【悪役転生 レイズの過去をしる。】

くりょ

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レイズの過去を知る

リアナとヴィルの心情

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ヴィルの心情

はじめは――疑念しかなかった。

この者は、レイズに“成り代わった”異物。
アルバード家に仇なす存在であるかもしれぬ。

その可能性を、ヴィルは決して軽んじなかった。
ゆえに、容赦なく試すつもりだった。
容赦なく――斬る覚悟も、すでに決めていた。

だが。

訓練場の片隅で、汗を滝のように流しながら、
何度倒れても立ち上がるその姿を見て、胸の奥がわずかに揺れた。

真剣な眼差し。
諦めぬ意志。
そして、あの――愚直なまでに真っ直ぐな性格。

(……やはり、レイズだ)

そう思った瞬間、
長い間、心の奥に封じ込めていた“夢”が疼いた。

――いつか、自分の孫に魔法と剣を教える日が来る。

そんなささやかな願い。
しかし現実は、それを叶える前にすべてを失った。

けれど、いま目の前にいる。
形は違えど、確かにそこにいるのだ。

"今"はもう血は繋がっていなくとも、
この“新しいレイズ”は、自分を慕い、信頼し、全力で学ぼうとしている。
悪意も打算もない。
ただ、純粋に強くなりたい――その想いだけで動いている。

「……かわいいやつめ」

思わず、そう口にしていた。

昔のレイズも、いまのレイズも。
どちらも変わらず、ヴィルにとっては“愛しい孫”なのだ。

――ヴィル・アルバードは静かに誓う。
たとえ魂が違えど、この少年を守り抜く。
それが、かつて救えなかった“あの日の後悔”に報いる唯一の道だから。





リアナの心情

リアナにとって、レイズは“恐怖”そのものだった。

怒鳴られ、殴られ、時には理不尽な命令にも黙って従った。
それでも彼女は決して逃げなかった。
それがアルバード家への恩であり、使命だったからだ。

仕えるとは、恐れを呑み込むこと。
それを、リアナは骨の髄まで理解していた。
どれほど傷ついても、告げ口など一度もしなかった。
ただ“恩返し”のために、頭を下げ続けた。

――それが、彼女の生き方だった。

だが今日、世界が変わった。

レイズ様が、まるで別人のように“優しく”なっていた。
怒鳴ることもなく、むしろ彼女を気遣う言葉をかけてくれた。
そのたった一言が、彼女の胸を震わせる。

(……レイズ様、どうなさったのですか……?)

戸惑いながらも、心は温かくなっていく。
恐怖で固まっていた心が、少しずつ“溶けて”いくのを感じていた。

離れた場所から、レイズとヴィルのやり取りを見つめる。
二人の会話の内容は聞こえない。
けれど、当主であるヴィル・アルバードが――
あれほど楽しそうに、あれほど誇らしげに教え導く姿を、リアナは初めて見た。

その光景を見た瞬間、彼女の中で何かが弾けた。
長く続いた恐れの鎖が、ようやく解けたのだ。

「……レイズ様は、変わられた」

そう呟いた声は震えていた。
目には、涙が滲んでいた。

その涙は悲しみではない。
“報われるかもしれない”という、小さな希望の涙だった。

――かつて恐怖の象徴だった主が、
いまは優しさと光を帯びた“誰か”へと変わろうとしている。

その変化を、リアナはただ静かに、祈るように見守っていた。
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