デビルナイツ・ジン

緋色優希

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第一章 孤独の果てに

1-23 猟犬の時間

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「狩りっ、狩りっ、狩り~」

 楽しいお遊びの時間に、はしゃぐシルバーは元気に雪を蹴散らして駆けていた。

 何しろ今日は大好きなお父さんから一人で大事な狩りを任せてもらったのだから、これでワンコが嬉しくない訳がない。

 また、あの二人の大好きな友達を護るための狩りでもあるのだから、余計に気合も乗っていた。

 もう傷つけられた体の方も絶好調で、その剣呑な気配を隠すつもりなど微塵もない。

 フェンリルは回復力も半端ではないのだが、むしろ超回復していて前よりも絶好調でパワーや感覚の鋭さにも溢れる感じであった。

 シルバーが隠密していないのは襲撃に怯える獲物に、わざと自分の位置を知らせて炙り出すやり方なのだ。

 魔獣の接近に耐え切れなくなって飛び出したところを御用にする算段だった。

 殺さないようにとの指示だったので、両方の足首でも食いちぎっておけば御の字だろうと思っている。

 あんな風にこそこそとしている奴らなので、そういう奴らは経験上あまり強者ではない筈だった。

 敵は二人、人間にしては見上げた息の潜め方だが、フェンリルから見たらまだまだだった。

 見事な隠密を展開しているのだが、それはおそらくそいつらのスキルによるもので、そのスキル自身が魔力の匂いを発しているのだ。

 今までに素晴らしい隠密系の獲物を狩った事はあったが、やはりそれは避けられない宿命なのだった。

 隠密系スキルの持ち主にとってフェンリルは相性最悪の敵だったのだ。

 あのシルバーの感覚を胡麻化していた隠密部隊の連中とて、今のように丹念にじっくりと一人ずつ探索されれば決して強者といえども簡単に逃げられるものではない。

「おーい、子兎ちゃん、出ておいでー。
 あ、でも本物の子兎ちゃんは出てきちゃ駄目だよー」

 もちろん連中からの応えはないのだが、魔力の匂いに若干の苛立ちが混じった気配を感じ取り、密かにほくそ笑むシルバー。

 そして、その隠れている周辺を嗅ぎ回る仕草を見せて奴らを少し慌てさせるが、次の瞬間にさりげなく見当違いの場所へくるりっと踵を返して安堵させるなどの小技に終始した。

 揺さぶる揺さぶる、その駆け引きと甚振り。
 ワンコの悪戯心とも相まって、連中は寒い中たっぷりと冷や汗をかいた事だろう。

 そして、その一連の一幕の後で奴らがその隙を見せるというか一瞬弛緩したその僅かなマイクロセコンドレベルの瞬間を狙って、それを放った。

 奴らの近くにそっと忍ばせておいた気配ゼロのトラップ、土魔法触手だ。

 これはあの土の葬牙と同じで、一種の疑似生命であり、自動的に奴らを捕らえた。

 突然の予期せぬ攻撃に悲鳴一つ上げないのは敵ながらたいしたものだと言わざるを得ない。

 一人は大木の洞、もう一人は何もないような場所の雪の下に隠れていた。

 後者の方が発見されにくいとは思うのだが、さぞかし冷たいだろうに。

 無理やりに隠れ家から引きずり出され、拘束されたまま身動きも取れずにシルバーを睨み返す二人の黒装束を着込んだ兵士達。

「やあ、間抜けな人間さん」

 せっかくシルバーが可愛らしい声で愛想良く挨拶してやっても返事はない。

 その不愛想な態度にシルバーは人間っぽい仕草で肩を竦めると、とことこと不用意に近寄っていった。

 すると、男は身動きもできないはずなのにどうやったものであるのか、手持ちのアイテムの中から【対犬系魔獣用匂い袋】を投げつけ、それは見事にシルバーの鼻先に命中して、モロにその臭悪な中身を大量にぶちまけた。

「ぶひゃあ、ふごうう」

 不用意に最悪のアイテムを食らってしまい、思わず地面を転げ回ったシルバー、もちろんそれで奴らの戒めが解けてしまうわけではないのだが。

 そこへ、すかさず思念同調していたジンからテレパシーが飛ぶ。

「どうした、シルバー。何かあったのか⁉」

「あうう、二人は捕まえたんだけど、匂い袋まともに食らっちゃった。わふううーん」

 そしてテレパシーで仄かに震えるかのような感触で伝わってくる忍び笑い。
 もちろん、ジンのものだ。

「いいから遊んでないで、早くそいつらを連れて帰ってきておくれ」
「あーい」

 そして、その触手に連中を絡めたまま、それを触手の力で空中に持ち上げて引き連れて走っていった。

 鼻がやられてしまったので少し涙目のまま。

 あの触手に囚われると魔法やスキルは封じられてしまうので、まさか手足を拘束されたまま反撃されるとは思ってもいなかったのだ。

 まだまだ思慮の足りない若駒なシルバーだった。

「ただいまー」
「大丈夫だったか?」

「うん、でも鼻が馬鹿だー。
 早く回復してえ」
「はっはっは、そらよ」

 回復魔法はかけられたので機能は戻ったのだが、しばらくは嗅覚も鈍いままだろう。敵を捕らえてからの出来事でよかったことだ。
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