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レイズの過去を知る
実にいい成長
しおりを挟む昨日も、今日も。
変わらず木刀を振り上げるレイズの姿があった。
「んぬぬぬぬぬぬぬぬぬ……っ!!!」
朝の陽射しが差し込む中、その声は庭に響き渡る。
そんなレイズの姿を、三人の少女が静かに見つめていた。
一人は――真剣な眼差しで「今日も頑張ってる」と誇らしげに微笑むリアナ。
一人は――まだ寝ぼけ眼で「ほぇ~……」と呆れながらも、どこか楽しげに眺めるイザベル。
そしてもう一人は――「もう、そんなに無理しないで……」と胸を痛めながらも祈るように見守るリアノ。
恋に落ちたわけではない。
だが、三人の想いが同じ一人の男――レイズへと向かい、静かに重なっていく。
その光景は、まるで“彼を中心に物語が動き出している”ことを暗示しているかのようだった。
そして――その場にもうひとり、静かに足を踏み入れる者がいた。
ヴィル・アルバード。
老剣士の眼は、孫の動きを確かめるように細められる。
レイズの木刀の振りはまだぎこちない。
だが確かに、昨日とは違っていた。
力強さではない。
速度でもない。
何より違っていたのは、その“表情”だった。
かつては歯を食いしばり、苦しげに顔を歪めていた。
今のレイズは――まっすぐに前を見据え、苦痛に耐えながらも崩れない。
その顔に宿る覚悟を見て、ヴィルは確信する。
「……力が、ついてきたな」
それは筋力のことではない。
精神の力――そして、覚悟の証だった。
ヴィルは黙ってレイズの横に立ち、一本の木刀を手に取る。
そして――片手で軽々と振り下ろした。
その軌跡は、まるで風を切るように滑らかで、美しかった。
一方は老剣士。威厳と静けさをまとい、見る者を魅了するほどの完成された剣筋。
一方は若者。太った体で、息を切らしながらも懸命に木刀を振るう、不格好な姿。
――だが、不思議とその二人の姿は調和していた。
光と影。完成と未熟。美と泥臭さ。
それらが交わるように、朝の光が二人の姿を照らしていた。
まるで、「未来への継承」を描く一枚の絵のように――。
その静寂を破ったのは、レイズの叫びだった。
「……あのっ、恥ずかしいからやめてぇぇえ!?」
顔を真っ赤にして喚くレイズ。
張り詰めていた空気が、ふっと和らぎ、リアナたちの笑いが漏れた。
木刀を置いたヴィルとレイズは、しばし無言で見つめ合う。
まるで互いの力を認め合う剣士同士のように。
やがてヴィルが静かに言葉を落とす。
「……力が、確かについてきています」
それを聞いたレイズは、汗だくの顔で息を整えながら即座に叫んだ。
「うるせぇ、ばけもん!!!」
荘厳な空気が一瞬で吹き飛び、場に小さな笑いがこぼれる。
そこへ、整った身なりの青年――クリスが姿を現した。
きっちりと結ばれた髪、凛とした瞳。
彼は二人の前に進み出て、深々と一礼する。
「お見事です」
その声は、誠実で、どこか清らかだった。
クリスは木刀を差し出しながら微笑む。
「それでは、レイズ様。私にも手ほどきをお願いできますか」
渡された木刀を手に取ると、驚くほど軽い。
レイズは思わず目を見開いた。
(……これなら、いける!)
試しに一振り。
空気を裂く音が、先ほどまでとは比べ物にならないほど鋭く響く。
クリスはその姿に爽やかな笑みを浮かべた。
「大変素晴らしいです」
その一言に、レイズの胸が小さく跳ねた。
――やっぱり、こいつはいいやつだ。怪我だけはさせたくない。
そう思いながらも、どうしても抑えられない感情がこみ上げる。
(……でも、その完璧なイケメン顔だけは許せねぇぇ!!)
レイズはニヤリと口元を歪めた。
「……その整ったツラを泥に沈めてやるッ!!」
気迫を全身にまとい、一気に突進する。
その勢いに、周囲の少女たちは息を呑んだ。
――だが。
「っ!」
クリスは軽やかに身を翻し、その攻撃を受け流した。
次の瞬間、レイズの身体は勢い余って地面に豪快に転がる。
イケメン青年は優雅に立ち、太った青年は泥に沈む。
リアナが口を押えて笑い、イザベルが呆れ、リアノは小さくため息をついた。
そしてヴィルは静かに木刀を立て、目を細めて呟く。
「……いい。実に、いい成長です」
泥の上で呻き声を上げるレイズを見て、
イザベルは思わず言った。
「でも……その顔、泥だらけですよ、レイズ様」
その瞬間――また笑いが広がった。
朝の光の中で、剣と笑いが混ざり合う。
それは確かに、“変化の朝”だった。
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