【悪役転生 レイズの過去をしる。】

くりょ

文字の大きさ
82 / 107
レイズの未来を変える。

ディアナ=フォルセティア

しおりを挟む


ジュラの森。

常人ならば一歩踏み入れただけで命を落とす――“死の森”。

天へ突き立つ巨木は幹だけで城壁ほどの厚みを持ち、
枝葉は空を覆い隠し、昼なお暗い世界をつくり出す。

その闇の奥底には、王国の軍勢すら壊滅させたという
規格外の魔物たちが巣食っていた。

だが――グレサスにとっては、ここは恐怖の地ではない。
鍛錬のために選び抜かれた“最適な場所”だった。

振るう剣は轟音とともに大気を裂き、
跳ね上がる風圧だけで巨木を軋ませる。

踏み込むたびに地が揺れ、鳥獣は本能で逃げ惑う。

強者を求めてもなお、誰一人として辿り着いてこない。
ゆえに彼は、自らの飢えを森の災厄で満たしていた。

ゆっくりと荒くなった呼吸を整え、
鍛錬の余韻を振り払うように肩を回したそのとき――

森の縁から、ひどく場違いな静けさをまとった声が聞こえた。

差し込むわずかな光の中、
巨人のような背を持つ男がゆっくりと振り返る。

「……私を呼ぶなんて、珍しいですね。グレサス」

現れた女――ディアナは、
この死の森に似つかわしくない落ち着きで歩み寄ってきた。
その声には余裕があり、しかし表情にはわずかな警戒が混じる。

グレサスは腕を組み、森の奥から忍び寄る魔物の気配すら無視して言った。

「用件は単純だ。――ディアナ君には、アルバードの“人質”になってほしい。」

その一言に、ディアナの瞳が鋭く揺れる。

「……人質、ですか。私を?」

グレサスは短い息を吐き、笑いとも溜息ともつかない声音で続けた。

「ああ。おまえでなければならない。
アルバードを揺さぶる方法は、剣でも軍でもない。

……“心”だ。」

森が静まる。

ディアナはその言葉が持つ意味を、痛いほど理解していた。

グレサスは知っている。

――彼女の本質は、アルバードに近いということを。

だが同時に、その“近さ”こそが決して交わらぬ証でもあった。

ディアナを形作る核は、極端なまでの「守り」だ。

守るためなら――どれほどの非道でも構わない。
敵を踏みにじることも、仲間を利用することすら厭わない。

逆に、
守るべきものがなければ、彼女は何もしない。
動かず、語らず、ただ静かに“無”となる。

その極端さは、アルバードと似ていて、決して同じではない。

「守る」という旗印こそ似ていても、
その行動原理と思想はまるで別物だ。

グレサスは口の端をわずかに上げた。

だからこそ、彼女を送り込む意味がある。
剣では砕けぬものを砕き、
軍勢では届かぬ場所を揺るがす――
思想そのものが、アルバードにとって最大の“楔”となる。

だがグレサスは理解していた。

ディアナをアルバードへ送り込むことは、
王国にとっても、決して得しか生まぬ策ではない。

むしろ、最も恐れるべき可能性があった。

彼女の本質が――
今のレイズと、あまりにも似すぎているということだ。

互いに「守るためなら」と迷いなく動く者。
その在り方は、交われば力となり、
ぶつかれば最悪の災厄となる。

だが、この事実を知る者は誰もいない。

王国も、アルバードも、
そして――レイズ自身も。

二人が出会ったとき、
世界は静かに、確実に変わり始める。

その未来を、まだ誰も知らないまま。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

生まれ変わったら飛べない鳥でした。~ドラゴンのはずなのに~

イチイ アキラ
ファンタジー
生まれ変わったら飛べない鳥――ペンギンでした。 ドラゴンとして生まれ変わったらしいのにどうみてもペンギンな、ドラゴン名ジュヌヴィエーヴ。 兄姉たちが巣立っても、自分はまだ巣に残っていた。 (だって飛べないから) そんなある日、気がつけば巣の外にいた。 …人間に攫われました(?)

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~

アトハ
ファンタジー
【短いあらすじ】 普通を勘違いした魔界育ちの少女が、王都に旅立ちうっかり無双してしまう話(前世は病院少女なので、本人は「超健康な身体すごい!!」と無邪気に喜んでます) 【まじめなあらすじ】  主人公のフィアナは、前世では一生を病院で過ごした病弱少女であったが……、 「健康な身体って凄い! 神さま、ありがとう!(ドラゴンをワンパンしながら)」  転生して、超健康な身体(最強!)を手に入れてしまう。  魔界で育ったフィアナには、この世界の普通が分からない。  友達を作るため、王都の学園へと旅立つことになるのだが……、 「なるほど! 王都では、ドラゴンを狩るには許可が必要なんですね!」 「「「違う、そうじゃない!!」」」  これは魔界で育った超健康な少女が、うっかり無双してしまうお話である。 ※他サイトにも投稿中 ※旧タイトル 病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~

異世界へ転生した俺が最強のコピペ野郎になる件

おおりく
ファンタジー
高校生の桜木 悠人は、不慮の事故で命を落とすが、神のミスにより異世界『テラ・ルクス』で第二の生を得る。彼に与えられたスキルは、他者の能力を模倣する『コピーキャット』。 最初は最弱だった悠人だが、光・闇・炎・氷の属性と、防御・知識・物理の能力を次々とコピーし、誰も成し得なかった多重複合スキルを使いこなす究極のチートへと進化する! しかし、その異常な強さは、悠人を巡る三人の美少女たちの激しい争奪戦を引き起こすことになる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

処理中です...