【悪役転生 レイズの過去をしる。】

くりょ

文字の大きさ
94 / 107
レイズは守る

リヴェルとセシル

しおりを挟む


フェリルは、鋭さを宿しながらも敵意の気配を含まない、まっすぐな眼差しでレイズを射抜いた。

「それで――なぜ私を知っている? それに“探しているもの”まで知っていると言った。……あなたは何者なのだ?」

レイズは静かに息を吸い、わずかに笑みを浮かべて口を開く。

「ハッ……純粋なる問いには、純粋に答えましょう。
――俺の名は、レイズ・アルバード」

その名が放たれた瞬間、広場の空気が揺れた。

「アルバード……!?」「まさか、あの一族……!」

ざわつきが走り、数人は一歩後ずさる。
フェリルも目を見開き、レイズをまっすぐ見据えた。

「……アルバード? ということは……あなたはリヴェルとセシルの息子……?」

突然の言葉に、レイズの身体が硬直する。
フェリルはゆっくりと頷き、確信を込めて言う。

「そうか……ならば、私を知っていても不思議ではない。セシルとの縁があったのだな」

レイズは思わず首を傾げた。

「いえ……フェリルさん。母と父のことをご存じなんですか?」

フェリルは怪訝そうに眉を寄せる。

「何を言っている……? 私のことを知っていながら、親のことを知らぬというのか?」

静寂。
レイズの問いは、フェリルに小さな溜息を吐かせた。

「……セシルは、人間とダークエルフのハーフだ。そしてリヴェルと結ばれた彼女から生まれた子……それがお前だ。
だからこそ、お前は私たちを“純粋な存在”だと感じ取れたのだろう。……違うか?」

レイズの胸に雷が落ちたような衝撃が走る。

「母さんが……ダークエルフと……人間の……ハーフ……?」

リアノもエルイも息を呑み、ただレイズの横顔を見つめることしかできない。

レイズは震える声で、しかし必死に言葉を紡いだ。

「……教えてください。母と父のこと……俺は、何も知らないんです」

フェリルはその瞳に宿る真実の色を感じ取り、そっと目を伏せる。

「……そうか。お前は本当に何も知らされていなかったのか。
ならば、私が知る限りを話そう」

そして静かに語り始めた。

「セシルは――人間とダークエルフの血を引き、人間の世界で生きていた。
だがその人生は穏やかではなかった。迫害、嘲笑、蔑み……人間という種は、時に信じられぬほど残酷だ」

フェリルの声に怒りはない。ただ、深い諦念と哀しみがあった。

「そんな彼女に手を差し伸べたのが……リヴェル。
真っ直ぐで、強く、優しい男だった。
二人は互いに惹かれ合い、やがて結ばれた」

温かさを帯びた声。しかし次の瞬間には重い影が落ちる。

「だが、悲劇は訪れた。
魔族と人間の抗争の最中――争いを止めようとしたリヴェルが、魔族の暴走に巻き込まれ命を落とした」

レイズの握りしめた拳が震える。

「その後を追うように……セシルもまた、人間によって殺された。
――レイズ。お前の両親は、魔族にも、人間にも殺されたのだ」

胸を刺す刃のような真実。
レイズの喉が詰まり、言葉が出ない。

フェリルは続けた。

「両親を喪い……アルバードは動いた。
ヴィルとセバスが本気を出した結果、抗争は一瞬で終わった。
人も魔族も容赦なく制圧され、誰もが恐怖した」

その光景を知っている者たちは、静かに頷く。

「だが――その後、アルバードは何も仕掛けていない。
リヴェルとセシルが望んだ“憎しみによらない世界”を尊重したのだろう」

フェリルの瞳が、ほんのりと潤む。

「……リヴェルもセシルも、私たちにとって誇りであり“純粋”だ。
争いの中でも互いを想い、誰も憎まず、己の信念を貫いた。
それこそが純粋でなくてなんだ」

そしてフェリルは――レイズを静かに見つめて言う。

「その息子であるお前もまた……純粋だ。
私は、お前を受け入れよう」

周囲のダークエルフたちも頷き、緊張がゆっくりと解けていく。

その一言――「純粋」。
それは、ダークエルフたちにとって最大級の敬意の証。

こうしてレイズは、ダークエルフたちから正式に受け入れられ、
特別な存在として迎え入れられることとなった。


レイズは静かに、頬を流れた涙を拭おうともしなかった。

リヴェルの最期は魔族から聞かされている。
そして母――セシルもまた、父と同じように命を懸けて生き抜き、愛するものを守るために散った。

人を守るために。
仲間を守るために。
そして、愛を守るために。

「……守るために、命を捧げたのか」

その呟きは誰に向けたものでもなく、胸の奥底から零れ落ちた言葉だった。

レイズは、本来この世界に生まれた人間ではない。
転生して“たまたま”与えられた身体であり、リヴェルとセシルの「本当の子」ではない。

――そう、頭では分かっている。

だが胸を締めつける感情は、決して他人のものではなかった。

切り離せるはずがない。
否、切り離したくなどなかった。

まるで自分自身が、確かに二人の血を引く者であるかのように――心が共鳴していた。

(……そうだ。俺はこの身体にいる。レイズという名で、生きている。
だからこれは、俺のことなんだ)

そう思った瞬間、レイズは悟る。

――いまこの身体を動かしているのは、紛れもなく「レイズ・アルバード」そのものなのだと。

そしてレイズは知らない。
その感覚が、記憶を失い切っている本当の理由に繋がっていることを。



ダークエルフたちの空気は、もはや完全にレイズを受け入れていた。

「純粋そのもの……!」
「こんな男、他にいないぞ!」
「心が震えたのは初めてだ!」

次々と声が上がり、そこには一片の敵意も残っていなかった。

その熱の中心で、フェリルが一歩前へ進み出た。

「それで……何故ここに来たのです?話を聞きに来ただけじゃないでしょう?」

優しさの滲む問いかけ。

レイズは迷わず目を合わせ、静かに答える。

「はい。ティグルに向かう途中で、休める場所を探していました。
ですが……あなたに会えた。それだけで来た価値がありました」

その言葉が落ちた瞬間――広場が一気にざわめき立った。

「なら我が家に泊まれ!」
「いや、私の家だ!寝床も暖炉もある!」
「何を言う!我が一族の家が一番だ!」

まるでレイズを奪い合うかのように、各家の代表が一斉に名乗りを上げる。

その熱気にリアノは完全に押され、エルイは肩を震わせながら苦笑していた。

(……ほんとに、この人……すごすぎる)

気づけば誰もがレイズに惹きつけられている。
そんな光景を、エルイは呆れと尊敬の入り混じった目で眺めていた。



「……こほん」

静けさを取り戻すように、フェリルが小さく咳払いをした。
その仕草は不思議と少女らしく、どこか愛らしい。

自然と、ダークエルフたちの視線が彼女へと向かう。

フェリルは胸を張り、鮮やかに言い切った。

「彼は……レイズは“私に会いに来た”のです。
ゆえに、彼が泊まる場所は――私が用意します」

広場が凍りつく。
だが次の瞬間――

「フェリル!ずるいぞ!」
「色気づくな小娘!」
「お前はまだ百歳にも満たないだろうが!」

怒号とも嫉妬ともつかぬ声が一斉に飛ぶ。

レイズは硬直した。

「ひゃ、百……?」

目の前にいるのは、自分と同じくらいにしか見えない少女。
それなのに――“まだ百にも満たない”ときた。

(いやいやいや……どう見ても十代だよな……?)
(超命種、スケールが違いすぎるだろ……!)

呆然とするレイズをよそに、
フェリルは耳をほんのり赤く染めながらも、堂々とダークエルフたちのざわめきを押し切っていくのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...