題ないらしい。
ちょっと寒いのに耐えねばならんのが難点らしいが、たいそう根性のある花だといつも感心しているよ」
「へえ、ジンは物知りなんだなあ」
「なあに、毎日あれこれと観察していればな。
まあ、このような場所では他に見るべき物もないし。
単に人間だった頃に勉強した事と照らし合わせているだけさ」
そして、メリーベルは可愛らしく小首を傾げて、前を行く俺を見上げながら子供らしく質問を放ってきた。
「ジンはどこから来たの。
どこの国の人だったの?」
「ああ、日本という国さ。
そこは、お前達が見も知らぬ、こことは違う別の世界にある国だ。
そこには、こんな魔神のような怪物もフェンリルもいない世界だ」
「えー、つまんないね、フェンリルがいない世界なんてさ」
「うおーん!」
シルバーがその意見に賛同するかのように人間っぽい感じに鳴いた。
まあ伝説というか神話の中になら地球にもいたがね。
むしろ、この世界にフェンリルやガルーダがいる事の方に違和感があるのだが、まあそんな事を言ったっているものは仕方がない。
それにフェンリルがいない世界がつまらないという素晴らしい意見には俺も大賛成なのだから。
そしてメリーベルが可愛らしくお腹を鳴らした。
「はは、そろそろお昼の休憩にするとしようか。
まあ、ここならそうそう襲われる心配もあるまい。
あの吹雪ではお前達の追手もそう簡単にはやってこれなかっただろうからな」
それにこの雪の中を追跡してくる者がいるとして、慣れぬ人の足ではそう簡単に進軍は出来ぬから追いつく事は非常に困難だ。
俺が露払いをして道を作り、フェンリルの足ならではの進行速度なのだ。
だが俺が道を作ってしまっている形になっているのは気にかかる。
どこへ進んだのか一目で丸わかりだ。
だが、俺達があそこにいた痕跡は綺麗に消してきたのだし、この時期の山の天気は長くは持たない。
それが俺達の進んだ足跡もじきに白いカーペットで厚く覆い隠してくれる事だろう。
「じゃあ、御飯の支度をしましょうかね」
そう言って、アリエスのポケットの中から飛び出してきたルーが言った。
彼女はその姿を自在に縮める事ができるのだ。
さすがは神とさえ呼ばれたガルーダだ。
魔神と呼ばれようとも、俺には絶対に真似ができない芸当なので、こういうシーンでは実に羨ましい限りだ。
この進軍で一番足跡を残してしまうのが他ならぬ俺なのだから。
「わあい、お昼御飯は何かなあ」
「ふふ、さっき見つけておいた、この時期に雪の下からしか採れない山菜アルゲルのスープと、同じくこの時期でないと採れない美味しい寒芋のカルン芋を吹かした物ですよ。
先程そっと集めておいたから。
それに、持ってきた山岳山羊のジャーキーを炙って、山天茶でいただきましょうか」
「やったあ」
もうすっかりこの異形のガルーダがお母さん代わりになってしまっている二人の少女。
この状態でお別れの日が来てしまった時が心配だ。
俺としては、貴重な人間との交流が終わる日をメランコリーな気分で憂いていたいところなのだが、それどころではない有様だった。
「時にお前達、人里に出るのはいいが、どこかに行く当てでもあるのか」
「はい。
お母様の姉に当たる方が嫁いでいる王国があって、そこで王妃様をやっていらっしゃいます。
我が国を訪問してくださった事があって、一度だけお会いした事があるのですが、私達の事も大変可愛がってくださって。
きっと力になってくれると思います。
政治的にも帝国とは相容れない国ですし。
それを言ったら、大概の国がそれに当てはまってしまうのですがね」
「なるほど、血縁を頼れるならば大丈夫そうだな」
「ですが、その国は大変に遠いのです。
海を渡って船で行けば早いのですが、その道中は」
彼女アリエスの表情は雲った。
さてはそのナントカいう帝国め、海軍が強いのだな。
だから奇襲も可能なレベルの兵力を輸送できるし、あちこちの港を封鎖したり、へたをすれば海上封鎖をしたりなどもやってのけられるのかもしれない。
各地で臨検などを行う事も可能なのだろう。
「まあ当面は陸地を行くしかないかな。
だが、そこまで山地ばかりを辿っていくのも難しかろう。
俺が一緒では何かと目立っていかんし。
襲ってくる奴もいる。
手がない事はないのだが、それもいろいろ難しい部分もある。
最悪の場合は従魔という事にしてシルバーとルーをお前達と一緒に行かせて俺は残るという選択肢も考えねばならんな。
それだと俺だけがつまらんので少し不本意な選択なのだが」
「えー、お父さんも一緒に行くの!」
「はは、シルバー。
俺も行けるところまでは行きたいさ。
だが、この図体ではどこまでいけるものかな。
お前には弟として二人のお姉ちゃんを、ちゃんと国まで連れていく任務があるのだぞ」
「わかった。僕、頑張る!」
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