デビルナイツ・ジン

緋色優希

文字の大きさ
21 / 59
第一章 孤独の果てに

1-21 苦難の道標

しおりを挟む
 それからも雪中の行軍は続いた。

 日中に猛吹雪ともなれば、かまくらなどを出している余裕はないので、俺の氷雪を操る能力で雪洞を掘り、その中でまんじりともせずに止むのを待った。

 追手を危惧し焦燥に駆られるも、俺達だけならいざ知らず子供達にはそのような環境の中での行軍は無理だったので諦める他はない。

 そのまま夜になってしまった時などは思わず焦れるが、夜の行軍は自殺行為だし、何よりも子供達自身の体が持たない。

 その晩、かまくらの中でアリエスは再び不安そうに呟いた。

 まだ夜が始まったばかりの刻だがメリーベルはもう寝てしまった。
 まだ小学生の歳だからな。

「追手は今も来ているのかしら」

「ああ、この山を越えれば占領国を出て隣国へ入ってしまうから、なんとしても山岳地帯で我々を捕捉したいと考えているだろうよ。

 さすがに、そのまま帝国の軍勢が隣国の占領戦に入るという訳にもいくまい。

 連中とて山越えはきつく、軍勢を相手にするための装備ではないし、兵站もない所詮は只の人間狩りに過ぎない作戦なのだから。

 だが、お前の国が帝国の飛び地として落ちたというのであれば、いずれはその国も詰む。

 この山脈沿いだけでなく、帝国は下方面からもその国を攻められるのだろう?」

 アリエスは手袋をした手に息を吹きかけながら言った。

「ええ、前にも言ったと思うけれど、我が国が落ちたという事は我が国の下にあった沿海国を蹴散らして帝国得意の魔導電撃速度戦で進軍したという事よ。

 おそらくまだそのパルミシア王国も全面的に占領されておらず、港と街道を制圧されただけだとは思うけど、それらを抑えられ周りからも分断されているだろうあの国はもうお終いだわ。

 あそこの港が無事なら、そこに逃げ込む道もあったのだけれど、そもそもそれらの港が無事なら我が国も無事でした」

「だろうな。すると隣国を攻めるのであれば、まず下の国を完全に制圧して背後の憂いを絶ってからという事になるか」

「それも、もう成っているかもしれないわ。
 ああなってはパルミシア王国も終しまいよ。

 無条件降伏で、よい条件を引き出すために早めに降参しているかもしれない。
 もう、こうなってはどうあがいても無駄ですもの。

 沿海国家は商人国家でもあるので、なかなか計算高い面もあるわ。

 だから帝国もそういう部分をも柔軟に攻めて、多くの海洋拠点を早期に手中に収めたの」

「ふう、皇帝とやらめ。
 ありがたくない事に素晴らしく切れる男だな」

「ええ、困ったものだわ。

 仮にパルミシア王国が降参していなくても隣国との国境へ接している港を制圧できたのだから、帝国は山向こうの国へと軍を通すくらいは簡単にできるわ。

 私達が国境を越えて行こうとしている先の、サンマルコス王国はこの山岳地帯でアーデルセン王国と国境を挟み、パルミシア王国とは大河で国境を為しているけれど、その河口付近に軍港も兼ねた大きな港、前にも名前を出したアモス港があります。

 そこが帝国のパルミシア王国侵攻のための一大拠点になっているでしょうから、今頃はそこにも大量の帝国兵で溢れているはずよ。

 さぞかし街中を彼ら悪鬼による恐るべき蛮行が蔓延はびこっているのでしょうね」

 怖気を震ったとでもいうように彼女は肩を抱き震えた。

 それにシルバーが鼻面を寄せて慰め、彼女もその鼻面を撫でて体を預け、そっとその心根のように無垢で暖かな毛皮へと頬を寄せた。

「お前達が目指している港はどこにある」

「ええ、それはもっと西よ。

 河口にはパルミシア王国の港があるから、同じ同盟に属する沿海国同士で仲のいい両国はそこを二か国で使っていたの。

 それを占領されたからサンマルコス王国は哀哭するほどに痛いはずよ。

 でも自国の中の話ではない隣国の案件に関して帝国に抗議するという事は、帝国から即時の敵対及び宣戦布告と見做されるでしょうから、さすがにそれは無理でしょうけど。

 でもそれはすぐに帝国側から実施されるでしょう。
 いえ、どちらからの宣戦布告すら無きままに」

 つまり、それはすなわち、重要な物流拠点を抑えられた上に、自国の目と鼻の先の本来なら自国が利用すべき港、兵站の拠点となる場所そのものに軍勢を送り込まれてしまっているわけで、その国が持ちこたえられなくなるのも時間の問題であるという事を意味しているわけか。

 また早くしないと帝国にサンマルコス王国内の港がすべて抑えられてアウト、無時に港まで行けても船に乗れなくてはまたアウトか。

「ふむ、綱渡りに次ぐ綱渡りというわけか。
 これが済んだら俺は綱渡りの名手となり、見世物小屋でたんまりと稼げそうだ」

「あはは、あなたならきっと凄いスターになれるわよ」

「もう少し体のサイズが小さかったならな。それで、その港というのは遠いのか」

 俺の問いにアリエスは小さく頷いた。

「ええ、大きな港を二つも並べておいても意味はないから。

 サンマルコス王国はこのアルブーマ大山脈沿い、そしてさらに魔の海への沿海に沿って双方にへばりつくように国土がある国で大きな港が二つあるわ。

 この国はさほど大きくは無いし、その真ん中と西端ね。できれば、そのどちらかから船に乗りたいわ。前にも言ったように陸路でこのまま目的地まで行くのは絶対に無理でしょうし、帝国内で船に乗るのはもっと無理。少々危険だけど、サンマルコス王国から平原地帯の外へ行く船に乗るしかないの」
 それもまた危険が大きい道なのだが、それを言うのならば今更もう何をどうしようが、どのような道程を辿ろうが、この姉妹にとって安全な道など、もはやこの世界のどこにもあるまい。

「他にも不安はあるの。

 おそらく、平原以外の遠くの国へ向かう船なんて数が少ないでしょうし、それが出ているのが行った場所と違う港かもしれないわ。

 とりあえず近い方から目指すしかないのだけれど」

 簡単な周辺地域への知識こそあるものの、お姫様だったのだから船の運航なんかに詳しいはずなどない。

 へたをすれば経由便になっており、その国からは平原の中にある国までしか船が出ていないかもしれない。

 その時に選択肢として安全に経由できるような行先があるのか。

 アリエスを不安にさせたくないので、余計な事を言うつもりはないのだが、ここは情報が欲しいところだ。

 これが地球なら船便などネットで調べ放題なのだが。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

処理中です...