【悪役転生 レイズの過去をしる。】

くりょ

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レイズの過去を知る

フロストバインド=ヴィルの評価

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ヴィルは書斎の窓辺に立ち、コーヒーを片手に大書斎の方角を見つめていた。
湯気の向こうに広がる庭園は、昼下がりの柔らかな光に包まれている。

「大丈夫だ、レイズ。おまえなら、きっと乗り越えられる」

静かに呟いたその声には、信頼と温もりが滲んでいた。
老いた瞳がわずかに細まり、どこか穏やかな笑みが浮かぶ。
――だが、その期待とは裏腹に。

* * *

大書斎の中では、レイズが見事なまでにパニックを起こしていた。

「あ、あ、あの……そうですね! ちょっと運動してて、少し痩せた? かもですね! うん、是非もない!!」

顔を真っ赤にしながら、意味不明な言葉を連発。
語彙力はどこか遠くへ逃げ去り、空気だけが異様に張り詰めている。

向かいに座るイザベルは、そんなレイズを見つめてふっと笑みをこぼした。

「そんなに緊張しなくてもいいのに。昔みたいに、“イザベル”って呼んでくれたらいいのよ」

その穏やかな声に、レイズの肩の力がふっと抜ける。
だが同時に――彼は悟った。

(……この子と“レイズ”は、旧知の仲だったのか)

心のどこかで警鐘が鳴る。
前世の記憶でも、この世界での過去でもない、“かつて”の繋がり。
自分が知らない彼女の記憶に、妙な焦りが胸を締めつける。

イザベルは本を閉じ、机の上にそっと置いた。
紫がかった瞳がまっすぐレイズを射抜く。

「それで――どうして私に魔法を教わりたいの? レイズ君なら、もう魔法を使えていたじゃない?」

その問いに、レイズは一瞬呼吸を忘れた。
――やはり、かつての“レイズ”は魔法を使えていた。
だが今の彼は、何も知らない。

少し俯き、静かに言葉を選ぶ。

「そうだね。……かつての僕は、魔法を使えていたんだ。
でも、いろんなことがあって、忘れることにしたんだ」

あの夜、リアノに言った言葉が頭をよぎる。
“いろいろあって、思い出さないようにしてる”――あの時の自分の声。
そして、血のような染みの残るホラーな部屋。

イザベルはしばらく黙って彼を見つめていたが、やがて静かに呟いた。

「……フロストバインド」

「え?」

「レイズ君は、自分で記憶を縛り付けたんだね。
“フロストバインド”――忘却と封印の氷の魔法。
自分の痛みを、心ごと凍らせたんだ」

まるで長年の疑問が氷解したかのように、イザベルはわずかに微笑む。
けれど、その微笑みには切なさが滲んでいた。

「そっか……だから、だったんだ」

そして視線を逸らさず、真剣な声音で告げる。

「私ね、今も昔も……レイズ君が大切。
だから――もう二度と、あんな悲しい魔法は使わないでね」

その言葉に、レイズは心の中で叫んだ。

(だからなんなんだよ、その“フロストバインド”って!!)

だが、彼女の真っ直ぐな思いと、かつての自分を想って涙を宿す瞳を見た瞬間、
胸の奥が苦しくなる。
理由もわからず、ただ“懐かしい痛み”だけが残った。


イザベルはそっと机の引き出しを開け、一枚の紙を取り出した。

「ヴィルおじいさまが用意してくれた、スケジュールと能力評価よ」

「おお、そんなのあるのか!」
興味津々で身を乗り出すレイズ。

紙には整った筆致で、びっしりと予定が書かれていた。



午前:鍛錬+クリスとの模擬戦
午後:イザベルとの魔法鍛錬 → 再び鍛錬
夕食後:鍛錬
入浴後:鍛錬
就寝前:鍛錬



「アホかぁぁぁぁぁ!!!」

紙を握りしめ、全力で突っ込む。
一日二十四時間のうち二十三時間が鍛錬という拷問スケジュール。

気を取り直して下の欄へ目をやる。


---

魔力素質:5
力素質:8
魅力:10
当主素質:10
精神力:5



「……さっぱりわからん」
首を傾げるレイズの横で、イザベルが口元を押さえて笑った。

「ちなみに、これね……満点が五点なの」

「天井突き抜けてんじゃねーか!!!?」

思わず机を叩くレイズ。
イザベルは堪えきれずに肩を震わせた。
その笑顔はどこまでも無邪気で、レイズの胸にやさしく沁みた。

しばらく笑ったあと、イザベルは紙を撫でながら真剣な顔になる。

「それだけ期待されてるんだと思うよ。私も最初は笑っちゃったけど……」

視線を紙から離さず、静かに言葉を継ぐ。

「でも、ヴィルおじいさまは適当に数字を書く人じゃないの。
きっとレイズ君には、それだけの素質があるって――そう見抜いてるのよ」

その真っ直ぐな言葉に、レイズは息を呑んだ。
イザベルの瞳にはからかいもお世辞もなく、ただ純粋な信頼の光だけが宿っていた。

彼女の言葉が胸の奥に響く。
自分が“誰かに信じられている”という実感。
それは、転生して初めて味わう温かさだった。

レイズは小さく息を吐き、微笑んだ。

「ありがとう、イザベル。……俺、頑張るよ」

イザベルは少し照れくさそうに頬を染めて笑う。
「うん。――その言葉、待ってた」

柔らかな午後の日差しが二人の間を照らし、
新たな物語が静かに始まろうとしていた。
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