32 / 59
第一章 孤独の果てに
1-32 王女様の初めてのお使い
しおりを挟む
まず彼女が案内してくれたのは食料品店だった。
まず欲しい物は、なんといっても小麦粉で焼いたパンである。
こればかりはいかにルーといえども原料無しに焼くのは無理であった。
集めた芋や草の根から作った、でんぷんからなる餅のような物は食べさせてくれた事もあるのだが、そもそものんびりと製作に時間のかかる澱粉粉を作っていられるような優雅な旅でもなかったのだから、おやつ用に用意されていただけの在庫はすぐに尽きた。
お店でおばさんが見せてくれたのは、見た目にもいかにも堅そうに見えるパンだった。
日本で言うなら手で千切って食べないと食い千切るのも難しいような固めのフランスパンのような感じだろうか。
鋸のようなナイフで切らないと上手く切れそうにない。
「どうしたの、そのパンじゃ気に入らなかった?」
「ああ、うん。
ちょっと堅いのでびっくりしました」
「まあ、そういう堅いパンの方が日持ちするからねえ。
ここは北方で物流も乏しいので、食材もどうしてもそういう方向へ舵を切ってしまいがちなのよ。
干し肉、塩漬け肉に、干し野菜なんかもあるわ」
「えーと、小麦粉はありますか。
出来れば、たくさん」
「あるわよ。
まあ堅いパンが嫌だっていうのなら毎回自分で焼くしかないわねえ」
「じゃあ、食料品を一通りいただけますか。
道中は長いと思いますので、なるべく食品は持っていたいかなと。
あ、このお金は使えますか」
そう言って見せたのは、ジンがくれた冒険者達から巻き上げたという金貨だ。
どこの国の物かも知れないが、金貨自体は平原ならば同じような物を使っている。
ジンに挑んであえなく破れ、涙目で手持ちの金やアイテムなどをジンに差し出した冒険者達によれば、あの帝国でさえも周りの国々を併合していったのでそうなっているのだから、少しずつ使う分には特に問題は無いだろうとジンは言っていた。
「ええ、平原で流通している金貨の一つだから特に問題なく使えるけど、ここは辺境だから大きなお金だと困る店もあるでしょうね」
「じゃあ、たくさん買いますので、支払いは金貨でお願いいたします」
「でも、そんなに持てる?
金貨一枚分となると買う物が凄い量になりそうだけど」
「あ、それなら大丈夫です。
この収納バッグがありますから」
アリエスはそう言って、ポシェットタイプの可愛い刺繍付きのベルトに下げる方式の丈夫な革で作られた収納バッグを見せた。
家を出る時に侍女に持たせられたものだ。
着替えなども入っているのだが、超上等な王女の物なのでそのような物を着ていたら一発でその辺の子供でないと見抜かれる。
生憎とお金は自分では持っていなかったのだ。
宝石のついたアクセサリーの類なら沢山持っているが、そういう王族が持つような物は一点物が多そうだから簡単に足が付くだろうから絶対に換金に出すなとジンから厳しく言われていた。
「へえ、もしかして収納バッグか。
金貨といい、おうちは凄くお金持ちだったのかな?
でも、そんな物はやたらと人前で見せない方がいいわよ。
特にこの街じゃあね。
このお店なら大丈夫だけど。ここは私のおばさんの店だから信用できるわ」
しまった、ジンからも収納バッグは人には見せるなと言われていたのにと思ったが遅かった。
思ったよりも遥かに厳しい環境の街の中で良い人達に出会えたので、つい気が緩んでしまっていたのだ。
「まあ、とりあえず買った物は店の奥で仕舞いなさい。
ほら行って行って。
食べ物は、今から用意してあげるから」
「あ、ありがとうございます」
「いいんだよ、正義感の強い私の姪が連れてきた子なのだから。
姪が困っていた時、無償の心で助けてくれた者達も大勢いたよ。
今、誰かが困っているというのなら私も助けよう。
本当にこの街には困ったものだよ。
昔はこうじゃなかったものを」
口ではそう溢しながらも二人に向けて笑顔を見せて、おばさんは購入品の支度にいってくれた。
一見みすぼらしいといってもいいような簡素な格好をした人なのだが、心には煌びやかな錦が飾られていた。
そうしてアリエス達は、当面自分達の食べるパンなどの食料はなんとか無事に確保したのだった。
「お茶を淹れてあげるわ。
この街ではトウモロコシのお茶を好むのよ。
乾燥したトウモロコシも用意してくれるからね。
あれも日持ちするし、煮たり焼いたりしてあれこれと使える栄養たっぷりのトウモロコシ粉もあるわ」
やがて、おばさんは大袋に詰めた商品を幾つも持ってきてくれた。
「わあ、こんなに?」
「はは、まだ子供だから金貨の値打ちがよくわからないかね。
でも、やたらなところでそれを出すんじゃないよ。
もし銀貨を持っているなら、それを使いなさい。
せめてその上の大銀貨だ。
お前さん達はその風体から、変装していたって明らかにいいとこのお嬢ちゃんにしかみえないからね。
態度振る舞いや仕草、それに声の調子や話し方が、あまりにも上品過ぎる。
この街に限らずに、どこへいっても用心する事だねえ」
「あうう、気をつけます」
おばさんには高貴な出自である事が薄々バレてしまっているようだった。
そして内心で「うひゃあ」と首を竦めてから妹と二人で、手に持った木をくりぬいた素朴な器に淹れてもらった変わった風味だが甘めの美味しいトウモロコシ茶を啜るアリエスであった。
まず欲しい物は、なんといっても小麦粉で焼いたパンである。
こればかりはいかにルーといえども原料無しに焼くのは無理であった。
集めた芋や草の根から作った、でんぷんからなる餅のような物は食べさせてくれた事もあるのだが、そもそものんびりと製作に時間のかかる澱粉粉を作っていられるような優雅な旅でもなかったのだから、おやつ用に用意されていただけの在庫はすぐに尽きた。
お店でおばさんが見せてくれたのは、見た目にもいかにも堅そうに見えるパンだった。
日本で言うなら手で千切って食べないと食い千切るのも難しいような固めのフランスパンのような感じだろうか。
鋸のようなナイフで切らないと上手く切れそうにない。
「どうしたの、そのパンじゃ気に入らなかった?」
「ああ、うん。
ちょっと堅いのでびっくりしました」
「まあ、そういう堅いパンの方が日持ちするからねえ。
ここは北方で物流も乏しいので、食材もどうしてもそういう方向へ舵を切ってしまいがちなのよ。
干し肉、塩漬け肉に、干し野菜なんかもあるわ」
「えーと、小麦粉はありますか。
出来れば、たくさん」
「あるわよ。
まあ堅いパンが嫌だっていうのなら毎回自分で焼くしかないわねえ」
「じゃあ、食料品を一通りいただけますか。
道中は長いと思いますので、なるべく食品は持っていたいかなと。
あ、このお金は使えますか」
そう言って見せたのは、ジンがくれた冒険者達から巻き上げたという金貨だ。
どこの国の物かも知れないが、金貨自体は平原ならば同じような物を使っている。
ジンに挑んであえなく破れ、涙目で手持ちの金やアイテムなどをジンに差し出した冒険者達によれば、あの帝国でさえも周りの国々を併合していったのでそうなっているのだから、少しずつ使う分には特に問題は無いだろうとジンは言っていた。
「ええ、平原で流通している金貨の一つだから特に問題なく使えるけど、ここは辺境だから大きなお金だと困る店もあるでしょうね」
「じゃあ、たくさん買いますので、支払いは金貨でお願いいたします」
「でも、そんなに持てる?
金貨一枚分となると買う物が凄い量になりそうだけど」
「あ、それなら大丈夫です。
この収納バッグがありますから」
アリエスはそう言って、ポシェットタイプの可愛い刺繍付きのベルトに下げる方式の丈夫な革で作られた収納バッグを見せた。
家を出る時に侍女に持たせられたものだ。
着替えなども入っているのだが、超上等な王女の物なのでそのような物を着ていたら一発でその辺の子供でないと見抜かれる。
生憎とお金は自分では持っていなかったのだ。
宝石のついたアクセサリーの類なら沢山持っているが、そういう王族が持つような物は一点物が多そうだから簡単に足が付くだろうから絶対に換金に出すなとジンから厳しく言われていた。
「へえ、もしかして収納バッグか。
金貨といい、おうちは凄くお金持ちだったのかな?
でも、そんな物はやたらと人前で見せない方がいいわよ。
特にこの街じゃあね。
このお店なら大丈夫だけど。ここは私のおばさんの店だから信用できるわ」
しまった、ジンからも収納バッグは人には見せるなと言われていたのにと思ったが遅かった。
思ったよりも遥かに厳しい環境の街の中で良い人達に出会えたので、つい気が緩んでしまっていたのだ。
「まあ、とりあえず買った物は店の奥で仕舞いなさい。
ほら行って行って。
食べ物は、今から用意してあげるから」
「あ、ありがとうございます」
「いいんだよ、正義感の強い私の姪が連れてきた子なのだから。
姪が困っていた時、無償の心で助けてくれた者達も大勢いたよ。
今、誰かが困っているというのなら私も助けよう。
本当にこの街には困ったものだよ。
昔はこうじゃなかったものを」
口ではそう溢しながらも二人に向けて笑顔を見せて、おばさんは購入品の支度にいってくれた。
一見みすぼらしいといってもいいような簡素な格好をした人なのだが、心には煌びやかな錦が飾られていた。
そうしてアリエス達は、当面自分達の食べるパンなどの食料はなんとか無事に確保したのだった。
「お茶を淹れてあげるわ。
この街ではトウモロコシのお茶を好むのよ。
乾燥したトウモロコシも用意してくれるからね。
あれも日持ちするし、煮たり焼いたりしてあれこれと使える栄養たっぷりのトウモロコシ粉もあるわ」
やがて、おばさんは大袋に詰めた商品を幾つも持ってきてくれた。
「わあ、こんなに?」
「はは、まだ子供だから金貨の値打ちがよくわからないかね。
でも、やたらなところでそれを出すんじゃないよ。
もし銀貨を持っているなら、それを使いなさい。
せめてその上の大銀貨だ。
お前さん達はその風体から、変装していたって明らかにいいとこのお嬢ちゃんにしかみえないからね。
態度振る舞いや仕草、それに声の調子や話し方が、あまりにも上品過ぎる。
この街に限らずに、どこへいっても用心する事だねえ」
「あうう、気をつけます」
おばさんには高貴な出自である事が薄々バレてしまっているようだった。
そして内心で「うひゃあ」と首を竦めてから妹と二人で、手に持った木をくりぬいた素朴な器に淹れてもらった変わった風味だが甘めの美味しいトウモロコシ茶を啜るアリエスであった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~
あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。
それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。
彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。
シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。
それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。
すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。
〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟
そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。
同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。
※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる