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第一章 孤独の果てに
1-16 狩人の将軍
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「まあ、そのなんだ」
しばしの沈黙の後、俺は頭をかきかき話を切り出した。
「このままじゃ、どっちみちお前達は詰む。
後に戻るわけにもいかないのだし、ここは一つ前に進んでみようぜ。な!」
俺がウインクしたのを見てアリエスも、やや曇っていたエメラルドグリーンに明るい灯を入れて少し笑ってくれた。
「不思議ね、あなたがそう言うと、この絶望的な状況の中でも何故かなんとかなるような気がしてくるのよ。
そもそも、あの雪の中に埋もれているのをシルバーが見つけてくれなかったならば、私達の命運はもうとっくに尽きていたのだもの。
あなたは私達の運命の拾い主よ」
「はは、そうだな。
だが、ここは大船に乗ったつもりでいてくれと言いたいところだが、生憎な事に泥船一つ手に入りそうにないな。
一体どうしたものかねえ」
「とにかく、今現在のピンチを脱する事が肝要ね。
それにしてもシルバーの容態は大丈夫かしら」
そう言って彼女はシルバーを見たが、奴ときたらスープを見事に空にして、俺が火魔法で作り上げた武骨な形状の厚手の巨大スープ皿を咥えて、奴につきっきりのメリーベルと遊んでいた。
だいぶ元気が出てきたようで何よりだ。
昨日はぐったりしていて、ずっと伏せたまま目を閉じていたからな。
「そういや、君を追撃してきている奴らに心当たりはないか。
いやに切れる感じの奴で困る」
アリエスは小首を傾げて思案していたが、やがて可愛らしい桜色の唇を開いた。
「多分、でも絶対とは言い切れないけど、【ゲルンの猟犬】と呼ばれる将軍じゃないかしら。
フィッツ・ゴドル・パーデン。
隻眼で黒い眼帯をしているから片目のフィッツと呼ばれているそうよ。
ゲルンは帝国内でも有名な狩りの名所なの。
そこの出身で『人間狩りの名手』と呼ばれる男で、今まで人狩り任務を仕損じた事は一度もないとか言われているわ。
実際はどうだかわからないのだけれどね。
今回のような任務で、あのような凄い戦力をぐいぐい持ち出してくるところを見れば、やはり彼なのかもしれない」
出ちゃったな、中二病キャラ。
眼光鋭く、体の前に両手で折り畳んだ鞭とか持ってパシンっと鳴らし、威厳のある軍帽を被り、他の軍人どもがそいつの前では軍靴の踵を鳴らして敬礼するようなタイプなのか。
趣味は人間の解剖とか拷問とか?
やだねー、この世界で流通している自白剤なんかも使いそうなタイプで話に聞いただけでも嫌な野郎だ。
「いや、実にありがたくないお話だな。
もう少し何か策を練っておくとするか。
まあとりあえずは有意義な話が聞けたという事にしておくよ」
「うん、はたして帝国はこの山から逃がしてくれるかしら。
位置がバレたので、この先で待ち伏せをしている可能性もあるわ。
あなたが思いもしない危険な罠を仕掛けているかもしれないし、錬金や魔導の罠の可能性もあるわ。
彼はそういう物で人間を無力化するのが常套手段だと長兄である王太子が言っていました」
大帝国が満を持して放つ放つ錬金及び魔導トラップ対、地球の科学知識で武装したトリプルΩの魔神の対決ってか!
向こうは人狩りのプロ中のプロの将軍様で、おそらくは予算も人員も無制限であろう大帝国の超重要案件の最優先事項ときたもんだ。
こっちは素人もいいところの一介の臨時の逃がし屋だ。
いやあ、四本の腕を鳴らせて待つしかないね、こりゃあ。
「ひゃあ、そいつはまたありがたくないね。
俺を無力化するような物が向こうにあるのかはわからないが、油断するとどうなるかは、まさにこの現状が示しているのだしな。
そうなると居場所がバレた事は実に痛いな。
君の言う通り罠の可能性もあるか。
君達に危害を加えずに傍で一緒にいる俺を倒す、あるいは行動不能にするというのは難しいのだろうが、そこまでの奴だとすると奴らはその手段を持っているのかもしれない」
食後に俺はシルバーにもう一度念入りに回復魔法をかけ、具合を見たがそれなりには回復していた。
「どうだ、かなり回復はしてきたが、いざとなったらあの子達を乗せて走れるか」
「うん、大丈夫。でも体しんどい。シルバー、まだ寝たい」
「そうか、ゆっくり休め」
「罠くらいなら、いつでも張れる」
「よしよし、いい子だ」
「シルバー、頑張る」
彼は満足そうに言うと、傍で撫でてくれている二人の少女に鼻面を寄せてから、また体を伏せた。
その少し縮こまった感じの、まるで子犬の頃のような幼げな顔を見て、思わず心にほんわりとしたものが広がったが、すぐに気を引き締めた。
俺は魔神としての知覚能力でこの山の地形をあれこれと探索して、追っ手に対する戦略を考えていた。
「俺なら火をつけて燻りだすとかする訳だが、もし追撃者が二つ名持ちの将軍なればそんな単純な手は使ってこないだろうな。
自分の軍勢が進む妨げになるだろうし。
まあ、そっちは俺の手札にしておくとして、もし奴らが火をつけてくるような事があれば、その裏にある計画に心を馳せるべきなのだろうな。
追い立てられた先で、帝国の言うままに隣国の軍隊が雁首並べて待ち構えているとかだったら最悪だ」
もしそのような事でもあれば、そいつらを虐殺した時点で俺の負けが確定するだろう。
そして、やらねばやはり負けるのだろうし。
そのような事態に陥れば、俺達は山から大平原へと降り立った時点でそこにある全ての国家から追われる事になるだろう。
そんな事にでもなったら、子供達を船に乗せるどころではない。
どこにも逃げ場すらなくなる。
いざとなったら、俺が立ち泳ぎで子供達を頭に載せ大洋を渡り、シルバーも犬かきしてもらうしかなくなる。
だが、その大洋こそが実質その帝国の縄張りときたものだ。
なんというか、こいつはほぼ格上相手の手練れとの駒落ち勝負だ。
この事態は、将棋のど素人が全駒落ちで今絶賛全盛期を迎えている名人位や竜王位を含むプロ将棋の七冠王あたりに勝負を挑むようなものじゃないだろうか。
本来なら成立する事すらありえない稀過ぎる勝負なのだが、この俺の魔神としての力はそれを為してしまった。
どの道、子供達が船に乗ればルー以外はそうするしかなくなるだろうと覚悟はしている。
その場合は、船上で子供達の護衛をしてくれる人間を雇わねばならないのだろうが、はたして信用できる人間が見つかるものやら。
しばしの沈黙の後、俺は頭をかきかき話を切り出した。
「このままじゃ、どっちみちお前達は詰む。
後に戻るわけにもいかないのだし、ここは一つ前に進んでみようぜ。な!」
俺がウインクしたのを見てアリエスも、やや曇っていたエメラルドグリーンに明るい灯を入れて少し笑ってくれた。
「不思議ね、あなたがそう言うと、この絶望的な状況の中でも何故かなんとかなるような気がしてくるのよ。
そもそも、あの雪の中に埋もれているのをシルバーが見つけてくれなかったならば、私達の命運はもうとっくに尽きていたのだもの。
あなたは私達の運命の拾い主よ」
「はは、そうだな。
だが、ここは大船に乗ったつもりでいてくれと言いたいところだが、生憎な事に泥船一つ手に入りそうにないな。
一体どうしたものかねえ」
「とにかく、今現在のピンチを脱する事が肝要ね。
それにしてもシルバーの容態は大丈夫かしら」
そう言って彼女はシルバーを見たが、奴ときたらスープを見事に空にして、俺が火魔法で作り上げた武骨な形状の厚手の巨大スープ皿を咥えて、奴につきっきりのメリーベルと遊んでいた。
だいぶ元気が出てきたようで何よりだ。
昨日はぐったりしていて、ずっと伏せたまま目を閉じていたからな。
「そういや、君を追撃してきている奴らに心当たりはないか。
いやに切れる感じの奴で困る」
アリエスは小首を傾げて思案していたが、やがて可愛らしい桜色の唇を開いた。
「多分、でも絶対とは言い切れないけど、【ゲルンの猟犬】と呼ばれる将軍じゃないかしら。
フィッツ・ゴドル・パーデン。
隻眼で黒い眼帯をしているから片目のフィッツと呼ばれているそうよ。
ゲルンは帝国内でも有名な狩りの名所なの。
そこの出身で『人間狩りの名手』と呼ばれる男で、今まで人狩り任務を仕損じた事は一度もないとか言われているわ。
実際はどうだかわからないのだけれどね。
今回のような任務で、あのような凄い戦力をぐいぐい持ち出してくるところを見れば、やはり彼なのかもしれない」
出ちゃったな、中二病キャラ。
眼光鋭く、体の前に両手で折り畳んだ鞭とか持ってパシンっと鳴らし、威厳のある軍帽を被り、他の軍人どもがそいつの前では軍靴の踵を鳴らして敬礼するようなタイプなのか。
趣味は人間の解剖とか拷問とか?
やだねー、この世界で流通している自白剤なんかも使いそうなタイプで話に聞いただけでも嫌な野郎だ。
「いや、実にありがたくないお話だな。
もう少し何か策を練っておくとするか。
まあとりあえずは有意義な話が聞けたという事にしておくよ」
「うん、はたして帝国はこの山から逃がしてくれるかしら。
位置がバレたので、この先で待ち伏せをしている可能性もあるわ。
あなたが思いもしない危険な罠を仕掛けているかもしれないし、錬金や魔導の罠の可能性もあるわ。
彼はそういう物で人間を無力化するのが常套手段だと長兄である王太子が言っていました」
大帝国が満を持して放つ放つ錬金及び魔導トラップ対、地球の科学知識で武装したトリプルΩの魔神の対決ってか!
向こうは人狩りのプロ中のプロの将軍様で、おそらくは予算も人員も無制限であろう大帝国の超重要案件の最優先事項ときたもんだ。
こっちは素人もいいところの一介の臨時の逃がし屋だ。
いやあ、四本の腕を鳴らせて待つしかないね、こりゃあ。
「ひゃあ、そいつはまたありがたくないね。
俺を無力化するような物が向こうにあるのかはわからないが、油断するとどうなるかは、まさにこの現状が示しているのだしな。
そうなると居場所がバレた事は実に痛いな。
君の言う通り罠の可能性もあるか。
君達に危害を加えずに傍で一緒にいる俺を倒す、あるいは行動不能にするというのは難しいのだろうが、そこまでの奴だとすると奴らはその手段を持っているのかもしれない」
食後に俺はシルバーにもう一度念入りに回復魔法をかけ、具合を見たがそれなりには回復していた。
「どうだ、かなり回復はしてきたが、いざとなったらあの子達を乗せて走れるか」
「うん、大丈夫。でも体しんどい。シルバー、まだ寝たい」
「そうか、ゆっくり休め」
「罠くらいなら、いつでも張れる」
「よしよし、いい子だ」
「シルバー、頑張る」
彼は満足そうに言うと、傍で撫でてくれている二人の少女に鼻面を寄せてから、また体を伏せた。
その少し縮こまった感じの、まるで子犬の頃のような幼げな顔を見て、思わず心にほんわりとしたものが広がったが、すぐに気を引き締めた。
俺は魔神としての知覚能力でこの山の地形をあれこれと探索して、追っ手に対する戦略を考えていた。
「俺なら火をつけて燻りだすとかする訳だが、もし追撃者が二つ名持ちの将軍なればそんな単純な手は使ってこないだろうな。
自分の軍勢が進む妨げになるだろうし。
まあ、そっちは俺の手札にしておくとして、もし奴らが火をつけてくるような事があれば、その裏にある計画に心を馳せるべきなのだろうな。
追い立てられた先で、帝国の言うままに隣国の軍隊が雁首並べて待ち構えているとかだったら最悪だ」
もしそのような事でもあれば、そいつらを虐殺した時点で俺の負けが確定するだろう。
そして、やらねばやはり負けるのだろうし。
そのような事態に陥れば、俺達は山から大平原へと降り立った時点でそこにある全ての国家から追われる事になるだろう。
そんな事にでもなったら、子供達を船に乗せるどころではない。
どこにも逃げ場すらなくなる。
いざとなったら、俺が立ち泳ぎで子供達を頭に載せ大洋を渡り、シルバーも犬かきしてもらうしかなくなる。
だが、その大洋こそが実質その帝国の縄張りときたものだ。
なんというか、こいつはほぼ格上相手の手練れとの駒落ち勝負だ。
この事態は、将棋のど素人が全駒落ちで今絶賛全盛期を迎えている名人位や竜王位を含むプロ将棋の七冠王あたりに勝負を挑むようなものじゃないだろうか。
本来なら成立する事すらありえない稀過ぎる勝負なのだが、この俺の魔神としての力はそれを為してしまった。
どの道、子供達が船に乗ればルー以外はそうするしかなくなるだろうと覚悟はしている。
その場合は、船上で子供達の護衛をしてくれる人間を雇わねばならないのだろうが、はたして信用できる人間が見つかるものやら。
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