デビルナイツ・ジン

緋色優希

文字の大きさ
34 / 59
第一章 孤独の果てに

1-34 万事屋にて

しおりを挟む
 そして案内してくれた店は田舎町にはありがちな『万事屋』的なお店だった。

 洋服や靴などが多めだが、その他の品揃えとして砂糖菓子や日用品その他を扱っているようだった。

「やあ、シェリル。
 その格好からすると今日は巡回かい。

 おや、見かけない子供達を連れているね。
 ははあ、お前さん、さてはまた訳ありな旅の人間を拾ってきたんだね」

「はは、ロンダルさん。
 今日はあなたの世話好きな甥っ子が拾って私のところへ連れてきたのよ。

 子供達だけで旅をしているなんて、ちょっと訳ありみたいね。
 でもこんな年の子達を困らせたくはないから、訳は特に聞いていないけど」

「はは、あれの世話好きはわしの妹、奴の母親譲りさね。
 まあいい、何が御望みだね」

「はあ、服と靴と、あと日用品なんかを」
「じゃあ、いろいろ見ておいで」

 お言葉に甘えて、シェリルによる買い物ガイドを受けながら、いろいろな品物を集めては店の主の元へと運んでいった。

「ロンダルさん、ちょっと奥を貸してもらえるかしら」
「ああ、いいよ」

 彼は少し不思議そうな顔をしたが、そのいつもなら彼女が言ってこないような要望を快く聞き入れてくれる。

 シェリルは、かつて自分や自分の甥っ子が一生懸命に世話をした信用できる人間なのだ。

「お姉ちゃん、これ買ってもいい?」

 そう言ってメリーベルは、甘そうな砂糖菓子の、彼女の手にはやや余るサイズの瓶を手に取って軽く遠慮がちに上目遣いをしていた。

 幼い彼女もこの厳しい逃避行の中で、手持ちがジンから貰った限られたお金しかないのをよくわかっているのだ。

「ええ、いいわよ」

 アリエスはそっと目を伏しながら、そのあまり上等とはいえないような庶民的な、いかにも田舎の店に置いてあるような武骨なガラス製の飴容器から目を逸らした。

 国さえ無事であったのなら、王女の彼女ならそのような粗末な品ではなく、いくらでも大好きな美味しい菓子など食べ放題であったろうに。

 必死で守って逃げてきた、今では唯一の家族となってしまったこの大切な幼い妹があまりにも不憫であったが、アリエスにはどうしてやることもできない。

 祖国を取り戻す事は愚か、今の自分達には見ず知らずの人達の善意に縋って、かろうじて日々を生き延びる事だけで精一杯なのだから。

 それも、あの魔神とさえ謳われたほどに強い魔物でありながらも、優しくて親切なジンがいてくれてこそなのだ。

「ああ、すべては天のアレスの知ろしめすままに。
 この行きずりの私達に親切にしてくださる全ての人達に、アレスよ、どうかあなた様のお恵みを」

 アリエスは口の中でそっと感謝の言葉を呟きながら、自分達のために無垢の心を砕いてくれた全ての人々のために祈りを捧げた。

 アレスは王家の神ドルクスとは異なり、広く平原で崇められる神である。
 アリエスも、やたらなところでドルクスの名は唱えないようにしていた。

「お姉ちゃん、靴はこういうのでいいのかな」

 まだ小学校四年生相当の妹の方は見せてもらっている新しい靴に無邪気にはしゃいでいる。

 まだ冬用の厚手の革で作られた紐がけするタイプの半長靴は、このあたりでは年中通して履くのかもしれない。

 柔な靴などよりも十分、旅には向いているだろう。

「そうね、さすがに街で雪山用の頑丈なブーツでは却って歩きにくいし、とりあえずこういう物が一足あれば足りると思うわ。

 先に行ったら、また別の靴を買いましょうか」

 そして金貨二枚で支払いをして、ついでに焼き菓子も充分な数を追加してもらった。
 荷物を奥の部屋へ運んでもらい、そこで収納へと仕舞った。

「なるほど、収納か。
 うん、それで奥の部屋でか。賢い賢い」

「う、そういう事はさっき連れていってもらった店でシェリルさんから教えてもらいました」

「はは、そういう事は一つ一つ覚えていけばいいさ。
 君達の旅に、天のアレスの加護と福音がありますように」

「ありがとうございます、ロンダルさん。
 親切なあなた方にも天の福音がありますように」

「じゃあ、残りの買い物をしてから帰ろうか」
 そこでシェリルは気がついたように店主に頼んだ。

「ロンダルさん、少し金貨を崩してやってくれませんか。
 これから買い物に行くので、そこでは金貨を使うのはまたなんだし」

「ああ、そうかもしれんね。
 金貨二枚くらいなら崩せるよ。大銀貨十枚と銀貨百枚だな」

「あ、お願いします」

「はは、子供、しかも女の子だけの旅なのだから用心するに越したことはないさ」

 そしてシェリルはアリエスの買い物についていき、他の食品店で追加の物をあれこれと買い込んでいったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

処理中です...