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第一章 孤独の果てに
1-20 魔神の想い
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そして山中に広がる雪原の行軍が続き、やがて魂までもが凍てつくような底冷えのする山岳地帯の夜を迎えた。
山頂には万年雪を戴冠し、春までまったく溶けそうもない大氷雪原の上に更に白い雪が深く積もり、永遠に続くかと思うような白と木々の黒で表した世界の稜線、その銀世界の一部に陣取っての夜明かしだ。
針葉樹に積もった雪は夜の息吹にそれを凍てつかせ、また数多の樹氷をも作り出すのかもしれない。
美しい死に化粧のような氷のデコレーション。
その鮮烈に死を思わせる氷の女王の版図において、俺のかまくらの中では火鉢が暖かな炭の放つ柔光を柔らかく放っており、それが白雪のかまくらの壁面に反射して、異世界の幻想的な夜のテイストを醸し出していた。
一人であったなら感じないような、誰かといられるからこそ不思議で愛おしい感慨に満たされていく時間。
半端でないような恐るべき追撃者に追われているというのに、これまた有り得ないほどに優雅な事だな、魔神君よ。
かまくらから漏れ出る灯りは、俺が可視光などを捻じ曲げて処理し、決して外へ漏れないようにしてある。
外にもちょっとした自然な雪の山に見せかけた、なだらかに作り上げた自然の防壁を作り、外部からはその中に人がいる事が一見しただけではわからないようにしてある。
また昼間に集めてあった材料で、戦車や大砲に被せるような一種の軍用艤装ネットのような物を作っておいたので、出来がチャチではあっても空から見ても比較的わかりにくいものだろう。
特にこの世界のように、量産され整備された航空機に積まれたガンカメラが捉えた映像を、あるいは軍用の高解像度の画像を地上の施設に送り続けるサテライトからの映像をコンピューターが分析するような世界でない場所では。
俺が用意したものは、青々とした緑の枝に艤装したものではなく、この季節のこういった厳寒期の森林などに見られるような、雪と合わせて黒い枝などで木に紛れるようにするものだ。
こういう事は、農業用サイロが核ミサイルサイトではないのかと国家元首同士が面を突き合わせて追及しあうような時代の、ヒューミントが全盛だったスパイ活動や軍事活動が中心だった頃の手法で、画像映像に撮られた時に背景に溶け込むように上手くボカす事がコツといえばコツだ。
コンピューターが何もかもベールを引っぺがして分析解析していく現代の戦争ではあまり通用しないかもしれないが、大自然の混沌を映すジャングルなんかではまだ十分に使えるものだろうか。
これは空からの偵察に備えたものだ。陸から接近するのはなかなか厳しいので、多分偵察は空から来るはずだ。
だんだんとやる事が地球の戦争染みてきたな。
まあ昼間の戦闘は一方的な超兵器戦みたいになってしまっていたのだが。
ゲリラ兵は雪の中で活動するにしても、かまくらなどは作らないがね。
どうでもいいけど、かまくらってトーチカにちょっと形が似ているな。
もしこの異世界で重機関銃でも買えるのだったら、ゴブリンでもティムしてきてトーチカに据えておくと、少しは足止めくらいにはなるだろうか。
「こんなに厳しい、道と言えるような物も碌に無いような山中を、帝国はやはり追ってくるのかしらね」
だが俺は王女の疑問へ、火鉢の具合を確かめつつ、換気のためにかまくらの中の空気成分の分析を行いながら素直に頷いてやった。
「来るだろうな。
奴らにはそうするだけの十分な理由がある。
兵士がたとえ何万人凍え死のうが、兵站もなく飢えて死のうが、あるいは俺に殺されようが、全てお構いなしに皇帝は命令するだろう。
お前達二人を捉えよと。それが奴の望み行く、果てしない呪われた血によってこの先も紡がれんと願う野望の道程なのだから」
それを耳にしたアリエスは思いっきりその秀麗な眉を顰めると、すぐにシチューのお替りに手を伸ばした。
この子もまだまだ食べ盛りなのだ。
どんなに追われようと人は腹が減る。
妹の方など、もろに育ちざかりなので黙々と美味しい芋に手を伸ばしている。
ルーが、あの壮烈な戦の最中にも一生懸命集めてくれた希少な美味種で、そして子供達のために心を込めて美味しく調理してくれたものだ。
「不思議ね、人間ですらないあなた達が、こんなにも私達によくしてくれて。
なのに、同じ人間であるはずの帝国人は私達の家族を殺し、私達を捕らえて酷い事をしようとしている。
人間って一体何なのかしら」
そう言って少し物思いに耽るような顔つきでシチューを啜るアリエス。
「まあ、俺は元が人間だったからわかるのだが、人間とはそういうものだ。
所詮は性悪説の中でしか生きられないような浅はかな生き物だ。
だが、世の中はそういう人間ばかりでもないのだぞ。
どのような試練を課された国、いかなる闇黒の時代においてさえもキラリと光る心の矜持を持って生きる者もたくさんいるさ。
だが強大な悪の炎の前にはそれも往々にして敢え無く踏み潰されてしまうものなのだがな。
どこの世界であれ、それは哀しいものだ。
世界を越え、人の魂を持ったまま魔神とさえ呼ばれる俺だからこそ思うのかもしれんのだがな」
「うん……これからも、そういう人達とたくさん会えるといいな。
でも帝国かあ、何故神様はあのような国の跳梁をお許しになったのかしら」
「まあ、神様には神様の都合っていうものがあるのさ。
この魔神様に都合があるようにな」
「本当によかったわ、魔神様の都合が私の敵に回る事ではなくって」
山頂には万年雪を戴冠し、春までまったく溶けそうもない大氷雪原の上に更に白い雪が深く積もり、永遠に続くかと思うような白と木々の黒で表した世界の稜線、その銀世界の一部に陣取っての夜明かしだ。
針葉樹に積もった雪は夜の息吹にそれを凍てつかせ、また数多の樹氷をも作り出すのかもしれない。
美しい死に化粧のような氷のデコレーション。
その鮮烈に死を思わせる氷の女王の版図において、俺のかまくらの中では火鉢が暖かな炭の放つ柔光を柔らかく放っており、それが白雪のかまくらの壁面に反射して、異世界の幻想的な夜のテイストを醸し出していた。
一人であったなら感じないような、誰かといられるからこそ不思議で愛おしい感慨に満たされていく時間。
半端でないような恐るべき追撃者に追われているというのに、これまた有り得ないほどに優雅な事だな、魔神君よ。
かまくらから漏れ出る灯りは、俺が可視光などを捻じ曲げて処理し、決して外へ漏れないようにしてある。
外にもちょっとした自然な雪の山に見せかけた、なだらかに作り上げた自然の防壁を作り、外部からはその中に人がいる事が一見しただけではわからないようにしてある。
また昼間に集めてあった材料で、戦車や大砲に被せるような一種の軍用艤装ネットのような物を作っておいたので、出来がチャチではあっても空から見ても比較的わかりにくいものだろう。
特にこの世界のように、量産され整備された航空機に積まれたガンカメラが捉えた映像を、あるいは軍用の高解像度の画像を地上の施設に送り続けるサテライトからの映像をコンピューターが分析するような世界でない場所では。
俺が用意したものは、青々とした緑の枝に艤装したものではなく、この季節のこういった厳寒期の森林などに見られるような、雪と合わせて黒い枝などで木に紛れるようにするものだ。
こういう事は、農業用サイロが核ミサイルサイトではないのかと国家元首同士が面を突き合わせて追及しあうような時代の、ヒューミントが全盛だったスパイ活動や軍事活動が中心だった頃の手法で、画像映像に撮られた時に背景に溶け込むように上手くボカす事がコツといえばコツだ。
コンピューターが何もかもベールを引っぺがして分析解析していく現代の戦争ではあまり通用しないかもしれないが、大自然の混沌を映すジャングルなんかではまだ十分に使えるものだろうか。
これは空からの偵察に備えたものだ。陸から接近するのはなかなか厳しいので、多分偵察は空から来るはずだ。
だんだんとやる事が地球の戦争染みてきたな。
まあ昼間の戦闘は一方的な超兵器戦みたいになってしまっていたのだが。
ゲリラ兵は雪の中で活動するにしても、かまくらなどは作らないがね。
どうでもいいけど、かまくらってトーチカにちょっと形が似ているな。
もしこの異世界で重機関銃でも買えるのだったら、ゴブリンでもティムしてきてトーチカに据えておくと、少しは足止めくらいにはなるだろうか。
「こんなに厳しい、道と言えるような物も碌に無いような山中を、帝国はやはり追ってくるのかしらね」
だが俺は王女の疑問へ、火鉢の具合を確かめつつ、換気のためにかまくらの中の空気成分の分析を行いながら素直に頷いてやった。
「来るだろうな。
奴らにはそうするだけの十分な理由がある。
兵士がたとえ何万人凍え死のうが、兵站もなく飢えて死のうが、あるいは俺に殺されようが、全てお構いなしに皇帝は命令するだろう。
お前達二人を捉えよと。それが奴の望み行く、果てしない呪われた血によってこの先も紡がれんと願う野望の道程なのだから」
それを耳にしたアリエスは思いっきりその秀麗な眉を顰めると、すぐにシチューのお替りに手を伸ばした。
この子もまだまだ食べ盛りなのだ。
どんなに追われようと人は腹が減る。
妹の方など、もろに育ちざかりなので黙々と美味しい芋に手を伸ばしている。
ルーが、あの壮烈な戦の最中にも一生懸命集めてくれた希少な美味種で、そして子供達のために心を込めて美味しく調理してくれたものだ。
「不思議ね、人間ですらないあなた達が、こんなにも私達によくしてくれて。
なのに、同じ人間であるはずの帝国人は私達の家族を殺し、私達を捕らえて酷い事をしようとしている。
人間って一体何なのかしら」
そう言って少し物思いに耽るような顔つきでシチューを啜るアリエス。
「まあ、俺は元が人間だったからわかるのだが、人間とはそういうものだ。
所詮は性悪説の中でしか生きられないような浅はかな生き物だ。
だが、世の中はそういう人間ばかりでもないのだぞ。
どのような試練を課された国、いかなる闇黒の時代においてさえもキラリと光る心の矜持を持って生きる者もたくさんいるさ。
だが強大な悪の炎の前にはそれも往々にして敢え無く踏み潰されてしまうものなのだがな。
どこの世界であれ、それは哀しいものだ。
世界を越え、人の魂を持ったまま魔神とさえ呼ばれる俺だからこそ思うのかもしれんのだがな」
「うん……これからも、そういう人達とたくさん会えるといいな。
でも帝国かあ、何故神様はあのような国の跳梁をお許しになったのかしら」
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