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レイズは守る
守るために
しおりを挟むレイズはイザベルと共に、静かな中庭で魔力鍛錬に励んでいた。
吐く息に合わせて魔力が流れ、指先から淡い光が生まれる。
庭を包む静寂は心地よく、どこか懐かしい。
だが、レイズの胸は波立っていた。
――この景色を守らなければならない。
仲間を。
村を。
魔族との約束を。
守るべきものが、もう手に収まりきらないほど増えてしまったのだ。
集中しているはずの視界に、ふいに影が差した。
「もしも~し! レイズくん!」
イザベルの明るい声が、現実へと引き戻す。
気づけば、顔が近い。
いつもの距離感で、じっと覗き込んでくる。
レイズは小さく息を吐き、視線をそらさずに答えた。
「……大丈夫だ。聞こえてないぞ」
「なにそれ! じゃあ無視してたんだ!」
イザベルは頬をふくらませ、ぷんと怒ってみせる。
「悪かった。少し考え事をしてたんだ」
「考え事?」
首をかしげる彼女を見て、レイズはわずかに笑みを浮かべた。
「……イザベル、おまえをどうすれば守れるのかってことをな」
一瞬、風が止まったように見えた。
イザベルはぽかんと目を丸くし、そのあと耳まで真っ赤に染めて小声でつぶやく。
「……なによそれ。変なこと言うんだから……」
レイズの言葉は軽口に聞こえるかもしれない。
だがその内側は、深く重い。
――死属性がどれほど強大でも。
――鍛錬をどれだけ積んでも。
守ろうとすればするほど、こぼれ落ちるものが出てしまう。
その現実を知っているからこそ、彼は力を求めた。
ただの「強さ」ではなく。
「守りきるための強さ」を。
その鍵となるものが――魔石だった。
レイズは知っていた。
魔石を使えば、守れる範囲は飛躍的に広がる。
仲間を。村を。アルバードを。
しかし同時に、胸をかきむしる現実もある。
魔石は魔族の命そのもの。
心臓を砕き、残った結晶に力が宿る。
それを使うことは、彼らの命を利用することに他ならない。
「守るために……奪うのか……」
レイズは拳を握りしめた。
魔石を拒めば、守れるものは限られる。
受け入れれば、魔族の命を踏みにじることになる。
――その板挟みが、彼を苦しめていた。
考え込むレイズに、イザベルがぷくっと頬を膨らませる。
「もう! また一人で抱え込んで!」
顔を上げると、真剣な眼がこちらを見つめていた。
「私だって……レイズくんを守りたいんだよ?」
その一言が胸に深く刺さり、レイズは思わず口元をほころばせる。
「……なに言ってんだよ」
「ほら、やっぱり素直じゃない」
イザベルは肩をすくめ、ふっと微笑んだ。
「でもね、レイズくん。
守るために考えてることって、過程をすっ飛ばしてるんじゃない?」
「過程……?」
イザベルは真正面から問う。
「ねえレイズくん。どうしてアルバードを守りたいの?」
レイズは静かに、しかし迷いなく答える。
「仲間がいる。それだけじゃない。
人も、魔族も、守ろうとする場所だからだ。
アルバードが滅びれば……また争いが生まれる。
犠牲が広がる。
そうなれば、守りたいものは全部……崩れるんだ」
イザベルはぱっと笑顔を浮かべる。
「なーんだ、そんなこと考えてたの。
なら、答えはかんたんだよ」
「簡単……?」
「うん。
アルバードを守るってことは、みんなを守るってことでしょ?
だったら――魔石も使えばいいじゃない」
「お、おい……!」
思わず声が上ずる。
しかしその言葉は、どこか光を差し込ませた。
魔石を――“守るために”使う?
考えたことのない発想だった。
でもすぐに、苦い現実が顔を出す。
「……でも魔石を得るには、魔族を殺さないといけない。
そんなこと、できるかよ」
イザベルは不思議そうに首をかしげ、さらりと言った。
「でもね、おじいさま――ヴィル様は、魔石をいっぱい持ってると思うよ?」
「……はぁ!? なんだって!?」
声を上げるレイズに、イザベルは胸を張って言う。
「ね? 私だってちゃんと考えてるんだから!」
そして柔らかく微笑みながら、言葉を重ねる。
「死んでしまった魂を、みんなを守る力に変えられたら……
それは魂を救うことになるんじゃないかな、って。
私はそう思うよ」
レイズの脳裏に、ヴィルの言葉が蘇る。
――メルェの魂は、お前が守ることで救われている。
イザベルの言葉と、師の言葉が重なった。
胸の奥にあった呪縛が、音を立ててほどけていく。
レイズは静かに目を閉じ、深く息を吸い込んだ。
そして――はっきりと告げる。
「……魔石は使う。守るために使う。
奪うためじゃない。
残った魂を……俺が守って救うために」
イザベルはそっとレイズの手を握った。
「うん。それがレイズくんだよ」
風が吹き抜け、二人の影が揺れた。
レイズの決意に応えるように――
アルバードの地下深く、封じられた魔石がかすかに光を宿した。
「……そうか」
レイズはふっと息を吐き、イザベルを見つめた。
「イザベル、ありがとう。おまえのおかげで、わかった気がする」
イザベルは目を丸くする。
「え……?」
「ヴィルと、もう一度話してみるよ」
控えめな声だったが、その表情には迷いがない。
そこには、これまでとは違う“覚悟”が宿っていた。
――魔石。
死属性の本領を開く鍵であり、奪うための力ではなく“救うための力”として使えるもの。
レイズはその道を選ぶ決意を固めた。
屋敷へ戻ると、彼は迷いを振り払うようにヴィルの部屋を訪れた。
扉を開けた瞬間、古びた書物の匂いが鼻をくすぐる。
ヴィルは机に向かい書類を整理していたが、レイズの気配にすぐ顔を上げた。
「どうしました、レイズ」
レイズは一歩、真っ直ぐに進み出た。
「ヴィル……魔石は魔族のものだ。だから――魔族を守るために使いたい。だめか?」
迷っていた頃には出せなかった、明確な意志のこもった声音だった。
ヴィルは目を細め、しばらく沈黙した。
そして、ゆっくりと深い息を吐く。
「……なるほど。確かに魔石は魔族の命の結晶。
あなたが彼らのために使いたいという気持ち、よくわかります」
だが、目を開いたヴィルの瞳は鋭かった。
「ですがレイズ――魔石をどう使おうとしているのです?
あなたは何を作り、何をしようとしているのですか。
それを、ここではっきり示してもらいたい」
剣神の声は穏やかでありながら、一歩も退かない強さを帯びていた。
レイズは言葉を探し、しかし逃げずにヴィルを見返す。
「……俺は死属性を使って――いや、言葉じゃわかりづらい。
見てもらったほうがいい。ひとつ、試しに作ってみたい。
許してくれるか?」
ヴィルの眉がわずかに跳ねた。
「死属性……?
つまり、あなたにしか扱えない何かを作るつもりなのですね?」
レイズは静かに首を横へ振った。
「違うよ、ヴィル。
俺だけじゃない。――みんなが使えるものなんだ」
その一言に、ヴィルの目が大きく見開かれた。
剣神である彼ですら見たことのない未来を、レイズは口にしていた。
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