【悪役転生 レイズの過去をしる。】

くりょ

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レイズは守る

隠すための細工をしに

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机の上で淡い光を放つメモリアルストーンを前に、レイズは静かに口を開いた。

「……ただ力を引き出すためじゃない。これは“隠す”ために必要なものがある」

ヴィルが目を細める。

「隠す……ため、ですか」

レイズは頷き、ストーンを指先で軽く叩いた。

「魔石を死属性で変換した以上、もう本来の魔石じゃない。だが、これが魔石だと悟られたら終わりだ。だから――ただの“加工品”に見せる必要がある」

そのために必要なのが、属性石とミスリルだった。

属性石は生活魔術に使われる小粒のエネルギー石。
火や氷、水や光を宿す、ごく普通の素材だ。

それを核に見立て、メモリアルストーンに組み込むことで、
「これは属性石を使っただけの装飾品だ」
と偽装できる。

さらにミスリルを薄く削り、細工として外殻に被せれば、魔道具のような外観が完成する。
魔石の正体は、完全に覆い隠せる。

「……つまり、完全なカモフラージュだ」

レイズの声は静かだが、その奥には鋭い危機感が潜んでいた。

「魔石と死属性の関係は、絶対に知られちゃいけない。
これは“ただの加工石”として扱うんだ」

ヴィルは深く頷く。

「なるほど……本質は秘匿したまま、表だけを整えるわけですね」

だがすぐに、ヴィルは深いため息をつきながら難しい顔をした。

「属性石は問題ありません。ですが――ミスリルは別です。
王国が血眼になって追い求める資源。
それをアルバードが持っていると知れれば、隠すどころか狙われます」

もっともな指摘だった。

しかしレイズの返答は迷いなく早かった。

「だから――死属性を使う」

「……また、ですか」

ヴィルは苦笑まじりに言うが、その瞳はすでに理解している。
死属性が常識の外にあることを、痛いほど思い知らされてきたからだ。

レイズは机の紙片に線を走らせながら説明した。

「ミスリルの特徴は、あの光沢だ。金属に魔力が宿ることで光を放ってる。
なら、それを死属性で“消す”。
光も、魔力も、表層ごと剥ぎ落とす」

拳を軽く握り、断言する。

「そうすれば、ただの色褪せた鉱石にしか見えない。
ミスリルだと気づく奴は、この世界に一人もいない」

ヴィルは深く息を呑んだ。

「……理屈としては理解できます。しかし、問題は変わりません。肝心のミスリルをどう手に入れるのです?」

レイズは口角をわずかに上げた。

「方法ならある」

ヴィルが怪訝に眉を寄せると、レイズは静かに告げた。

「ミスリルは“ディグル洞窟”に眠ってる。
未来では人が発掘する場所だ。
魔族ですら近寄らない強力な魔物の巣……つまり、王国の手はまったく届いていない」

ヴィルは言葉を失った。

魔族すら避ける領域――危険過ぎる。
だが同時に、死属性を扱うレイズなら成し得るかもしれないという現実が胸をざわつかせた。

ヴィルは低い声で問う。

「しかし……魔族が許すと思いますか?」

レイズは即答する。

「あぁ。今回の魔石も、もとは魔族の命だ。
だからこそ、魔族に許しを得なきゃならない」

レイズの声音には一片の迷いもない。

「俺は魔族と盟約を結んでる。対話もできる。
事実を伝え、約束を守る誓いを立てればいい。
そして――俺は嘘をつかない。それは絶対だ」

その確信に満ちた言葉に、部屋の空気が張り詰める。

残された問題はただひとつ。

「……誰を連れていくか、だな」

クリスの名が過る。
だが、彼を同行させれば戦力を示しすぎる。

イザベルの顔も浮かぶ。
しかし、父ガルシアやレイバード、王国の背景を考えると危険すぎる。

残ったのは――ひとり。

レイズの脳裏に、ふと麗らかな少女の姿が浮かぶ。

メルェ。

そして、彼女と深く結ばれていた者。

「……リアノ」

自然とその名が口をついて出た。

リアノであれば、メルェの魂に寄り添い、
魔族たちへ“真実”を語るに足る証明となる。

レイズは理解していた。
メルェを想い続けるリアノの存在こそが、魔族に最も強く届く言葉になると。


レイズは屋敷を出て、リアノを探した。

彼女はメルェの墓の前にひざまずき、静かに祈りを捧げていた。

レイズは立ち止まり、胸の奥がじんと熱くなる。
――リアノ。おまえは毎日こうして、メルェに祈っていたのか。

そっと近づき、声をかける。

「……リアノ」

リアノは肩を震わせ、振り返った。

「レイズ様!? あ、その……ここには……」

「あぁ。わかってる。メルェが眠ってる」

その言葉に、リアノの表情が柔らかく和らぐ。

「はい。メルェは……ここで眠っています」

レイズは墓へ向き直り、短く、だが強く告げた。

「メルェ。必ず……変えてやるからな」

リアノの瞳が揺れ、うるんだ光が滲む。
彼に手を伸ばしかけ――しかし、途中で引っ込めた。

「……いえ。私はもう、レイズ様の隣に立てるような存在ではありません」

俯く彼女に、レイズは優しく微笑む。

「それでだ、リアノ。おまえと二人で行きたい場所がある」

「わ、私と……二人で?」

「あぁ。怖ければ無理するな。……魔族領だ。メルェが生きていた場所へ行く」

リアノの顔が一瞬で固まる。
そこは人にとって恐怖の土地――だが同時に、メルェの故郷でもあった。

言葉を失う彼女へ、レイズは穏やかに続ける。

「俺は魔族を怖いと思ったことはない。
魔族にも心がある。約束がある。……メルェと同じ温かさがある。だから安心しろ」

――安心しろ。

そのひと言に、リアノの胸が大きく揺れる。
恩返しのために仕えていた彼へ抱いた気持ちは、もう別の色へと変わっていた。

――一緒にいたい。ただ、その想いだけで。

だが、それが許される立場ではないことも知っていた。

だからこそ、小さく息を整え、深く頷いた。

「……はい。レイズ様となら、どこへでも。リアノはお供いたします」

レイズはリアノの了承を得ると、クリス、イザベル、リアナを呼び寄せた。

「というわけで、リアノと二人でちょっくら行ってくる」

軽い調子で告げると、イザベルがじと目で睨む。

「……リアノと二人、ね? へぇ~?」

クリスは微笑を崩さずに言う。

「では、次は私と二人で出かけましょう」

(おまえとどこへ行く気だよ……)

レイズは心の中で突っ込むしかない。

リアナは素直に喜び、リアノへ向かってぱぁっと笑う。

「リアノ、すごいね! レイズ様と二人きりなんて、嬉しいでしょ?」

リアノは真っ赤になり、必死に言葉を選ぶ。

「そ、そんな……ですが……光栄です……」

――レイズだけが気づいていなかった。
彼女たちの向ける眼差しの意味に。
そして、自分が誰にどんな想いを抱いているのかにも。

レイズは続けた。

「ああ、一週間ぐらい戻らないかもしれないが、安心しろよ」

イザベルが悲鳴を上げる。

「い、一週間!? ムリ!! 絶対ムリ!!」

クリスも慌てて前に出る。

「そ、それではレイズ様に何かあったら……! 一体どこへ……」

リアナは夢見るように呟く。

「一週間……二人きり……」

リアノは慌てふためき、両手を振る。

「ち、ちがいます!! メルェの故郷にご挨拶に……!」

イザベルはさらに食いつく。

「魔族領!? リアノと二人で!?」

クリスは覚悟を決めた表情で言う。

「レイズ様、それは危険です。……私も同行します!」

「私も!」とイザベル。
「わたしも!!」とリアナが続く。

レイズは頭を抱えた。

「待て待て! リアノと二人で行くって言ってんだろ! これは――当主命令だ! 従え!」

しかし三人は一歩も退かない。

そこへ、ヴィルが現れた。

厳しい眼差しで三人を見渡し、静かに告げる。

「……レイズなら大丈夫です。
そしてリアノも、レイズが必ず守ります。
私が許可しました。――異論は?」

場の空気が一瞬で張り詰める。

クリスは即座に背筋を伸ばし、「承知しました」と答え、
リアナも慌てて頭を下げる。

ただ一人、イザベルだけが頬を膨らませた。

「な、なんでよ……」

ヴィルは静かに追い打ちを放つ。

「イザベル……お前が行きたいのは、リアノにレイズを取られると思っているからではないのか?」

「っ……ち、違う!! そんなわけないでしょ!!」

そして泣きそうな顔でレイズへ訴える。

「ね!? 違うよね!?」

だがレイズは完全に理解できず、首をかしげるばかり。

「……俺が? 取られる? リアノに? どういう意味だ?」

リアノは大慌てで両手を振る。

「しっ!! そんなつもりありません!!」

――誰もレイズの鈍感さには勝てなかった。

レイズはふてくされるように叫ぶ。

「おまえら! なんでヴィルの言うことだけ聞いて俺の言うことは聞かねぇんだよ!!」

その顔は怒っているというより、呆れと苦笑が混じっていた。

イザベルはぷいっと顔をそむけて言う。

「だって……おじい様の言葉には誰も逆らえないもん!」

クリスは淡々と告げる。

「当主命令とおっしゃられても……レイズ様は時々軽すぎます」

リアナはただ「えへへ……」と笑うばかり。

リアノだけが真剣に両手を合わせるようにして言う。

「わ、私はレイズ様のお言葉を信じております!!」

そのとき、レイズの眉がぴくりと動いた。

「軽い……つまり威厳が足りないって言いたいのか?」

ぽつりと呟き、ふいに表情を引き締める。

そして――

「――では、行ってまいる。リアノ、ついてこい!」

重々しい声で堂々と宣言し、そのまま屋敷を出ていった。

イザベルとクリスは顔を見合わせ、同時にため息をつく。

「そういうことじゃないの……レイズくんのばか」

「……そういうことではないのですよ、レイズ様」

リアナだけが頬を染め、目を輝かせて呟いた。

「……かっこいい……」

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