【悪役転生 レイズの過去をしる。】

くりょ

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レイズの過去を知る

未来の魔法「不発」

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「じゃあ、未来の当主様?」

イザベルはわざとらしく首を傾げ、唇の端を上げてにやりと笑った。

「魔法の実力、見せてもらおっかな」

挑発のような、けれどどこか期待を含んだその声に、レイズの瞳がきらりと光る。
待ってましたとばかりに胸を張り、顎を上げた。

「ふっ……よぉし、見てろよ!」

まるで英雄が必殺技を放つ前のような、自信満々の表情。
風が髪をなびかせ、空気がわずかに張り詰める。

もちろん死属性は使わない。
あれは“切り札”――ヴィルからも「むやみに見せるな」と念を押されていた。

ならば見せるのは、ゲームでも後半にようやく解禁される“氷属性の魔法”。
――かつて画面越しに憧れたその力を、今度はこの手で放つ。

レイズは深く息を吸い、両の掌を前へ突き出す。

空気が震えた。
周囲に青白い光が生まれ、霧のように揺らめきながら身体を包み込む。
冷たい魔力の奔流が指先から広がり、周囲の草花がわずかに凍り付く。

「……アイスフィー――ッ!」

次の瞬間――

どさっ。

レイズは、見事な勢いでその場に崩れ落ちた。

「え、えぇぇぇっ!?」

イザベルが目を丸くして駆け寄る。
青い光がぱちぱちと弾け、レイズの周りに霜だけを残して消えていった。

魔力の枯渇――。
いくら理論を知っていても、体がそれに耐えられるほどの魔力量は、まだ備わっていなかった。

草原の風が吹き抜ける。
レイズの髪を揺らし、イザベルのスカートの裾を優しく撫でていった。
その風が、なんとも虚しく通り抜けていく。

沈黙の中で、レイズはゆっくりと起き上がり、砂を払い落とした。
そして、顔を整え――まるで何かを悟った賢者のように、低い声で呟く。

「……っふ。これは未来を見せた魔法なのさ」

声に深みを込め、あたかもすべてを計算していたかのように。

イザベルは一瞬ぽかんとした顔で固まり――次の瞬間、大爆笑した。

「あはははっ! なにそれっ! レイズ君ずるい! あっははははっ!」

腹を抱えて笑う彼女の姿を前に、レイズは頬を赤くしながらも、必死に澄ました顔を保つ。

「笑うな。これは深遠なる未来視だ……」

しかしその声の端が微妙に震えているせいで、余計に可笑しさを誘い、イザベルは涙を流すほど笑い転げた。

けれどその笑顔の奥で――イザベルの心には別の感情が生まれていた。

(あの魔法……私も知らない術だった。発動こそしなかったけれど、確かに“何か違う道”を示していた)

彼の放った微かな光が、確かに風を凍らせた。
その一瞬の“兆し”が、イザベルの胸の奥に残っていた。

(……いまのレイズ君、前よりもずっと大人になったみたい)

その想いを隠すように、イザベルは顔を上げ、少し真面目な表情に戻る。

「じゃあ、次は簡単な魔力トレーニングをやってみよっか。
魔力を錬成して、その状態で私と会話するの。途切れたら最初からやり直しね」

レイズは真剣に頷く。
「なるほど……それで持続力を鍛えるわけだな」

イザベルの目がきらりと光る。
その姿はまるで教師そのもの。
先ほどまでの茶目っ気は消え、代わりに確かな威厳と温かさがあった。

レイズは静かに目を閉じ、魔力を練る。
体の中心に意識を落とし込み、呼吸とともに流れを整えていく。

草原の風が彼の周囲で旋回し、淡い光が浮かぶ。
その様子を見守るイザベルの胸には、不思議な痛みと温もりが同時に広がっていた。

(昔は、私が引っ張っていたのに……いまは、置いていかれそうな気がする)

かつて自分の後ろを追いかけてきた少年が、
いまは目の前で、自分の知らない“未来”を見ている――。

イザベルはそんな感情を押し隠しながらも、優しく微笑み続けた。

* * *

時間がゆるやかに流れていく。
イザベルはレイズを観察しながら、唐突に問いかけた。

「ねぇ、レイズ君。どうしてダイエットなんかしようとしてるの?」

レイズは魔力の集中を乱さぬよう、言葉を発さず目だけで訴える。
“これだよ、これ!”――お腹を指して、必死に表情で伝える。

イザベルは吹き出しそうになりながらも、肩をすくめて笑った。
「そんなの気にしなくていいのに。……たぶん、みんな全然気にしてないと思うよ?」

その言葉には優しさが滲んでいた。
けれど次の瞬間、彼女の顔から笑みが消える。

「じゃあ、次の質問ね」

その声音はどこか静かで、少し切なげだった。

「ここの草原で、昔よく遊んだこと……覚えてる?」

レイズはわずかに目を開け、首を横に振った。

イザベルは「……そう」と小さく呟き、視線を落とす。
草原の風が、二人の間をすり抜けていく。

「レイズ君。私ね、昔、レイズ君と“約束”したことがあるんだよ」

「えっ、約束……?」

心臓がどきりと跳ねた。
こんな可愛い子と、そんな約束を――?
しかし、記憶をいくら探っても思い出せない。

レイズは困惑の表情を浮かべ、再び首を横に振った。

イザベルは少し寂しそうに、それでも笑みを絶やさず言葉を続ける。

「そっか……じゃあ、これが最後の質問ね」

彼女は一歩近づき、真っ直ぐにレイズを見つめた。
紫の瞳が、透き通るように深く光る。

「あなたは……本当に“レイズ君”なの?」

空気が止まった。
集中していた魔力錬成がぷつりと途切れ、光が消える。

「ちょ……! もちろんレイズだよ! なに言ってるんだよ!」

慌てて笑って誤魔化そうとするが、
イザベルの瞳は、微笑みながらもどこか真剣で――その奥には、“確信”があった。

風が二人の髪を撫でる。
その中で、レイズは気づく。
彼女の問いは、“疑い”ではなく“確認”だった。

彼女は――すでに知っている。
自分が“かつてのレイズ”とは違う存在であることを。
それでも、変わらず目の前の自分を“レイズ”として見てくれているのだと。

イザベルはそっと微笑んだ。
「……うん。今のその顔、やっぱりレイズ君だね」

草原に、穏やかな風が吹き抜けた。
どこまでも青く広がる空の下、
二人の影が寄り添うように並んで伸びていく。

その静かな午後は――まるで失われた時間を取り戻すように、
温かく、そして少し切なかった。


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