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レイズの未来を変える。
ディアナ=フォルセティア
しおりを挟むジュラの森。
常人ならば一歩踏み入れただけで命を落とす――“死の森”。
天へ突き立つ巨木は幹だけで城壁ほどの厚みを持ち、
枝葉は空を覆い隠し、昼なお暗い世界をつくり出す。
その闇の奥底には、王国の軍勢すら壊滅させたという
規格外の魔物たちが巣食っていた。
だが――グレサスにとっては、ここは恐怖の地ではない。
鍛錬のために選び抜かれた“最適な場所”だった。
振るう剣は轟音とともに大気を裂き、
跳ね上がる風圧だけで巨木を軋ませる。
踏み込むたびに地が揺れ、鳥獣は本能で逃げ惑う。
強者を求めてもなお、誰一人として辿り着いてこない。
ゆえに彼は、自らの飢えを森の災厄で満たしていた。
ゆっくりと荒くなった呼吸を整え、
鍛錬の余韻を振り払うように肩を回したそのとき――
森の縁から、ひどく場違いな静けさをまとった声が聞こえた。
差し込むわずかな光の中、
巨人のような背を持つ男がゆっくりと振り返る。
「……私を呼ぶなんて、珍しいですね。グレサス」
現れた女――ディアナは、
この死の森に似つかわしくない落ち着きで歩み寄ってきた。
その声には余裕があり、しかし表情にはわずかな警戒が混じる。
グレサスは腕を組み、森の奥から忍び寄る魔物の気配すら無視して言った。
「用件は単純だ。――ディアナ君には、アルバードの“人質”になってほしい。」
その一言に、ディアナの瞳が鋭く揺れる。
「……人質、ですか。私を?」
グレサスは短い息を吐き、笑いとも溜息ともつかない声音で続けた。
「ああ。おまえでなければならない。
アルバードを揺さぶる方法は、剣でも軍でもない。
……“心”だ。」
森が静まる。
ディアナはその言葉が持つ意味を、痛いほど理解していた。
グレサスは知っている。
――彼女の本質は、アルバードに近いということを。
だが同時に、その“近さ”こそが決して交わらぬ証でもあった。
ディアナを形作る核は、極端なまでの「守り」だ。
守るためなら――どれほどの非道でも構わない。
敵を踏みにじることも、仲間を利用することすら厭わない。
逆に、
守るべきものがなければ、彼女は何もしない。
動かず、語らず、ただ静かに“無”となる。
その極端さは、アルバードと似ていて、決して同じではない。
「守る」という旗印こそ似ていても、
その行動原理と思想はまるで別物だ。
グレサスは口の端をわずかに上げた。
だからこそ、彼女を送り込む意味がある。
剣では砕けぬものを砕き、
軍勢では届かぬ場所を揺るがす――
思想そのものが、アルバードにとって最大の“楔”となる。
だがグレサスは理解していた。
ディアナをアルバードへ送り込むことは、
王国にとっても、決して得しか生まぬ策ではない。
むしろ、最も恐れるべき可能性があった。
彼女の本質が――
今のレイズと、あまりにも似すぎているということだ。
互いに「守るためなら」と迷いなく動く者。
その在り方は、交われば力となり、
ぶつかれば最悪の災厄となる。
だが、この事実を知る者は誰もいない。
王国も、アルバードも、
そして――レイズ自身も。
二人が出会ったとき、
世界は静かに、確実に変わり始める。
その未来を、まだ誰も知らないまま。
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