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レイズの未来を変える。
レオナルディオの真実と信念
しおりを挟むレオナルディオは静かに息を吸い、
今まさに“世界の裏側”を暴露しようとする者の声音で語り始めた。
「そうですね。……まずは、ひとつ目の真実から話しましょう。」
視線がゆっくりと、ヴィルへ。
「――イェイラ。いや……メルェの親を殺したのは、かつてのヴィルです。」
その言葉が落ちた瞬間、空気が震えた。
セバスの瞳が細まり、クリスの肩が揺れ、ガルシアでさえ息を呑む。
だが――最も深く揺れたのは、ヴィル自身だった。
わずかに瞳の影が濃くなる。
それは否定ではなく、痛みのような、赦せぬ何かの残滓。
重苦しい沈黙を破ったのは、なおも続くレオナルディオの声だった。
「そして私は……メルェが“アルバードに縁を持つように”舞台を整えた。」
淡々と吐かれるその言葉には、罪悪感も後悔も混じらない。
まるで駒を並べるような、冷徹な計算だけだった。
「さらったのも――角を折ったのも……私です。」
言い放ったその瞬間。
バキッ!!
空気そのものが裂けるような音が響いた。
レイズの体から噴き上がる殺気が、部屋の温度を瞬時に氷点下まで落とす。
殺意は暴風のように渦を巻き、
ヴィルとセバスでさえ身体を固くするほどの凄まじさ。
グレサスは獣のように目を光らせていたが、
その笑みは――いつの間にか、消えていた。
だがレオナルディオだけは、一歩も退かない。
「……しかし、勘違いしないように。」
静かに、冷たく、狂気の光を宿した瞳でレイズを見返す。
「私は――メルェを殺していません。」
「……は?」
レイズの声は地を這うような低さで唸る。
「おまえが角を折り、さらい、縛り……
それで“殺してはいない”だと……?」
「ええ、その通りです。」
レオナルディオは薄く笑い、狂った真実を吐き出した。
「これは、人間と魔族の“悔恨の歴史”が生んだ悲劇ですよ。
ただの、自然な結果です。」
レイズの拳が震える。
爪が手のひらに食い込み、血が滴る。
だがレオナルディオは止まらない。
「私は角を折り、傷ついた彼女を村の古い倉庫に置いた。
温かい毛布のひとつも与えず、ただボロ布をかけてね。」
静かに、淡々と。
「そして言ったのです。
――『ここにいれば、アルバードの誰かが必ず助けに来る』と。」
レイズの喉が鳴る。
その言葉を頭の中で理解したくない。
だが理解してしまえば最後――もう後戻りはできなかった。
「メルェは……その言葉を信じました。
信じて、ずっと待っていた。」
部屋の空気が、重く、暗く、沈む。
次の言葉が落ちるまでの時間は、あまりにも長く感じられた。
「だが、救いに来たのはアルバードではなかった。」
レオナルディオの声が、わずかに笑いを含む。
「通りかかった別の人間たちが倉庫を開け……
角の折れた魔族を見て、“罪人”と叫び……
恐怖と憎悪に任せて――彼女を囲み、石を投げつけ、棒で殴り……」
ざわ……と誰かの息が震えた。
「――惨たらしく、嬲り殺した。」
ズッ、とレイズが一歩前へ出る。
足音ひとつで空気が震え、
レオナルディオの喉がわずかに動いた。
「……これが、どういう意味か分かりますか?」
レオナルディオの声は愉悦すら帯びていた。
「アルバードは魔族を救えなかった。
そして魔族は“アルバードに見捨てられた”と信じた。
私はただ――その“きっかけ”を作っただけ。」
レオナルディオは笑いながら続けた。
「人間の恐怖心と、魔族の誇りの高さ。
そこに私が少し手を加えた。
ただそれだけで、世界はここまで歪む。」
最後の一言は、明らかな挑発だった。
「アルバードと魔族が憎しみ合うようになるのは……
最初から決まっていたことなんですよ。」
――その瞬間。
レイズの中で何かが完全に切れた。
レオナルディオは、淡々と。
だがその声音には、妙な誇らしさが混じっていた。
「……もちろん、仕向けたのは私です。」
静寂が降りる。
「だが――最後に彼女を殺したのは“人間”だ。」
その言葉に、レイズの瞳が鋭く光を帯びた。
ヴィルの指先が微かに震え、セバスの体から滲み出る殺気が部屋の温度を落とす。
それでもレオナルディオは平然としていた。
「アルバードの庇護がなければ、魔族はどれほど幼子であっても“脅威”にしか見えない。
恐怖は思考を奪う。人は恐れたものに刃を振るう。……それが現実です。」
彼は肩を竦め、小さく笑った。
「だが魔族も同じことをしてきた。村々を焼き、人を殺し、憎悪を撒き散らしてきた。
だからこそ人と魔族は決して交わらない。血が血を呼ぶだけの関係だ。」
その冷酷な言葉に、ヴィルの眉間が深く寄る。
「アルバードはその“憎しみの連鎖”を止めようとした。
だがそれこそが過ちだった。悔恨を抱く者に“晴らす機会”すら与えなかった。」
セバスの拳が微かに震える。怒りで沈黙を貫いた。
レオナルディオの声はさらに深く沈んでいく。
「私は魔族の魔石が欲しかった。……いや、正確には、王国がそれを必要としたからだ。」
レイズの奥歯がきしむ音が聞こえた。
「世界は広い。争いはこの地だけで完結しない。
隣国との覇権争い、力を巡る思惑――魔石はその“切り札”になる。」
そして、薄い笑みを浮かべたまま告げる。
「魔族は……人類共通の敵だ。」
その言葉は、冷たい鉄のように場に落ちた。
レオナルディオはふいに立ち上がる。
先ほどまでの余裕、計算高さは消え、ただ一つの結末を理解した者の目に変わっていた。
「……わかりました。」
静かに側の剣を取り、鞘を引き抜く。
その刃を――躊躇もなく自らの喉元へ。
「私は負けました。
ですが――レイズ。あなたに負けたのではない。」
その声は震えていなかった。
「……この世界の在り方に、負けたのです。」
ヴィルですら言葉を失う。
セバスは前に出ようとしたが、その一歩は間に合わなかった。
レオナルディオは続ける。
「メルェ……あの子を利用した私の罪は、消えない。
これは懺悔でも、贖罪でもない。ただの――幕引きです。」
誰も動けない中。
レオナルディオは静かに、最後の言葉を落とした。
「悔恨の連鎖は……いつの世も等しく残酷だ。」
その瞬間――鋭い刃が自らの喉を深々と貫いた。
ドサッ。
血飛沫が床に落ち、レオナルディオの身体がゆっくりと倒れる。
広間に訪れたのは、完全な静寂。
彼は確かに“黒幕”であり、“厄災の種”そのものだった。
だが最期に残ったのは、野望でも憎悪でもなく――
ただ、一人の人間が犯した罪と、その帰結。
こうして。
ゲームの世界であれほど厄介だった悪役、レオナルディオの物語は、
この世界ではあまりにも呆気なく、ひどく静かに幕を閉じたのだった。
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