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レイズの過去を知る
外の現実
しおりを挟むレイズの胸は、妙に高鳴っていた。
(おれのまわりには、最強が三人もいる……なんてイージーな世界だよ)
そう心の中で皮肉を漏らしながらも――脳裏をよぎるのは、チュートリアルであっさり殺された“レイズ”自身の記憶だった。
(……おいおい、最強に囲まれてたはずのおれが、あんな序盤で死ぬとか。おまえ……)
自分自身に呆れながらも、なぜそうなったのか――今ならわかる気がした。
力はあった。けれど、それを理解してくれる人も、支えてくれる仲間もいなかったのだ。
(……今は、違う)
レイズはふっと笑う。
――少なくとも、いまの俺には守る仲間がいる。
そんな思いを胸に浮かべたその時、ふと頭をよぎる疑問があった。
(アルバードって……地理的にどのあたりにあるんだ?)
ぼんやりと考えていたその瞬間、背後から声がかかった。
「当主様」
振り向くと、リアナが恭しく頭を下げていた。
その笑顔はいつも通り明るく、まるで花のようだった。
レイズが何か言おうとした瞬間――
「うむ。ご苦労。では食事へ向かう」
すかさず“それっぽい”言葉で切り上げる。
リアナは目を輝かせ、両手を胸の前でぎゅっと組んだ。
「さすが当主様ですっ!!」
その尊敬の眼差しに、レイズはどこか居心地悪くも、ほんの少し誇らしさを覚えるのだった。
食堂に足を踏み入れると、すでにヴィルとイザベルが席に着いていた。
しかし、いつもの温かい空気とは違う。
イザベルの目元はわずかに赤く、どこか泣いたあとに見える。
レイズはすぐにその変化に気づいた。
「……イザベル、なんかあったのか?」
声をかけると、イザベルはびくりと肩を震わせ、無理に笑みを作る。
「な、なにもないわ……」
けれど、その笑顔は痛いほどぎこちなかった。
レイズの顔を一目見ると、彼女は再び伏し目がちになり、沈黙した。
「……」
その空気を断ち切るように、ヴィルが静かに口を開いた。
「……気にしなくてよいのです」
低く、落ち着いた声。
その一言で、レイズはそれ以上追及することをやめた。
ただ、胸の奥に残るのは“説明されない違和感”だった。
沈黙を破ったのはレイズ自身だった。
「なぁ、ヴィル……」
スプーンを置き、真剣な眼差しを向ける。
「俺の知ってる世界だと“アルバード”なんて存在してなかったんだが……一体どこに位置してるんだ?」
その問いに、ヴィルは少しだけ目を細め、ゆっくり答えた。
「……アルバードは、人の領土と魔族の領土。そのちょうど狭間に存在しているのです」
「……!」
レイズは思わず息を呑む。
(……人間と魔族の境界線……!)
あまりにも危うい立地。
だが同時に、妙に納得がいく。
(――まぁ、そりゃそうだよな。これだけの化物がいれば、魔族も手を出せねぇわけだ……)
そう呟いた瞬間、胸の奥に得体の知れないざわめきが広がった。
“狭間”という言葉が、どこか不吉に響いたのだ。
「なぁ、ヴィル。明日は街のほうまでジョギングしたいんだけど……だめかな?」
その一言に、食堂の空気が一瞬止まる。
ヴィルの瞳が細まり、静かにレイズを見つめる。
それは、初めて屋敷に来た日――「外出禁止」を言い渡した時と同じ、重い眼差しだった。
「……そうですね」
ヴィルは低く考えるように言葉を選んだ。
「私は最近、レイズに対しての“監視”は必要ないのではないかと思い始めていました。
ですが……街へ行けば、後悔することになります。私はお勧めできません」
「後悔……?」
レイズは眉をひそめる。
意味をつかめない。だが、その言葉の響きだけが胸に引っかかる。
イザベルはその瞬間、小さく肩を震わせた。
そして静かに、しかし確かに言葉を添える。
「……レイズくん。私も……おじいさまの意見に賛成かな」
声は柔らかいが、瞳の奥に宿る光はどこか怯えているようだった。
(――やっぱり、なにか知ってる)
レイズはその目を見逃さない。
むしろ、余計に気になって仕方がなかった。
「一体なんなんだよ……! そんな言い方したら余計に行きたくなるだろ!」
勢いよく立ち上がり、ぐっと胸を叩く。
「大丈夫だ。俺はなにも後悔しない。……それに、護衛をつけてくれれば安全だろ?」
その言葉に、ヴィルはしばし沈黙したのち、ゆっくりと頷いた。
「……わかりました。では、条件をつけましょう。リアナとクリスを同行させます。それでよろしいですか」
「リアナと……クリス?」
レイズは思わず絶句する。
護衛という言葉からは、想像していなかった名前だ。
特にリアナ――彼女の明るい笑顔と、何気なく見せる“常人離れした力”が頭をよぎり、
背筋に冷たいものが走った。
(おいおい……まさかリアナも、化物クラスなのか……?)
無理やり笑みを作りながら、レイズは頷く。
「ま、まぁ……いいだろ。それで頼む」
ヴィルはふっと笑みを浮かべた。
「安心してください。ここにいる者は皆、今のレイズより――ほんの少しだけ、強いのです」
「……ほんの少し?」
レイズは顔を引きつらせ、イザベルは思わず吹き出しそうになる。
その言葉がどれほどの“差”を意味するのか、レイズにはまだ分からなかった。
だが、イザベルには分かっていた。
(……“ほんの少し”なんかじゃないわ。
おじいさまも、リアナも、クリスも――
誰一人として、常識の枠には収まらない)
彼女は膝の上で手を組み、そっと心の中で呟いた。
(……どうか、レイズくん。あなたが外の“現実”を見ても、折れませんように……)
その願いが夜空に消えるのを見届けるように、イザベルは静かに息を吐いた。
一方、レイズの胸の中では――
不安よりもずっと大きな“期待”がふくらんでいた。
(ようやく……この屋敷の外に出られる。
外の世界を、この目で見られるんだ……!)
その瞳に灯る光は、少年のような輝きだった。
――だが、この時のレイズはまだ知らない。
外の世界で目にする“現実”が、彼の心を再び大きく揺さぶることになることを。
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