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レイズの未来を変える。
強くなるのはレイズだけではない。
しおりを挟む屋敷へ戻るなり、嵐のような気配が走った。
「レイズくん!!」
開いた扉の向こうから飛び出してきたのは、怒りとも涙ともつかない、しかし確かに必死な表情のイザベルだった。
その勢いのまま抱きつこうと腕を伸ばした――
だが、その手は途中でピタリと止まる。
ほんの少し震えていた。
――“俺に触るな”
あの日レイズに言われた言葉。
イザベルの胸に深く刺さり、いまだ抜けずに残る棘。
どれほど安心したくても、どれほど触れたくても、
その一言が彼女を縛っていた。
レイズはすぐに悟った。
そして今度は、彼の方からそっと腕を回す。
温かい腕で、優しくイザベルを抱き寄せる。
「ただいま」
低く静かな声が、イザベルの心臓に直接触れた。
イザベルの顔は瞬く間に真っ赤になり、
「ちょ、ちょっと……レイズくん!! 急に、こんなの……!」
と慌てふためくが、レイズは離さない。
胸元で震えるその体を包み込み、
彼女が迷いなく抱き返せるまで待った。
数秒の沈黙――
やがて、観念したようにイザベルの両腕がレイズの背に回る。
「……おかえりなさい」
その声は、泣き出しそうに優しかった。
そこから先は、もう嵐だった。
「レイズ様ーー!!!」
真っ先に駆けてきたリアナが、そのまま体当たりの勢いで飛びつく。
いつも冷静な彼女とは思えない跳躍。
あまりの勢いに、レイズでさえ「ぐっ……!」と声を漏らしたほどだ。
続いてリアノが抱きつき、
リリアナは泣きそうな顔でそっと包み込むように抱き寄せる。
三方向から抱きしめられ、もはや逃げ場なし。
そして最後に、クリスがゆっくりと歩み寄る。
彼だけは抱きつかない。
だが、頭を深く下げたあと、真剣な眼差しで言った。
「レイズ様……本当に、心配したのですよ」
その声音は叱責に近いが、滲む感情はただの“安堵”だった。
ふと気づけば。
イザベルの涙、リアナの抱擁、リアノの笑顔、リリアナの温かさ、クリスの無言の想い。
どれも騒がしくて、少しうるさくて。
でも、不思議なほど心地よくて。
――そこには、あまりにも温かい日常が広がっていた。
グレサス・グレイオンの悩み。
それは戦が怖いわけでも、敵を欲しているわけでもない。
ただ――
“全力を出して殺し合える相手が、この世界に存在しない”
という、常人には決して理解できぬ孤独だった。
彼がただ剣を一振りすれば、大樹は幹ごと裂け、
彼が一歩踏み込めば、大地が震えて獣が逃げ惑う。
その存在は、すでに人間という枠から逸脱していた。
だが、そんな怪物のような強さを持ちながら、
彼が向ける忠誠は決して私欲のためではない。
グレサスは“一人の人間”としての誇りを抱いていた。
――己が力で、王国を護る。
それがすべてだった。
圧倒的な強さと、揺るぎない誇り。
この二つを両立させるからこそ、グレサスは恐ろしくも清廉な存在として
王国の民から「人類最強」と畏怖と敬愛を同時に受けている。
守るという意思は、強さに比例する。
グレサス・グレイオンは、その理を誰よりも深く理解していた。
ゆえに、彼は感じ取っている。
王国の均衡を揺るがす気配を――
その矛先こそが、アルバードの存在だ。
ヴィルの剣はなお鋭く、
セバスの忠義は鋼そのもの。
ウラトスはもはや“敵”として考えることすら危険な怪物。
そして――若きレイズですら、いずれその高みに到達すると。
強さとは「守る力」であり、
守る力は時に「脅威」となる。
だからこそ、グレサスは努力を欠かさない。
血を吐くような修行ではない。
呼吸をするように、当たり前として積み重ねる。
人を超えてなお鍛え続けるその姿は、
強者ではなく、もはや“災厄”に近い。
――レイズはまだ知らない。
自分の存在が、周囲の強者たちをさらに強くしていることを。
ゲームの世界では、主人公が強くなれば敵も味方も強くなる。
それはただの“バランス調整システム”だった。
だが、この世界では――
その現象が現実として発生する。
レイズが伸びれば、
ヴィルも、セバスも、ウラトスも、
そしてグレサス自身さえも、力を高めていく。
互いが互いを照らし合い、押し上げていくように。
本来の歴史には存在しなかったはずの誤算。
その中心にいるのがレイズだ。
彼が歩むだけで、周囲の均衡が狂っていく。
レイズに関わる者たちは、常に育っている。
それは偶然ではなく、必然。
レイズという“存在そのもの”が、
周囲を強くし、世界を変えていく。
まるで、抗うことのできない摂理のように――。
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