【悪役転生 レイズの過去をしる。】

くりょ

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レイズの過去を知る

アルバードとして生きる責任を知れ。

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ヴィルはしばらく俺の顔をじっと見つめていた。
その瞳の奥には、驚きと安堵、そして――どこか柔らかい光が宿っていた。

「よくやった、レイズ……いや、“おまえ”だな」

 ヴィルは静かに歩み寄り、俺の肩に手を置いた。
 その掌は温かく、そしてずしりとした重みがあった。
 まるで長く孤独だった心に、ようやく触れてくれるような感触だった。

「驚くことではない。別の世界から来たなど、荒唐無稽だが……」
 ヴィルはわずかに目を細める。
「だが、おまえがここにいる以上、それが現実だ。謝る必要はない。ただ――ひとつだけ、心に刻め」

 空気が引き締まる。

「この体は、アルバード家に連なる者のものだ。家の縁、立場、過去の因縁――それらはすべて残っている。
 おまえが誰であろうと、外では“レイズ”として見られる。軽々しく振る舞えば、家そのものが揺らぐ。
 アルバードの名を背負うとは、それだけの責を負うということだ」

「……わかりました。本当に、すみません。貴方の大切な人の体を……勝手に使ってしまって」

 声が震えた。
 胸の奥で、罪悪感と安堵と、まだ整理できない混乱がせめぎ合っている。

 ヴィルはゆっくりと首を振った。

「謝る必要はない。――だが、まずは確かめよう。
 おまえがどこまで“レイズ”としての記憶や知識を持っているのか。関係者、出来事、そして自分がどう生まれ、何を背負っていたのか。思い出せる限り、話してみろ」

 その声音には、冷徹さよりも“守ろうとする覚悟”がにじんでいた。
 長く家に仕え、数々の難事を越えてきた執事――ヴィル。
 情に流されることなく、しかし決して人を見捨てぬ男。

「焦らずに話せ。わからぬことは“わからぬ”で構わん。
 隠し事は許さんが、無理に取り繕う必要もない」

 ヴィルはそう言って、少しだけ穏やかな笑みを見せた。



 俺は深く息を吸い込み、胸の奥の断片を掬うように語り始めた。
 ゲームとして知っていた知識。
 レイズという名の男の立ち位置。
 屋敷の人々から聞いた言葉、そして――自分が転生してきた経緯。

 語りながら、自分の声が震えているのを感じた。
 けれどヴィルは、ひとつひとつの言葉を逃さず、黙って聞いていた。
 眉が寄る。目が細まる。時に寂しげに、時に静かな決意を宿して。

 そして、話が終わると――ヴィルは短く頷いた。

「……よかろう」

 低く、だが確かな声だった。

「まずは、屋敷での立場を保て。無用な外出はするな。
 だが我々も調べよう。記録、関係者、外の動き――私も手を貸す」

 そこまで言って、ヴィルは少しだけ言葉を選ぶように息を整えた。

「……ただし、“死属性”を使えるという事実は、祝福にも呪いにもなる。
 今はその力を制御し、扱いを学ぶことだ。心と体を鍛えよ。
 人前では決して使うな――いいな?」

「……はい」

 胸を張ったつもりだった。だが、声はまだ震えていた。
 ヴィルはそんな俺を見て、わずかに笑う。

「よろしい。では、今日は休め。夕刻にまた来い。必要ならば相談相手をつける」

 木刀を軽く床に立て、ヴィルの目が真剣になる。

「――だが覚えておけ。誰もが善人ではない。
 おまえを利用しようとする者、恐れて封じようとする者も現れる。
 信じられる者を見極めるのも、おまえの役目だ」

 その言葉が胸に深く刺さった。
 俺は無言で頷く。

 背後でヴィルが静かに指示を出す声が響く。
 やがてリアナが近づいてきて、小さく微笑んだ。
 その笑顔が、張り詰めた空気の中で唯一の“温もり”だった。

 ――夕刻。
 陽は傾き、屋敷の影が長く伸びる。

 だが俺の胸の中には、小さな決意が芽生えていた。
 この世界で“何か”を成し遂げる。
 たとえ他人の体でも――この命を預かった者として、責任を果たしてみせる。


---

 ヴィルは静かに口を開いた。

「……おまえが悪しき者でないことは、先の鍛錬で分かった」

 その言葉に、胸が熱くなる。
 ヴィルはふと目を閉じ、あの訓練の光景を思い浮かべているようだった。

 俺が必死に失敗を重ね、倒れそうになりながらも立ち上がり、
 何度も挑んだあの瞬間。
 そして――その努力を、黙って見守り、導いた彼自身の姿。

「……あれは、誰が見ても師と弟子の関係だった」

 ヴィルはわずかに口元を緩める。

「その真っ直ぐに学ぼうとする姿勢。私はそこが気に入った」

 その一言で、堪えていた涙が決壊した。

「ヴィルさまぁぁぁぁぁ!!!」

 思わず飛びつきそうになる俺に、ヴィルは木刀の柄で床を“コツン”と叩いた。

「……わたしは執事長だ。敬称は不要だ」

 少しだけ照れ隠すように、視線を逸らす。

「――ヴィル、と呼べ」

「……っ、ヴィル!!」

 涙を拭いながら、その名を力いっぱい呼ぶ。

 そのとき、彼の口元に浮かんだ微笑みは――
 この世界で初めて、俺が出会った“信頼”という名の光だった。
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