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レイズの過去を知る
変わった鍛練
しおりを挟むイザベルは、頬を赤らめたままのレイズをまっすぐ見つめ、子どものように目を輝かせて微笑んだ。
「ねぇ? どうやったの? わたしにもできるの?」
真っ直ぐで、逃げ場のない問い。
レイズは視線を泳がせ、わざとらしく低い声を作る。
「……これは、選ばれし者だけの力。おまえには教えない」
強がり――に聞こえる。だが、そこに虚勢はなかった。
“死属性”。それを持つ者だけが触れられる、本質的な“消去”。
どれほど精緻に積み上げられた魔力の壁であっても、その前では“無”に還る。
レイズは胸を張る。
これは、正面から来る“強者”に対しても、構えを崩し、一撃を通すための――切り札になり得る。
イザベルは頬をふくらませて、すこし拗ねたように肩をすくめた。
「……どうせそれも未来の知識なんでしょ?」
レイズは短くため息を落とし、肩で笑う。
「ああ、そうだよ」
素直に認めつつ、声を低める。
「けどな――知識だけじゃ、この力は扱えない。
“理解して”“掴んで”、はじめて指先に載る。そういう類いの力だ」
イザベルの睫毛がかすかに震え、吐息がひとつ漏れる。
「もしこの力の本質を知っていたら……“キャラ”の序列なんて、簡単にひっくり返る」
ゲームの中で“使いにくい”と敬遠されたこともある属性。
だが、運用の肝に触れた瞬間、誰もが悟る。――これは規格外だ、と。
“死属性”を持つ者は少なく、しかも多くは後半に“味方”として立つ。
だからこそ、ほんの一握りだけが、この真価に触れられた。
レイズは腕を組み、木陰の風を受けながら、どこか醒めた声音で続ける。
「正直、“魔力の質”だの“壁を厚く”だの、俺の関心は薄い」
「なによ……便利なんだから、ちゃんと覚えたほうがいいのに!」
イザベルはむっと頬をふくらませる。
レイズは片手をひらひらと振り、軽く受け流す。
「便利なのは分かってる。生き残りの術としては、一級だ。――だが、忘れるな」
一拍。
レイズの目が、からかいを脱ぎ捨てる。
「これは、便利・不便の次元の話じゃない」
イザベルの表情がすっと引き締まる。
彼女もまた、軽口をしまい、正面から言葉を待つ。
レイズはまっすぐに見据え、静かに告げた。
「――この力を、もし俺以外のやつが使えたら……どれだけ危険か、わかるか?」
教え諭すのではない。戒める響き。
イザベルは小さく喉を鳴らし、視線を逸らせないままレイズを見つめ続ける。
「……もし、他の誰かがその力を持ってたら……」
さきほど掴まれた自分の腕へ、そっと視線を落とす。
あの、“確かに触れられた”感覚――壁の消失、抵抗の消滅。
「……わたしみたいに筋力のない人間なら、ただ“捕まれた”だけで、もう逃げられない。
抵抗すらできない。そうしたら……」
言葉がほどけ、唇が震える。
「……あっという間に、殺されてしまう……」
草の香りに混じって、微かな恐怖が空気を冷やす。
レイズは頷き、低く重ねる。
「そうだ。だからこそ危険だ。
――お前が言った通り、誰かがこの力を握れば、命は“簡単に”奪える」
警告。だがその芯には、彼女を守りたいという意思が灯っていた。
レイズは切り株にどっかり腰を下ろし、組んだ両手の甲に顎をのせる。
朝露の名残が光る草地、梢を揺らす風音、遠くで小鳥が二、三声。
彼はわざと偉そうに言葉を整えた。
「……つまりだ。俺には、その可能性が“ある”」
誇示ではない。自覚の宣言。
ゆっくりとイザベルに視線を戻す。
「そして――イザベル。もう、分かっただろう?」
ひと呼吸おいて、わずかに目を細める。
「――魔力壁に“頼りすぎる”な。よいな?」
軽い圧と、ほんの少しの威圧。
沈黙を、風が通り抜ける。
イザベルはきょとん、と目を丸くしたあと――ふわりと笑った。
「……レイズくん。似合ってないよ、その顔」
レイズの“威厳”は、音もなく崩れ落ちる。
「お、おい。今は真面目な――」
「うん、真面目なのは分かった。だからこそ言うね」
イザベルは一歩近づき、彼の正面で膝を折る。
視線の高さを合わせ、やわらかな声で続けた。
「“頼りすぎない”。それはわたしへの忠告で、同時に“あなた自身”にも向けるべき言葉だよ。
――切り札に甘えすぎないこと。ね?」
レイズは目を瞬き、苦笑いをこぼす。
「耳が痛いな」
「でしょ?」
イザベルはいたずらっぽく片目をつぶる。
だが次の瞬間、表情を真剣に戻した。
「教えなくていい。さっきの“消す”やり方は、あなた一人のものであって。
ただ――“使う時”は、わたしにも覚悟をさせて。味方は、守る準備をするから」
短い沈黙。
レイズは、ゆっくり頷いた。
「約束する。
俺は――“必要な時”にだけ使う。奪うためじゃなく、守るために」
「うん。それでいい」
イザベルは立ち上がり、ひらりとスカートの裾を払う。
風が二人の間を通り抜け、葉の影が地面に踊る。
「じゃ、魔力壁の“依存しない使い方”、練習しよっか。
厚みと強度を“局所的に”上げ下げ――“避けるための壁”。攻めない、防ぎすぎない」
「……いいな、それ。壁を“盾”から“舵”にするわけだ」
「そうそう。さすが、理解が早い“選ばれし者”」
イザベルが茶化す。レイズは鼻を鳴らす。
「おだてても、さっきのコツは教えない」
「わかってるってば」
笑みを含んだ瞳の奥に、確かな決意。
互いの“線引き”と“信頼”が、いま言葉になった。
「よし、続けるぞ。――壁、上げろ。
今度は『消し』じゃない。“読む”。流れと厚み、偏りと甘さ。目で、手で、肌で」
「了解。……レイズくん、手」
イザベルが掌を差し出す。
レイズは、今度はそっと輪郭だけをなでるように指先を滑らせ――
微細な硬さの“ムラ”を探る。
先ほどの“圧倒”ではなく、“対話”。
指先の温度と、彼女の壁の震えが、静かに同調を始める。
「……そう、それ。今の触り方。――やさしいね」
「訓練だ」
「うん、訓練だね」
二人は、ほとんど同時に笑った。
枝葉が揺れ、陽光が細く差し込む。
切り札は胸の奥にしまったまま、彼らは“生き延びるための技”を磨いていく。
その在り方こそが、いつか本当に誰かを救う――
イザベルはそう確信していたし、レイズもまた、無言で同じ未来を見ていた。
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