【悪役転生 レイズの過去をしる。】

くりょ

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レイズの過去を知る

誤解は加速していく

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レイズは、静かな草原の上で、ふと空を仰いだ。
風が髪を撫で、夕陽の光が頬を照らす。

「……イザベル、さ」
声はどこか遠く、思考の底から掬い上げたように弱々しかった。

イザベルは不思議そうに首を傾げる。
「なぁに?」

レイズは少し息を整え、苦笑を浮かべながら言った。

「未来で……俺は、あっけなく死ぬんだ」

静寂が広がる。
イザベルの瞳が、わずかに揺れた。

「……死?」
かすれた声が風に消えそうになる。
「レイズ君は……死んでしまうの?」

レイズは逃げなかった。
自嘲気味に笑いながら、まっすぐにその瞳を見返す。

「……おれのいた世界では、君たちの“未来”を知っている。
そこで――レイズは死ぬんだ。なにもできずに、誰も守れずに。」

言葉が震えた。
それは語りではなく、告白だった。

イザベルの顔が曇り、胸を押さえるように小さく息を呑む。
その沈黙の中で、レイズは続けた。

「そんな彼を……俺は放っておけなかった。
ゲームのキャラなんて、ただのデータのはずなのに……。
気づいたら、どうしても……救いたくなってたんだ。」

胸の奥に押し込めていた想いが、今ようやく言葉になった。

「だから――きっと俺がここに来た意味は、『レイズを救ってくれ』って……。
この世界に生きたみんなの“願い”が起こした奇跡なんだと思う」

夕陽の光が彼の背中を照らし、長い影が草の上に伸びていく。

イザベルは静かに唇を噛んだ。
「……そうなんだ。レイズ君を……誰も守ってあげられなかったんだね。」

その声は、悲しみと優しさが交じり合っていた。
遠い過去の傷に触れるように、彼女はゆっくりと目を伏せる。

沈黙のあと――そっと顔を上げ、穏やかな笑みを浮かべた。

「でも、あなたなら……きっと救ってくれる。そんな気がする」

その微笑みはあまりにも優しく、そして儚かった。
「ありがとう……」
微かに震える声の奥に、溢れ出すような想いが宿っていた。

レイズはその笑顔を見つめながら、小さく頷く。

そして――いつの間にか、空は朱に染まり始めていた。
長い時間を語り尽くし、二人の影が寄り添うように伸びていく。

レイズは夕焼けを見上げたまま、まっすぐな声で言った。

「だから――俺は絶対に生き残る」

その言葉には一切の迷いがなかった。
先ほどまでの冗談交じりな表情は消え、そこに立つのは“覚悟”を宿した男だった。

イザベルの胸が、きゅっと締めつけられる。
(どうして……こんなに不器用なのに、こんなにもまっすぐで、カッコいいんだろう)

頬が熱くなるのを、彼女は必死でごまかした。

* * *

屋敷へ戻る頃には、空は深い橙色に沈み、街の灯りがちらほらとともり始めていた。
門前で待っていたリアナが姿を見つけ、慌てて駆け寄る。

「お帰りなさいませ――当主様……っ!? い、イザベル様まで!?」

最初は丁寧だった声が、後半で見事に裏返った。

「く、苦しゅうないぞ」

レイズはどこか得意げに顎を上げ、貴族のように手を差し出す。

「……だから、なにそれ」
イザベルは呆れながらも、楽しそうに微笑んだ。

そのやりとりを少し離れた場所で見ていたヴィルは、静かに目を細める。

――この光景は、ただの戯れではない。

彼はゆっくりと息を吐き、胸の奥に新たな決意を刻んだ。

(あの子はもう、“過去のレイズ”ではない。
そして……イザベルも、彼と並んで歩き出したのだ)

* * *

屋敷の前には、すでに使用人たちが整列していた。
皆、帰還した二人を迎えるように一斉に頭を下げる。

レイズは驚きながらも、堂々とその間を歩く。
まるで本物の当主のように。

最後に、ヴィルが二人の前に進み出て、穏やかに声をかけた。

「……二人とも、よく頑張りました」

その眼差しは深く、どこか誇らしげだった。
彼には見えていた。

――当主としての覚悟を宿したレイズの目。
――その当主を支える覚悟を決めたイザベルの笑み。

「よかろう。この子たちなら、きっと未来を担える」

勝手にそう結論づけ、ひとり満足げに頷くヴィル。

もちろん、当の二人はそんな壮大なことなど一切考えていない。

レイズは子供のように笑い、ヴィルへ向かって胸を張った。

「……あぁ! ちゃんと相談できたぞ! 本当のことを言えたんだ!」

得意げにお腹を叩くレイズ。
その姿に、ヴィルは目を細めながらも、心の中で「……そうか」と呟いた。

(本当のこと……? なるほど、イザベルに話したということか)

だが、その内容までは知らない。

イザベルは横でクスクスと笑い、やがて真顔に戻ってヴィルに向き直った。

「おじいさま。……あとでお話がありますから」

穏やかだが、有無を言わせぬ声音。
(どうして“あのこと”を教えてくれなかったのよ……)

その視線に、ヴィルはまるで理解したかのように深く頷いた。

「……なるほど。二人の意思は、確かに伝わった」

――そうしてまた、誤解がひとつ増えた。

けれど、そのすれ違いすらも、きっとこの物語の運命の一部。

オレンジの光に包まれた三人の影が、静かに重なり、
そして――ゆっくりと夜の闇へと溶けていった。


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