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レイズは守る
本気の殺意
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ティグル内部。
レイズと対峙するディアブロの気配が一層濃くなっていく、その少し手前――
闇の通路を、ひとつの小さな影が走り去っていた。
エルイだった。
「はぁ……っ、はぁ……っ……!」
喉が焼けるほど息を切らしながら、岩陰から岩陰へと身を滑り込ませる。
背後で迸る魔力の奔流が壁を砕き、空気を振動させるたび、白い頬が恐怖に引きつり、潤んだ目がぎゅっと閉じられた。
それでも、足を止めるという選択肢は彼女の中にはなかった。
「くっ……! 私が……あそこにいたら……巻き込まれて……!」
唇を噛みしめ、ひたすら前だけを見て走る。
だが――ディアブロの魔力はティグル全域を覆う巨大な“網”となっていた。
その残滓の一部が、エルイの身体を確かに捉える。
足が重くなる。肺が焼けるように痛む。
頭の奥に直接、圧迫するような重苦しい気配がのしかかる。
「……っ……あ、足が……!」
膝が折れかけた、その瞬間。
ティグルの奥で対峙していたレイズの表情が、鋭く変わった。
「やめろ、ディアブロ!!」
洞窟全体を揺らすような怒気が放たれる。
「もしエルイに手を出せば――
俺はお前を、必ず殺すことになる!!」
低く、だが明確な殺意を帯びた声。
ティグルを満たしていた魔力の空気が、一瞬びくりと震えたかのようだった。
対するディアブロは、口元をさらに歪める。
「ほう……脅しに弱いな、お前は」
薄闇の中、赤黒い瞳が楽しげに細められる。
「その反応……それこそ我が望んだ“恐怖”だ。
守るべきものがいる者ほど、壊し甲斐がある」
再び魔力が渦を巻く。
ティグルの通路の一角、エルイのいる方向へ向けて、細い触手のような魔力がするすると伸びていく。
直接狙い撃つのではなく、じわじわと逃げ道を塞ぎ、逃げ場を奪うように。
必死に走るエルイ。
荒い呼吸。足がもつれそうになりながら、それでも立ち止まらない。
(だめ……! ここで倒れたら……足を引っ張る……!)
それでも、魔力の網は確実に彼女を追い詰めていく。
その瞬間。
「――触るな」
冷気が、はっきりとした形を持って迸った。
洞窟の別の通路から、レイズが掌を掲げる。
一点に集中させた氷結の術式が、鋭い閃光となって魔力の触手に覆いかぶさった。
「《フロスト・ロック》」
短く告げた声と共に、伸びていた魔力の触手が一瞬で凍りつく。
ギシギシ、と音を立てて硬直し、エルイの頭上へ迫っていたそれが、わずか数寸の距離で完全に動きを止めた。
「……っ!」
エルイの肩が震える。
自分へ迫っていた“死”が、目の前で氷の彫像となって砕け散っていく様を、ただ呆然と見つめるしかなかった。
レイズの瞳が、ディアブロを真っ直ぐに射抜く。
「触れるな……」
その声音は低く、先ほどまでの軽口など微塵も残っていない。
「仲間に手を出せば――」
足が一歩、前へ出る。
その一歩ごとに、レイズの周囲の空気が張り詰めていく。
「――俺は本気で、お前を“殺しに”行くぞ」
ティグルの奥、その言葉を真正面から受けたディアブロは、楽しげに息を吐いた。
「……面白い」
魔力の渦が再び膨れ上がる。
圧倒的な魔力の塊が、レイズへ向けて迫る。
「ならば教えろ、その力の秘密を!」
ディアブロの声が、洞窟全体に響き渡った。
「名を名乗れ! 何者なのかを言え! その力の正体、目的――すべてだ!」
魔力が壁を抉り、床を削る。
レイズの足元にも、黒い波が押し寄せてくる。
それを、彼は一歩の踏み込みで踏み砕いた。
「知る必要はない!!」
レイズは歯ぎしりを立てながら、一気に距離を詰める。
先ほどまでとは違う。
今度は拳ではない――腰の位置に収めていた黒い刃が、静かに抜き払われた。
「……だが、どうしても知りたいなら――」
刃先が、わずかにディアブロの魔力の膜を撫でる。
死属性と氷属性が絡み合い、刀身そのものが禍々しい気配を放つ。
「――身体で覚えろ」
一閃。
ディアブロが跳躍で避けた、と錯覚した瞬間。
世界が、斜めにずれた。
「……っが……」
じわり、と。
ディアブロの胸部から腹部にかけて、深々と裂傷が走る。
黒い血と魔力が同時に溢れ出し、その身体を内側から削り取っていく。
先ほどまでの一撃と違い、今のは“殺意”をはっきりと乗せた斬撃だった。
レイズの眼差しには、もはや容赦はない。
「……これ以上は、言わないぞ」
低く、冷たい声が洞窟に満ちる。
「お前が、仲間を巻き込んで遊ぶなら――
本気で、ここで終わらせる」
ディアブロの膝が、わずかに揺らいだ。
深く刻まれた傷口から走る痛みは、普段の彼ならば“痛覚”として認識すらしないはずのもの。
それでも今は、はっきりと感じる。
力が抜けていく感覚。
魔力の器そのものが削り落とされていく感触。
「この私が……」
ディアブロは今度こそ本物の驚愕に息を呑んだ。
「今までのは……まだ手加減だったというのか……?」
乾いた笑いが零れる。
「まったく……未知とは、実に恐るべきものだ。
だが――だからこそ、面白い」
その顔にはまだ余裕の笑みが浮かんでいる。
だが、その瞳の奥に宿っているのは、紛れもなく“負け”を悟った光だった。
戦って勝つことよりも、未知を知ることを優先する――
それが、この怪物の本質でもある。
「……降参か?」
レイズは剣先を下げず、静かに問いかける。
「ディアブロ…俺の名…レイズ·アルバードだ。
そして力は死属性が関係している。
そこまでしか教えられないが…まだやるか…?」
「いや、もういい…」
ディアブロは短く答えた。
「十分だ。お前の異質さ、未知の在り方は、嫌というほど理解した。
アルバード……そして“死属性”か。
この時代にそれを完全に扱える者がいるとは……実に興味深い」
薄く笑いながらも、その声には確かな敗北の色がにじむ。
「貴様がその“未知”を見せてくれたのなら、
ミスリルなど、いくらでもくれてやる」
そう言い切るその様は、“負けた”のではない――
「今は従う方が得だ」と判断した捕食者の顔でもあった。
レイズは剣を下ろし、静かに背筋を伸ばす。
「……そうか」
短く答えた声は、先ほどまでの殺気をすでに抑え込んでいる。
「勘違いするなよ、ディアブロ」
レイズは、なお警戒を解かないまま続ける。
「最初からお前を殺すつもりはなかった。
ただ、“勝てる”と示せればそれでよかった。
目的は――お前を倒すことじゃない。
ここにあるミスリルを確保することだ」
ディアブロは小さく笑う。
「……ならば、ついてこい」
そう言って、重い足取りで洞窟のさらに奥へと歩み出す。
レイズは剣を収め、一定の距離を保ちながら後に続いた。
やがて視界が開ける。
そこに広がっていた光景は――ゲームで何度も見た、あの場面そのものだった。
壁一面に、青白い光を帯びた鉱石が脈打つように眠っている。
天井からは光を通す鉱脈が垂れ下がり、地面には大小さまざまな結晶が転がっている。
まるで星空を閉じ込めたような光景。
「……全部、ミスリル……」
レイズは思わず息を呑んだ。
ディアブロは、静かに説明を始める。
「ここは、我らの魔力を吸い続け、長い年月をかけて結晶化した場所だ。
ティグルで散った魔族や魔物の魔力、
根を張るように流れ込んだ魔力の残滓――
それらが、長い時を経て形になったのがこれだ」
指先で、ひとつの結晶を軽く弾く。
澄んだ音色が洞窟に反響する。
「ここは魔力の溜まり場……つまり、“生きた鉱脈”でもある。
我がいなくなれば、魔力の供給は途絶え、
この鉱脈は急速に枯れていくだろう」
レイズは真剣な眼差しで頷いた。
「分かってる。だから最初から、お前を殺すつもりは本当にない」
ゆっくりと周囲を見渡し、静かに言葉を続ける。
「ここで暴れて全部壊したら、本末転倒だからな。
お互い、損しかない」
ディアブロの口元に、わずかに笑みが戻る。
「……その通りだ、人間。いや――レイズ・アルバード」
やがてひと通りの説明を終えると、ディアブロは身体を僅かに傾けた。
「我は……しばらく休ませてもらう」
深く息を吐き、巨躯を翻す。
「ガイルのことが気になるのだろう?」
立ち去り際、ディアブロは背を向けたまま問いかけた。
レイズの心臓が、どくりと大きく跳ねる。
「……ああ」
短く返す声に、否定はなかった。
「だが、今はまだ話すべき時ではない」
ディアブロは、淡々と告げる。
「百年という時間の中で、奴は何度も書き換わった。
お前が知る“ガイル”と、今この世界にいる“ガイル”は違うのだろう。
……その差を、お前はまだ受け止めきれぬだろう」
「どういう意味だ」
思わず問い返すレイズ。
だが、ディアブロはそれ以上多くを語らなかった。
「気になるなら、自分で確かめろ。
未来を知るというなら、今の“現実”も見極めてみせろ」
それだけ言い残し、ディアブロはさらに奥の暗闇へと姿を消していった。
戦いは――確かに決着を迎えた。
レイズはミスリルを手に入れるという当初の目的を、問題なく果たした。
ディアブロは戦意を完全に失い、少なくとも今、この場で争いが再燃する気配はない。
ティグルの奥には、まだ重く澱んだ魔力が残っている。
だがそれは今や敵意ではなく、ただの“警告”のように静かに震えているだけだ。
レイズは、ミスリルの結晶にそっと手を触れた。
冷たい光が、掌から心臓へとじんわり伝わってくる。
(……これで、メモリアルストーンと仲間たちを――守れる)
ひとつ、深く息を吸う。
だがその胸の中心で、別の疑念が膨らみ続けていた。
――ガイルとディアブロの関係。
――なぜガイルが百年以上も生き続けているのか。
そして、ゲームで知っていた“物語”と、
今、自分が生きている“現実”との間にある違和感。
それだけが、レイズの思考を強く、激しく支配していた。
レイズと対峙するディアブロの気配が一層濃くなっていく、その少し手前――
闇の通路を、ひとつの小さな影が走り去っていた。
エルイだった。
「はぁ……っ、はぁ……っ……!」
喉が焼けるほど息を切らしながら、岩陰から岩陰へと身を滑り込ませる。
背後で迸る魔力の奔流が壁を砕き、空気を振動させるたび、白い頬が恐怖に引きつり、潤んだ目がぎゅっと閉じられた。
それでも、足を止めるという選択肢は彼女の中にはなかった。
「くっ……! 私が……あそこにいたら……巻き込まれて……!」
唇を噛みしめ、ひたすら前だけを見て走る。
だが――ディアブロの魔力はティグル全域を覆う巨大な“網”となっていた。
その残滓の一部が、エルイの身体を確かに捉える。
足が重くなる。肺が焼けるように痛む。
頭の奥に直接、圧迫するような重苦しい気配がのしかかる。
「……っ……あ、足が……!」
膝が折れかけた、その瞬間。
ティグルの奥で対峙していたレイズの表情が、鋭く変わった。
「やめろ、ディアブロ!!」
洞窟全体を揺らすような怒気が放たれる。
「もしエルイに手を出せば――
俺はお前を、必ず殺すことになる!!」
低く、だが明確な殺意を帯びた声。
ティグルを満たしていた魔力の空気が、一瞬びくりと震えたかのようだった。
対するディアブロは、口元をさらに歪める。
「ほう……脅しに弱いな、お前は」
薄闇の中、赤黒い瞳が楽しげに細められる。
「その反応……それこそ我が望んだ“恐怖”だ。
守るべきものがいる者ほど、壊し甲斐がある」
再び魔力が渦を巻く。
ティグルの通路の一角、エルイのいる方向へ向けて、細い触手のような魔力がするすると伸びていく。
直接狙い撃つのではなく、じわじわと逃げ道を塞ぎ、逃げ場を奪うように。
必死に走るエルイ。
荒い呼吸。足がもつれそうになりながら、それでも立ち止まらない。
(だめ……! ここで倒れたら……足を引っ張る……!)
それでも、魔力の網は確実に彼女を追い詰めていく。
その瞬間。
「――触るな」
冷気が、はっきりとした形を持って迸った。
洞窟の別の通路から、レイズが掌を掲げる。
一点に集中させた氷結の術式が、鋭い閃光となって魔力の触手に覆いかぶさった。
「《フロスト・ロック》」
短く告げた声と共に、伸びていた魔力の触手が一瞬で凍りつく。
ギシギシ、と音を立てて硬直し、エルイの頭上へ迫っていたそれが、わずか数寸の距離で完全に動きを止めた。
「……っ!」
エルイの肩が震える。
自分へ迫っていた“死”が、目の前で氷の彫像となって砕け散っていく様を、ただ呆然と見つめるしかなかった。
レイズの瞳が、ディアブロを真っ直ぐに射抜く。
「触れるな……」
その声音は低く、先ほどまでの軽口など微塵も残っていない。
「仲間に手を出せば――」
足が一歩、前へ出る。
その一歩ごとに、レイズの周囲の空気が張り詰めていく。
「――俺は本気で、お前を“殺しに”行くぞ」
ティグルの奥、その言葉を真正面から受けたディアブロは、楽しげに息を吐いた。
「……面白い」
魔力の渦が再び膨れ上がる。
圧倒的な魔力の塊が、レイズへ向けて迫る。
「ならば教えろ、その力の秘密を!」
ディアブロの声が、洞窟全体に響き渡った。
「名を名乗れ! 何者なのかを言え! その力の正体、目的――すべてだ!」
魔力が壁を抉り、床を削る。
レイズの足元にも、黒い波が押し寄せてくる。
それを、彼は一歩の踏み込みで踏み砕いた。
「知る必要はない!!」
レイズは歯ぎしりを立てながら、一気に距離を詰める。
先ほどまでとは違う。
今度は拳ではない――腰の位置に収めていた黒い刃が、静かに抜き払われた。
「……だが、どうしても知りたいなら――」
刃先が、わずかにディアブロの魔力の膜を撫でる。
死属性と氷属性が絡み合い、刀身そのものが禍々しい気配を放つ。
「――身体で覚えろ」
一閃。
ディアブロが跳躍で避けた、と錯覚した瞬間。
世界が、斜めにずれた。
「……っが……」
じわり、と。
ディアブロの胸部から腹部にかけて、深々と裂傷が走る。
黒い血と魔力が同時に溢れ出し、その身体を内側から削り取っていく。
先ほどまでの一撃と違い、今のは“殺意”をはっきりと乗せた斬撃だった。
レイズの眼差しには、もはや容赦はない。
「……これ以上は、言わないぞ」
低く、冷たい声が洞窟に満ちる。
「お前が、仲間を巻き込んで遊ぶなら――
本気で、ここで終わらせる」
ディアブロの膝が、わずかに揺らいだ。
深く刻まれた傷口から走る痛みは、普段の彼ならば“痛覚”として認識すらしないはずのもの。
それでも今は、はっきりと感じる。
力が抜けていく感覚。
魔力の器そのものが削り落とされていく感触。
「この私が……」
ディアブロは今度こそ本物の驚愕に息を呑んだ。
「今までのは……まだ手加減だったというのか……?」
乾いた笑いが零れる。
「まったく……未知とは、実に恐るべきものだ。
だが――だからこそ、面白い」
その顔にはまだ余裕の笑みが浮かんでいる。
だが、その瞳の奥に宿っているのは、紛れもなく“負け”を悟った光だった。
戦って勝つことよりも、未知を知ることを優先する――
それが、この怪物の本質でもある。
「……降参か?」
レイズは剣先を下げず、静かに問いかける。
「ディアブロ…俺の名…レイズ·アルバードだ。
そして力は死属性が関係している。
そこまでしか教えられないが…まだやるか…?」
「いや、もういい…」
ディアブロは短く答えた。
「十分だ。お前の異質さ、未知の在り方は、嫌というほど理解した。
アルバード……そして“死属性”か。
この時代にそれを完全に扱える者がいるとは……実に興味深い」
薄く笑いながらも、その声には確かな敗北の色がにじむ。
「貴様がその“未知”を見せてくれたのなら、
ミスリルなど、いくらでもくれてやる」
そう言い切るその様は、“負けた”のではない――
「今は従う方が得だ」と判断した捕食者の顔でもあった。
レイズは剣を下ろし、静かに背筋を伸ばす。
「……そうか」
短く答えた声は、先ほどまでの殺気をすでに抑え込んでいる。
「勘違いするなよ、ディアブロ」
レイズは、なお警戒を解かないまま続ける。
「最初からお前を殺すつもりはなかった。
ただ、“勝てる”と示せればそれでよかった。
目的は――お前を倒すことじゃない。
ここにあるミスリルを確保することだ」
ディアブロは小さく笑う。
「……ならば、ついてこい」
そう言って、重い足取りで洞窟のさらに奥へと歩み出す。
レイズは剣を収め、一定の距離を保ちながら後に続いた。
やがて視界が開ける。
そこに広がっていた光景は――ゲームで何度も見た、あの場面そのものだった。
壁一面に、青白い光を帯びた鉱石が脈打つように眠っている。
天井からは光を通す鉱脈が垂れ下がり、地面には大小さまざまな結晶が転がっている。
まるで星空を閉じ込めたような光景。
「……全部、ミスリル……」
レイズは思わず息を呑んだ。
ディアブロは、静かに説明を始める。
「ここは、我らの魔力を吸い続け、長い年月をかけて結晶化した場所だ。
ティグルで散った魔族や魔物の魔力、
根を張るように流れ込んだ魔力の残滓――
それらが、長い時を経て形になったのがこれだ」
指先で、ひとつの結晶を軽く弾く。
澄んだ音色が洞窟に反響する。
「ここは魔力の溜まり場……つまり、“生きた鉱脈”でもある。
我がいなくなれば、魔力の供給は途絶え、
この鉱脈は急速に枯れていくだろう」
レイズは真剣な眼差しで頷いた。
「分かってる。だから最初から、お前を殺すつもりは本当にない」
ゆっくりと周囲を見渡し、静かに言葉を続ける。
「ここで暴れて全部壊したら、本末転倒だからな。
お互い、損しかない」
ディアブロの口元に、わずかに笑みが戻る。
「……その通りだ、人間。いや――レイズ・アルバード」
やがてひと通りの説明を終えると、ディアブロは身体を僅かに傾けた。
「我は……しばらく休ませてもらう」
深く息を吐き、巨躯を翻す。
「ガイルのことが気になるのだろう?」
立ち去り際、ディアブロは背を向けたまま問いかけた。
レイズの心臓が、どくりと大きく跳ねる。
「……ああ」
短く返す声に、否定はなかった。
「だが、今はまだ話すべき時ではない」
ディアブロは、淡々と告げる。
「百年という時間の中で、奴は何度も書き換わった。
お前が知る“ガイル”と、今この世界にいる“ガイル”は違うのだろう。
……その差を、お前はまだ受け止めきれぬだろう」
「どういう意味だ」
思わず問い返すレイズ。
だが、ディアブロはそれ以上多くを語らなかった。
「気になるなら、自分で確かめろ。
未来を知るというなら、今の“現実”も見極めてみせろ」
それだけ言い残し、ディアブロはさらに奥の暗闇へと姿を消していった。
戦いは――確かに決着を迎えた。
レイズはミスリルを手に入れるという当初の目的を、問題なく果たした。
ディアブロは戦意を完全に失い、少なくとも今、この場で争いが再燃する気配はない。
ティグルの奥には、まだ重く澱んだ魔力が残っている。
だがそれは今や敵意ではなく、ただの“警告”のように静かに震えているだけだ。
レイズは、ミスリルの結晶にそっと手を触れた。
冷たい光が、掌から心臓へとじんわり伝わってくる。
(……これで、メモリアルストーンと仲間たちを――守れる)
ひとつ、深く息を吸う。
だがその胸の中心で、別の疑念が膨らみ続けていた。
――ガイルとディアブロの関係。
――なぜガイルが百年以上も生き続けているのか。
そして、ゲームで知っていた“物語”と、
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