デビルナイツ・ジン

緋色優希

文字の大きさ
53 / 59
第一章 孤独の果てに

1-53 港の一大事

しおりを挟む
 そして黄昏の港へ入り込んだはいいが、まだ慌ただしく働いている人達が大勢いた。

 いや大勢い過ぎた。

 こんな帆船が主力の世界で、まるで今の時間、闇という名の純粋に航行に関するのみならば船にとっては比類ないほどの危険をもたらす魔物が支配し始める時間から、本日の出航のピークを迎えるとでもいうような有様だった。

 港には高価な魔導の灯りが惜しみなく、いや惜しんでも仕方がないとでもいうほどに多数が灯されて、船乗りや商人、そして荷役人夫達の叫ぶ大きな声が、夜の港を押し包んでいたはずの静寂しじまを脅かす。

 どうにも雰囲気が妙な按排だ。

 まるでこの港に非常事態でも宣言されたような、ありえないほどに異様な空気に包まれた有様だった。

「ここは、なんだか凄く慌ただしいんだな」

「それは当り前よ。
 同じ国内の『お隣の港』に帝国が暴れ込んだ様はもう伝わっているのだから。

 ジン、この世界でも港間には地球にも劣らない凄い情報網が敷かれているのよ。

 経済に特に大きな影響を与える大規模な物流基地なんだからね。

 特にこの平原の港全域には、先日のアーデルセン王国陥落の時の衝撃が未だに残っているのだから。

 あれはこの国にとっては喉笛に刃を突き付けられたも同然の出来事だったのよ」

「そうだったのか。
 まあ、そういうものなのかもしれないな。アーデルセン王国奇襲の際は魔導による情報封鎖が行われたそうだが、ここでは最早それすらも行われなかったという訳か」

 よく見れば、船に乗って逃げ出そうとしている商人もいるようだった。

 大声で怒鳴り付け、知り合いの船を捕まえて、出航寸前でもう船が動き出している時にロープを投げてもらって無理やり乗り込んでいる人なんかもいた。

 パッと見た加減では結構裕福な身なりだが、買い付けた荷物などは港へそのまま捨てていくのだろう。

 それは一からの、あるいは借金を抱えてのどん底からのやり直しになってしまうのかもしれない。

 いや、それでも今夜ここで船に乗り損なったら、帝国の支配域に取り残されてしまえば商人としても終わってしまうのかもしれないから、それが正しい選択なのかもしれない。

 いずれ、この港も終わる運命だった。
 それがたまたま今夜だというだけなのだろう。

 はっと気が付いてレーダーで軍用ゾーン見たところ、既にもぬけの殻で軍艦さえ一隻もいない。

 周り全ての港、そして自国のもう一つの大型港さえも落とされて、ここへの敵襲も時間の問題なのだ。

 もう一つの軍港に残された軍艦の半分ほど、港に残っていた船は敵の手に落ちただろうから、残された貴重な軍艦を守るために、まだ帝国手勢の手薄な東方面の王国あたりにでも向かったものだろうか。

 祖国を守るための軍勢が、後のために涙を飲んで自らの保身に走らざるを得ずに逃走を与儀なくされるなんて屈辱以外の何物でもないのだろうなあ。

 この港は、そしてこのサンマルコス王国はお終いなのだ。
 やがては、この平原全て、あるいは俺達が目指す西方諸国さえも。

 まるで癌細胞のように膨れ上がり、大陸を蝕んでいく帝国。俺は港の夜を埋め尽くす冷気がもたらすかの如くに、この無敵の魔神ギガントの肉体に伝染したかのような寒気を覚えずにはいられなかった。

「ああ、港湾関係者もピリピリしていてね。

 今回の襲撃も『ついに来るべきものがやって来たか』という感じに受け止められているのよ。

 前回の騒ぎで、至近のパルミシア王国にあるアモスの港が落とされたから警戒はされていたのだけれど、このパルセンを飛び越えてブシュレが襲撃されたのだから、それはもうね。

 まあ、本来ならばあちらの港の方が帝国本国には近いのであるから、事が終わってみれば納得というところかしら。

 もう蜂の巣を突いた騒ぎとは、まさにこの事だわ」

「ああ、そういう事だったのか。
 言われてみれば確かにな」

「これで、この国の物流には大きな影響が出たわ。

 帝国相手に直接対峙して踏ん張っていた三か国の海運を一手に握っていた港の最後の一つがこの有様なのだから、それが担っていたこの東平原の三か国の兵站は苦しくなるなんてものじゃない。

 全てを国内にて賄わないといけなくなるわ。

 今までは東の平原にある盟主率いる国家連合が相当バックアップしてくれていたから、あの帝国を相手にしてもなんとか踏ん張ってこれたのに。

 ただでさえ東の平原と分断されて帝国に挟み撃ちにされて戦況は悪くなる一方だというのに大打撃もいいところよ。

 軍事力で敵方に押されている国は経済も衰退してこのように滅びへの道を歩む事になるのよ」

「そうか、俺が巻き込まれた騒ぎがそこまでの事態になっていたとは」

 俺なんか最近まで暢気にかまくらで愛犬と一緒にボーっとしていただけだというのに、そんなにも世の中は大きく動いていたのだな。

「もうかなりの船がこの一日の間にこの港から出航していったはずよ。

 帝国海軍がやってきて港湾が封鎖されたなんていったらオーナー船長あるいは船主の破産は免れないわ。

 この国の東で騒ぎがあったのだから、本来ならまだ帝国の力が及ばないほど力の強い国の集まりである西方諸国へ逃げたかった船も、尻に帆をかけて東に向かったでしょうね」

「はあ、逃げ出すために苦心していたのは俺達だけじゃあなかったって訳なんだな」

「情報は大事よ、ジン。
 我々だって対岸の火事ではいられないのだから。

 他ならぬあなた自身が陥っている状況こそが、まさにその生きた証拠の一つなんじゃないのかな。

 実は帝国には我々の存在は知られてしまっているのよ。
 元々、帝国から追われていたような仲間を救うために一戦も二戦も交えたからね。

 特に捕まっていた仲間の救出戦は熾烈を極めたわ。
 あの子達は戦う力があまりなかったのもあって意地でも助けにいったから。

 こちらに人的損害はなかったけれど、向こうは大損失だっただろうから、相当恨みは買ったわね。

 まあ相手は強大な帝国なんだから、少々の事ではビクともしちゃあいないけれど」

「うわ、俺で三戦目くらいなのか?」

「うーん、一体幾つまでいったものやら。
 あちこち事情が複雑なんで上手く数えられないのよ。

 小規模戦闘の小競り合いまで含めたらね。
 今回だって戦っていたのはサンマルコス王国と帝国の軍隊なんでしょう。
 私はちょっと困っていたあなたの手助けをしただけ。

 うちが帝国と本当にやりあう時は、間違いなく激しい殺し合いになるでしょうね」

 なんて事だろう。
 道理で連中も俺みたいなのを相手に戦い慣れている訳だ。

 俺の、今までいる事さえ知らなかった『仲間』に苦渋を飲まされていた訳か。
 いいだろう、俺も次回こそはそいつを連中に飲ます側に回ってやろうじゃないか。

 さすがに、いい加減頭に来たぞ。
 くだらねえ理由であんな子供達なんか追いかけ回しやがって。

 その俺の燃える瞳を怜悧な顔立ちのこうべを巡らせて覗き込んで、ショウは不敵に笑っていた。

「おや、大将。
 ちょっとやる気なんじゃないの」

「ああ、ここに至って帝国の連中もちょっと調子こき過ぎなんじゃないかと思ってな。
 さすがに温厚な俺も限界が来てるわ」

「頼りにしているわよ、魔神様。
 実は未確認情報なんだけど、今度救出しなければならないかもしれない仲間がいるみたいなんだ。
 
 まだ先の作戦になりそうなんだけどね」

「そうか、こっちの案件が終わったら是非とも参加させてもらいたいもんだな。
 同じ日本出身で苦境に陥っている仲間がいるというならな。

 どうせまた糞ったれの帝国絡みなんだろう」

「ええ、その通りだわ。
 期待しているわよ、魔神ギガント君」

 こうもやられっぱなしというのも癪に障り過ぎる。
 こっちは静かに暮らしていたかっただけなのにな。

 他人の権利を勝手に無闇に犯す者にはどういうお仕置きが待っているのか教えてやろう。

 そして彼らが知らない事で、一つだけ俺が教えてやれる事がある。

 どのような世界のどのような帝国であれ、帝国と名が付いてこの世で滅びなかった帝国など一つも無かったと言う事を。

 それらの帝国なるものが滅びた理由の大半は、イケイケな拡張路線を推し進め過ぎて我儘が過ぎた挙句に、他人に余計な喧嘩を売り過ぎたのが主な原因なんだからな。

 まったく他国に喧嘩を売らない温厚な国を帝国と呼ぶのもまた抵抗があるのだが。

 そして、ショウは一隻の船に俺達を連れていってくれた。

 寂れたような埠頭、まるで他に誰も使っていないというような空気を醸し出し、そこには他の商船とも軍艦とも違うオーラを纏った船が停泊していた。

 その船に飾られていた旗のマークは髑髏。

 そう、それは俗に言うところの紛れもない海賊船だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

処理中です...