【悪役転生 レイズの過去をしる。】

くりょ

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レイズの過去を知る

レイズの相談役

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イザベルは、風に髪を揺らしながらも微笑みを崩さぬまま、静かに語り出した。

「最初はね……レイズ君が、つらい過去から逃げたくて記憶を閉じ込めてしまったんだと思ったの。
でも……そうじゃないって、わかっちゃったの」

柔らかな声が、草原の風に溶けていく。
彼女は視線を落とし、指先で草をそっと撫でながら言葉を続けた。

「だって、おじいさまが――ヴィルおじいさまが――あんなに嬉しそうにして、レイズ君を私に託したんだもの。
最初は“久しぶりにたくさんお話ができるんだなぁ”って、それだけで嬉しかった。
……でも、話せば話すほど――なんだか悲しくなってきたの」

その声がかすかに震える。
唇が、悲しみと安堵の狭間で揺れた。

「……レイズ君は、もうどこかへ行っちゃったんだな、って」

風の音がふたりの間を静かに通り抜けていく。
その小さな声はかき消されそうに儚かったが、確かにレイズの胸の奥に突き刺さった。

レイズは無意識に拳を握る。
心の奥で、あの日ヴィルからかけられた言葉が甦った。

――「おまえの相談役をよこす」

(……そうか。あれがイザベルのことだったんだな)

胸の奥で静かに合点がいく。
レイズは観念したように深く息を吐き、かすかな笑みを浮かべた。

「……あぁ、そうだよ」

自嘲気味の笑み。
「てっきりヴィルから聞いてると思ってたけどな」

その名を口にした瞬間、イザベルの瞳がわずかに揺れた。

「……ヴィル?」

アルバード家の現当主であり、彼女にとっては“おじいさま”と呼ぶべき人。
けれど、レイズの口から出たのは“ヴィル”。

その一言の違いが、決定的だった。

イザベルは何も言わず、目を伏せた。
胸の奥で静かに確信が広がっていく。

(やっぱり……この人は、わたしの知ってる“レイズ君”じゃない)

けれど、すぐに彼女はその感情を押し殺し、静かに耳を傾けた。

レイズは目を細め、遠くの空を見上げる。

「俺は……別の世界から来たんだ。
気づいたらレイズの体の中にいて……本当の彼がどうなったのかは、わからない」

喉の奥が詰まり、声がかすれる。
「……ごめん」

その一言で、すべての言葉が風に散った。

草原が静まり返る。
葉の擦れる音さえ、いまはどこか遠くに感じられる。

イザベルはしばらく黙っていたが、やがてぽたりと頬を伝うものがあった。

「……そっか。でも、それなら……レイズ君には、その方が良かったのかもしれないね」

彼女は空を見上げ、微笑みながら言う。

「あまりにも辛いことが重なりすぎてたから。
ずっと心配してたんだよ。きっとそれは、誰よりも……ヴィルおじいさまが一番」

その声は優しく、けれど胸の奥を締めつけるような痛みを含んでいた。

そして、ふと顔を横に向ける。

「でも……今のあなたを“レイズ君”って呼んでいいのかな?」

その問いには、どこか震えるような迷いがあった。
“彼女の知っているレイズ”と、“いま目の前にいるレイズ”――。
それが別人であると、もう彼女は気づいている。

レイズは一瞬目を閉じ、そして静かに答えた。

「……いいよ」

短く、それだけ。
だがその言葉には、不思議なほどの重みがあった。

イザベルの表情がふわりと和らぐ。

「……良かった」

安堵の息がこぼれ、そして続ける。

「それでね、レイズ君。あなたが来てから……この屋敷も、この国も、少しずつ明るくなってきてるの。
おじいさまがね、毎日嬉しそうにしてるんだよ。
“レイズが帰ってきた”って……まるで、長い冬が終わったみたいに」

その言葉を聞きながら、レイズの胸に温かいものが込み上げる。
同時に、どこか申し訳なさが滲んだ。

(……本当のレイズは、まだ帰ってきてないのにな)

けれど、イザベルはそんな彼の心を見透かしたように微笑んだ。

「ううん、違うよ。たとえあなたが“別の人”でも――
いまここにいるあなたが“レイズ君”なんだと思う。
だって、あなたはちゃんと笑ってるもの」

彼女の言葉は柔らかく、けれど確かだった。
その一言が、レイズの胸の奥の氷を少しずつ溶かしていく。

* * *

その頃――屋敷の執務室。

ヴィルは机に置かれた茶を静かに口に運び、窓の外を見つめていた。
陽光が差し込み、カップの表面が金色にきらめく。

やがてゆっくりとカップを置き、口を開いた。

「そういえば、クリス。君にひとつお願いがある」

部屋の隅に控えていたクリスが、姿勢を正す。
「はい、なんでしょうか」

「レイズの……相談役になってほしいのだ」

静かな言葉。
しかしその声音には、どこか切実な響きがあった。

クリスは一瞬だけ驚き、そして穏やかに微笑んだ。

「もちろんです。光栄に思います」

その返答に、ヴィルは目を細め、深く頷く。

(――この子がいれば、レイズもきっと道を見失わずに済む)

そう信じていた。
けれど、彼はまだ知らない。

その頃、草原では――レイズ自身が、別の“相談役”を得ていたということを。

イザベル。
かつてレイズが救えなかった少女。
彼女こそが、いま彼を導く“もうひとつの光”になりつつあった。

そしてそのことを、まだ誰も知らなかった。



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