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レイズの過去を知る
怪力リアナと渇き再び
しおりを挟むリアナに手を引かれ、レイズはずるずると廊下を歩かされていた。
「そ、その……リアナ。この部屋は、思い出したくないことが――」
抵抗の言葉もむなしく、リアナは勢いよく扉を開く。
「失礼します!」
「あぁぁ……」
レイズは頭を抱えた。
だが目の前に広がった光景に、思わず息を呑む。
――部屋は、美しく整っていた。
破れた絵も、剥がれたカーテンも、血の痕もない。
まるで、あの日の惨劇が初めから存在しなかったかのように。
リアナは誇らしげに微笑む。
「はい、レイズ様。どうぞ横になってください!」
そう言うが早いか、彼女はレイズの身体をひょいと抱え上げ、軽々とベッドへ寝かせた。
「……今、俺……持ち上げられた……?」
信じがたい光景にレイズは硬直する。
リアナは小柄で、どこか天然。
それなのに、その腕には鍛え上げられた兵士のような力が宿っていた。
震えるレイズを見て、リアナは勘違いしたように優しく声をかける。
「……さぞお辛かったのでしょう。こんなに震えて……。いま、お布団をかけますね」
その声音は柔らかく、手つきは驚くほど丁寧だった。
そっと掛けられた布団の重みは、まるで母の手のように温かい。
「……おやすみなさいませ、当主様」
深く一礼して、リアナは静かに部屋を後にした。
――残されたレイズは、しんとした空間の中で天井を見上げる。
「……おまえだよ……」
布団の中で小さく笑みをこぼしながら、彼は目を閉じる。
脳裏に蘇るのは、リアナとの出会い。
昨日の彼女は怯え、いつもおどおどとしていた。
だが今は――
堂々と自分を支え、導こうとしてくれている。
「……ずいぶん、たくましくなったな……」
まるで妹を見守る兄のように、レイズは心の中で呟く。
「……お兄さんは、嬉しいよ……」
そして安堵の息を吐き、静かに眠りへと沈んでいった。
――だが、その安らぎは長く続かなかった。
乾き。
喉を焼くような、尋常でない渇きが再び襲う。
「……み、水……」
掠れた声を絞り出し、枕元のコップに手を伸ばす。
だが力が入らず、指先からコップが滑り落ち、床に冷たい音を立てた。
レイズは這いずるようにベッドを抜け出し、水を求めて暗闇を進む。
「……せっかく……覚悟、決めたのに……」
涙とも汗ともつかぬものが頬を伝う。
限界を悟り、膝が崩れ落ちたそのとき――
「――レイズ様っ!!」
勢いよく駆け込む足音。
息を切らし、声を震わせた少女の叫びが響く。
(……誰かが……俺を……?)
冷たい感触が唇に触れた。
次の瞬間、水が喉を通り、体の隅々まで沁み渡っていく。
わずかに戻った意識で目を開くと――
そこには、涙を浮かべたリアノの姿。
彼女は震える手でレイズの体を抱き起こし、懸命に支えていた。
小柄な身体。だがその腕は強く、決して離そうとしない。
まるで――姉のリアナを見ているかのようだった。
(……姉妹揃って、それなのか……)
乾いた唇を震わせながら、どうにか言葉を絞り出す。
「……ありがとう……」
その一言で、リアノの瞳が大きく揺れた。
涙を堪えるように唇を噛み、こくりとうなずく。
そして再び水を口元へ運び、そっとレイズの喉を潤す。
レイズは布団に横たえられ、リアノがその傍に静かに座る。
夜の闇の中、彼女の瞳だけが光を宿していた。
心配そうに見つめるその眼差しは、あまりにも真っ直ぐで――どこか切なかった。
再び注がれる水。
喉を伝うたび、胸の奥が温かくなる。
……だが、ふと頭をよぎる。
(……これ、絵面……的に大丈夫なのか……?)
そんな自分へのツッコミが最後に浮かび、
レイズは安堵と疲労に包まれながら、静かに意識を手放した。
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