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レイズの過去を知る
それでも、今の彼を信じたい
しおりを挟む早朝の屋敷。
淡い光が差し込み、まだ冷たい風が廊下を抜けていく。
イザベルとリアノは、広間の椅子に腰を下ろしていた。
その前には――無言で立つクリスの姿。
イザベルが小さく息を吸い、静かに問いかけた。
「……ねぇ、クリス。何があったの?」
リアノも同じように眉を寄せる。
「私たちが門の前で見た時、あの方は……何かを、抱えているように見えました」
クリスは、ゆっくりとまぶたを閉じた。
そして淡々と、けれど丁寧に語り始める。
――早朝にルーヴェ村まで三人で走ったこと。
――道中、レイズが見せた穏やかな笑顔。
――そして、酒場で起きた出来事。
――それでも何事もなかったように、再び走り出した彼の背中を。
そのすべてを。
語り終える頃には、静かな広間に重い沈黙が満ちていた。
リアナは、まだ涙を拭えず、しゃくり上げながら言葉をこぼす。
「……レイズ様は……何も悪くないのに……!
あんなふうに言われるなんて……っ」
声は震え、胸の奥の悔しさがそのまま涙に変わっていた。
リアノは静かに目を閉じ、まるで自分に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
「……悪くない、とは言い切れません。
あの人々が抱えている怒りは、確かに“前のレイズ様”が残したものですから……」
その声音は、苦しい現実を受け入れるような響きだった。
クリスは黙って俯き、低く抑えた声で続ける。
「ですが……今のレイズ様は違います。
それでもなお責められるのなら、あまりに理不尽です。私は彼らを許せません」
リアナは涙で滲んだ瞳を上げ、言葉を詰まらせる。
リアノは沈痛な面持ちで唇を結び、クリスの拳は震えていた。
三人の思いが交錯する中、イザベルは黙ってその様子を見つめていた。
彼女の表情は、優しくも悲しげだった。
――わかってる。
過去のレイズが人々に恐れられていたことも、
それが今になっても消えることがないことも。
けれど――。
(今のレイズくんは違うの。もう……あの頃の彼じゃない)
イザベルはそっと目を閉じた。
自分はずっと、彼のそばで見てきた。
不器用で、照れ屋で、誰かのために傷つく“今の彼”を。
だからこそ――。
「……かわいそうだよ」
思わず、胸の奥からこぼれていた。
リアナが涙の瞳で振り返り、リアノとクリスも同時に顔を上げる。
イザベルは、ぎゅっと胸に手を当てて続けた。
「本当は違うのに……。
過去の罪まで全部、今の彼に押しつけられるなんて。
そんなの……かわいそうで、見てられないよ」
その言葉に、誰もすぐには返せなかった。
ただ、重くも優しい沈黙が落ちる。
リアノは目を伏せながら、小さく頷いた。
「……けれど、今のレイズ様はきっと、それでも受け入れるかと…」
「え……?」とリアナが顔を上げる。
「それが“レイズ様”だからです。
あの方は――どれほど苦しくても…」
その言葉に、イザベルの胸が締めつけられる。
窓の外、まだ朝靄が残る庭に小鳥の声が響いた。
イザベルは静かに立ち上がり、遠くを見つめる。
「……ねぇ、リアノ。もし彼がまた傷ついたら……私、今度こそ傍で支えたいの。
昔みたいに笑ってもらえるように…ね?」
リアノは目を細め、穏やかに微笑んだ。
「ええ……イザベル様なら、きっと…できます。」
リアナは涙を拭い、頷いた。
「わたしも……支えます。レイズ様がどんな過去を背負っても!」
クリスは静かに剣の柄に手を添え、短く言った。
「……我々の主は、ひとりではありません!このクリスが側についております!」
柔らかな朝の光が、彼らを照らした。
その光の中で、四人の想いがひとつに溶け合っていく。
――誰が何を言おうと、信じるべきものは決まっている。
それが、今を生きる“レイズ”だ。
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