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第一章 孤独の果てに
1-21 苦難の道標
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それからも雪中の行軍は続いた。
日中に猛吹雪ともなれば、かまくらなどを出している余裕はないので、俺の氷雪を操る能力で雪洞を掘り、その中でまんじりともせずに止むのを待った。
追手を危惧し焦燥に駆られるも、俺達だけならいざ知らず子供達にはそのような環境の中での行軍は無理だったので諦める他はない。
そのまま夜になってしまった時などは思わず焦れるが、夜の行軍は自殺行為だし、何よりも子供達自身の体が持たない。
その晩、かまくらの中でアリエスは再び不安そうに呟いた。
まだ夜が始まったばかりの刻だがメリーベルはもう寝てしまった。
まだ小学生の歳だからな。
「追手は今も来ているのかしら」
「ああ、この山を越えれば占領国を出て隣国へ入ってしまうから、なんとしても山岳地帯で我々を捕捉したいと考えているだろうよ。
さすがに、そのまま帝国の軍勢が隣国の占領戦に入るという訳にもいくまい。
連中とて山越えはきつく、軍勢を相手にするための装備ではないし、兵站もない所詮は只の人間狩りに過ぎない作戦なのだから。
だが、お前の国が帝国の飛び地として落ちたというのであれば、いずれはその国も詰む。
この山脈沿いだけでなく、帝国は下方面からもその国を攻められるのだろう?」
アリエスは手袋をした手に息を吹きかけながら言った。
「ええ、前にも言ったと思うけれど、我が国が落ちたという事は我が国の下にあった沿海国を蹴散らして帝国得意の魔導電撃速度戦で進軍したという事よ。
おそらくまだそのパルミシア王国も全面的に占領されておらず、港と街道を制圧されただけだとは思うけど、それらを抑えられ周りからも分断されているだろうあの国はもうお終いだわ。
あそこの港が無事なら、そこに逃げ込む道もあったのだけれど、そもそもそれらの港が無事なら我が国も無事でした」
「だろうな。すると隣国を攻めるのであれば、まず下の国を完全に制圧して背後の憂いを絶ってからという事になるか」
「それも、もう成っているかもしれないわ。
ああなってはパルミシア王国も終しまいよ。
無条件降伏で、よい条件を引き出すために早めに降参しているかもしれない。
もう、こうなってはどうあがいても無駄ですもの。
沿海国家は商人国家でもあるので、なかなか計算高い面もあるわ。
だから帝国もそういう部分をも柔軟に攻めて、多くの海洋拠点を早期に手中に収めたの」
「ふう、皇帝とやらめ。
ありがたくない事に素晴らしく切れる男だな」
「ええ、困ったものだわ。
仮にパルミシア王国が降参していなくても隣国との国境へ接している港を制圧できたのだから、帝国は山向こうの国へと軍を通すくらいは簡単にできるわ。
私達が国境を越えて行こうとしている先の、サンマルコス王国はこの山岳地帯でアーデルセン王国と国境を挟み、パルミシア王国とは大河で国境を為しているけれど、その河口付近に軍港も兼ねた大きな港、前にも名前を出したアモス港があります。
そこが帝国のパルミシア王国侵攻のための一大拠点になっているでしょうから、今頃はそこにも大量の帝国兵で溢れているはずよ。
さぞかし街中を彼ら悪鬼による恐るべき蛮行が蔓延っているのでしょうね」
怖気を震ったとでもいうように彼女は肩を抱き震えた。
それにシルバーが鼻面を寄せて慰め、彼女もその鼻面を撫でて体を預け、そっとその心根のように無垢で暖かな毛皮へと頬を寄せた。
「お前達が目指している港はどこにある」
「ええ、それはもっと西よ。
河口にはパルミシア王国の港があるから、同じ同盟に属する沿海国同士で仲のいい両国はそこを二か国で使っていたの。
それを占領されたからサンマルコス王国は哀哭するほどに痛いはずよ。
でも自国の中の話ではない隣国の案件に関して帝国に抗議するという事は、帝国から即時の敵対及び宣戦布告と見做されるでしょうから、さすがにそれは無理でしょうけど。
でもそれはすぐに帝国側から実施されるでしょう。
いえ、どちらからの宣戦布告すら無きままに」
つまり、それは即ち、重要な物流拠点を抑えられた上に、自国の目と鼻の先の本来なら自国が利用すべき港、兵站の拠点となる場所そのものに軍勢を送り込まれてしまっているわけで、その国が持ちこたえられなくなるのも時間の問題であるという事を意味しているわけか。
また早くしないと帝国にサンマルコス王国内の港がすべて抑えられてアウト、無時に港まで行けても船に乗れなくてはまたアウトか。
「ふむ、綱渡りに次ぐ綱渡りというわけか。
これが済んだら俺は綱渡りの名手となり、見世物小屋でたんまりと稼げそうだ」
「あはは、あなたならきっと凄いスターになれるわよ」
「もう少し体のサイズが小さかったならな。それで、その港というのは遠いのか」
俺の問いにアリエスは小さく頷いた。
「ええ、大きな港を二つも並べておいても意味はないから。
サンマルコス王国はこのアルブーマ大山脈沿い、そしてさらに魔の海への沿海に沿って双方にへばりつくように国土がある国で大きな港が二つあるわ。
この国はさほど大きくは無いし、その真ん中と西端ね。できれば、そのどちらかから船に乗りたいわ。前にも言ったように陸路でこのまま目的地まで行くのは絶対に無理でしょうし、帝国内で船に乗るのはもっと無理。少々危険だけど、サンマルコス王国から平原地帯の外へ行く船に乗るしかないの」
それもまた危険が大きい道なのだが、それを言うのならば今更もう何をどうしようが、どのような道程を辿ろうが、この姉妹にとって安全な道など、もはやこの世界のどこにもあるまい。
「他にも不安はあるの。
おそらく、平原以外の遠くの国へ向かう船なんて数が少ないでしょうし、それが出ているのが行った場所と違う港かもしれないわ。
とりあえず近い方から目指すしかないのだけれど」
簡単な周辺地域への知識こそあるものの、お姫様だったのだから船の運航なんかに詳しいはずなどない。
へたをすれば経由便になっており、その国からは平原の中にある国までしか船が出ていないかもしれない。
その時に選択肢として安全に経由できるような行先があるのか。
アリエスを不安にさせたくないので、余計な事を言うつもりはないのだが、ここは情報が欲しいところだ。
これが地球なら船便などネットで調べ放題なのだが。
日中に猛吹雪ともなれば、かまくらなどを出している余裕はないので、俺の氷雪を操る能力で雪洞を掘り、その中でまんじりともせずに止むのを待った。
追手を危惧し焦燥に駆られるも、俺達だけならいざ知らず子供達にはそのような環境の中での行軍は無理だったので諦める他はない。
そのまま夜になってしまった時などは思わず焦れるが、夜の行軍は自殺行為だし、何よりも子供達自身の体が持たない。
その晩、かまくらの中でアリエスは再び不安そうに呟いた。
まだ夜が始まったばかりの刻だがメリーベルはもう寝てしまった。
まだ小学生の歳だからな。
「追手は今も来ているのかしら」
「ああ、この山を越えれば占領国を出て隣国へ入ってしまうから、なんとしても山岳地帯で我々を捕捉したいと考えているだろうよ。
さすがに、そのまま帝国の軍勢が隣国の占領戦に入るという訳にもいくまい。
連中とて山越えはきつく、軍勢を相手にするための装備ではないし、兵站もない所詮は只の人間狩りに過ぎない作戦なのだから。
だが、お前の国が帝国の飛び地として落ちたというのであれば、いずれはその国も詰む。
この山脈沿いだけでなく、帝国は下方面からもその国を攻められるのだろう?」
アリエスは手袋をした手に息を吹きかけながら言った。
「ええ、前にも言ったと思うけれど、我が国が落ちたという事は我が国の下にあった沿海国を蹴散らして帝国得意の魔導電撃速度戦で進軍したという事よ。
おそらくまだそのパルミシア王国も全面的に占領されておらず、港と街道を制圧されただけだとは思うけど、それらを抑えられ周りからも分断されているだろうあの国はもうお終いだわ。
あそこの港が無事なら、そこに逃げ込む道もあったのだけれど、そもそもそれらの港が無事なら我が国も無事でした」
「だろうな。すると隣国を攻めるのであれば、まず下の国を完全に制圧して背後の憂いを絶ってからという事になるか」
「それも、もう成っているかもしれないわ。
ああなってはパルミシア王国も終しまいよ。
無条件降伏で、よい条件を引き出すために早めに降参しているかもしれない。
もう、こうなってはどうあがいても無駄ですもの。
沿海国家は商人国家でもあるので、なかなか計算高い面もあるわ。
だから帝国もそういう部分をも柔軟に攻めて、多くの海洋拠点を早期に手中に収めたの」
「ふう、皇帝とやらめ。
ありがたくない事に素晴らしく切れる男だな」
「ええ、困ったものだわ。
仮にパルミシア王国が降参していなくても隣国との国境へ接している港を制圧できたのだから、帝国は山向こうの国へと軍を通すくらいは簡単にできるわ。
私達が国境を越えて行こうとしている先の、サンマルコス王国はこの山岳地帯でアーデルセン王国と国境を挟み、パルミシア王国とは大河で国境を為しているけれど、その河口付近に軍港も兼ねた大きな港、前にも名前を出したアモス港があります。
そこが帝国のパルミシア王国侵攻のための一大拠点になっているでしょうから、今頃はそこにも大量の帝国兵で溢れているはずよ。
さぞかし街中を彼ら悪鬼による恐るべき蛮行が蔓延っているのでしょうね」
怖気を震ったとでもいうように彼女は肩を抱き震えた。
それにシルバーが鼻面を寄せて慰め、彼女もその鼻面を撫でて体を預け、そっとその心根のように無垢で暖かな毛皮へと頬を寄せた。
「お前達が目指している港はどこにある」
「ええ、それはもっと西よ。
河口にはパルミシア王国の港があるから、同じ同盟に属する沿海国同士で仲のいい両国はそこを二か国で使っていたの。
それを占領されたからサンマルコス王国は哀哭するほどに痛いはずよ。
でも自国の中の話ではない隣国の案件に関して帝国に抗議するという事は、帝国から即時の敵対及び宣戦布告と見做されるでしょうから、さすがにそれは無理でしょうけど。
でもそれはすぐに帝国側から実施されるでしょう。
いえ、どちらからの宣戦布告すら無きままに」
つまり、それは即ち、重要な物流拠点を抑えられた上に、自国の目と鼻の先の本来なら自国が利用すべき港、兵站の拠点となる場所そのものに軍勢を送り込まれてしまっているわけで、その国が持ちこたえられなくなるのも時間の問題であるという事を意味しているわけか。
また早くしないと帝国にサンマルコス王国内の港がすべて抑えられてアウト、無時に港まで行けても船に乗れなくてはまたアウトか。
「ふむ、綱渡りに次ぐ綱渡りというわけか。
これが済んだら俺は綱渡りの名手となり、見世物小屋でたんまりと稼げそうだ」
「あはは、あなたならきっと凄いスターになれるわよ」
「もう少し体のサイズが小さかったならな。それで、その港というのは遠いのか」
俺の問いにアリエスは小さく頷いた。
「ええ、大きな港を二つも並べておいても意味はないから。
サンマルコス王国はこのアルブーマ大山脈沿い、そしてさらに魔の海への沿海に沿って双方にへばりつくように国土がある国で大きな港が二つあるわ。
この国はさほど大きくは無いし、その真ん中と西端ね。できれば、そのどちらかから船に乗りたいわ。前にも言ったように陸路でこのまま目的地まで行くのは絶対に無理でしょうし、帝国内で船に乗るのはもっと無理。少々危険だけど、サンマルコス王国から平原地帯の外へ行く船に乗るしかないの」
それもまた危険が大きい道なのだが、それを言うのならば今更もう何をどうしようが、どのような道程を辿ろうが、この姉妹にとって安全な道など、もはやこの世界のどこにもあるまい。
「他にも不安はあるの。
おそらく、平原以外の遠くの国へ向かう船なんて数が少ないでしょうし、それが出ているのが行った場所と違う港かもしれないわ。
とりあえず近い方から目指すしかないのだけれど」
簡単な周辺地域への知識こそあるものの、お姫様だったのだから船の運航なんかに詳しいはずなどない。
へたをすれば経由便になっており、その国からは平原の中にある国までしか船が出ていないかもしれない。
その時に選択肢として安全に経由できるような行先があるのか。
アリエスを不安にさせたくないので、余計な事を言うつもりはないのだが、ここは情報が欲しいところだ。
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