ワールド・リセット

影樹 ねこ丸

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第2話 宝探し

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 血だらけで野垂れる生徒を横目に、尊流は宝探しを始めた。

 「まだ生徒の自己紹介が終わってない。とりあえず情報交換だ。」
 「分かった。俺は神山尊流。」
 「私は、絹川いろは。」
 「俺は座馬ざんま龍徳だ。」

 かなり珍しい名前だ、と思った。
 座馬なんて、今まで聞いたことが無いのに、下の名前は龍徳だ。
 自己紹介が終わると、龍徳はパーツを探し始めた。
 どうやら個別で行動しようとしているらしい。

 「協力して探さないのか?」
 「仲間は邪魔なだけだ。一人の方がずっと気楽だしな。」

 と言って、また宝探しを再開した。
 教室の隠れるところといったら、僅かしかないが、そこには隠れていなかった。
 一体どこに隠れているのだろうか?
 1分は経ったが、まるで見つかる気配がしない。
 あと隠せる場所ってどこだよ?

 一方他の生徒たちは。
 宝探しなんて眼中になく、ただ混乱していた。
 窓も扉も開かないのに、必死に開けようとしている。
 椅子をガラスで殴ったり、扉に体当たりしたり。
 だがびくともしない。全くだ。
 すると生徒たちは、叫ぶしかなかった。

 「誰かいませんかー!」
 「助けてくださーい!」
 「誰かー!」

 無意味なことをしているのに、彼らは必死だった。
 目の前で一人の生徒が死んだ。
 それを見て、かなり気が動転していた。
 だが、そうしている者はまだましだ。
 最もいけないのは、ずっとうずくまってビクビクしている生徒達だ。
 友達の死にグスグスと泣いている生徒もいれば、独り言をブツブツ言って気をまぎらわしている生徒もいる。
 尊流は意味がわからなかった。
 確かに友達が死んだら、泣くのは分かる。
 だがこの世の終わりみたいに、自分が死んだみたいに悲しむのは少し分からなかった。
 今までそんな関係の友達が居なかったからか?

 その時、ふと一人の顔が浮かび上がった。
 絹川いろは。
 友達とはまた違っていて、少し親族に近いかもしれない。
 生まれたときから一緒で、お母さん同士が仲が良いのだ。
 俺はいろはを失ったとき、あぁなるのだろうか?
 何もできなくなるのだろうか?
 それとも全く悲しまないだろうか?

 「ボーッとしないで。いち早くパーツを見つけるよ。」

 急にいろはに声をかけられ、体が動くほど驚いた。

 「あ、うん。ごめん、考え事。」

 尊流は宝探しを再開した。
 さっきのシーンを思い出した。
 日本人形のパーツが吹き飛んで、教室のどこかにいった。
 一瞬のことで何も分からなかった。
 だがいつの間にか、生徒を貫通していた。
 うーん。
 ん?
 生徒を貫通していた。
 ってことは。
 その生徒の近くに、1つのパーツがある可能性が高い。

 そう考えた尊流は、死んだ生徒の方に歩いていった。
 隣で泣いている生徒が、こちらを見る。
 俺は死んだ生徒をどかす。
 まだ血の温かさを感じた。

 「なるほど。」

 いろははその行動だけで、何をしているか察したようだ。
 尊流は周辺を探し始めた。
 丁度ロッカーの辺りだったので、隠せるスペースは十分にある。
 だが恐らく、ロッカーを破壊することはできない。
 この教室のものは、全て強度が上がっているようだ。
 生徒を逃がさないために。
 しかし、教室の全てを強化するには、取り壊して改造するための工事が必要だ。
 だが、工事なんてやっていない。
 つまりは一瞬で強化を完了したことになる。 
 魔法の類か何かの、人智を越えた何者かが犯人の可能性が高い。

 そんなことを考えていると、あることに気づいた。
 ロッカーの側面に、小さな蓋があったのだ。
 それを開けてみると、中には電卓が埋め込まれていた。
 何か暗証番号のようなものなのか?

 「いろは。ここにこんなものがあった。」
 「何これ?」
 「多分何か番号を入れれば、何かが作動するんだと思う。」

 すると1枚の紙が挟まっていることに気がついた。
 文字が書いてあった。
 
 “尾根に寝てん”

 と書いてあった。
 ははーん。謎解きってやつか。
 挑むところだぜ!
 と言っても、なんだそりゃ?
 尾根に寝てん?
 どういうこと?
 尾根さんに寝てる。
 ・・・。
 は?

 「ねぇいろは。これってどういうことだと思う?」
 「これを数字にするの?」
 「うん。」

 いろはも心当たりは無さそうだった。
 
 「とりあえずさ。龍徳くんに報告しよう。」
 「そうだな。捜索の手がかりになるかもしれない。」

 尊流といろはは、教卓に手を付いて考えている龍徳のもとに向かった。
 何を考えているのか分からない、特徴のない瞳はこちらに恐怖を感じさせた。
 冷酷な瞳をこちらに向けた。
 背筋にヒヤッとしたものが走った。

 「龍徳。こんなものを見つけたんだけど。」
 「暗号みたいなものか?」
 「うん。」
 「尾根に寝てん...。」
 「分かる?」

 龍徳は考え込んだ。
 がしかし、次の瞬間黒板に何か書き始めた。
 ローマ字だ。ん?英語か?
 あ、そういうことか!

 「こういうことじゃないか?」
 「すげぇなお前。」

 その黒板にはこう書いてあった。

 “one nine ten”

 ローマ字でoneninetenと書いて、分けて英語で読むと、
 one nine tenとなる。
 つまり、1910となる。
 
 「じゃあ早速数字入れよう。」
 「ちょっと待て。多分だけど、このミッションには何か仕掛けがある。」
 「どういうこと?」
 「1人の生徒が死んだだろ?この教室に居るのは、残り30人。パーツの数は15。倍数なんだ。これって多分、何か隠されてるんだと思う。15のパーツを全部探し出して、全員助かるなんていい話があるのか?この状況では、考えられない。少なくともあと数人は死ぬ。だから踞ってないで、早くパーツを探せ。生きたいならな。」

 龍徳はそう言った。
 確かにそうだった。
 この教室にいる全員が味方とは限らない。全員がライバルかもしれない。
 命を懸けた戦いの、敵同士かもしれない。
 でもそしたらどうすれば良いのだろう? 

 「じゃあこれをどうすんだよ。」
 「知らん。どうなっても責任はとらない。だから口出しもしない。」
 「そっか。いろははどう思う?」
 「ミッションっていうことは、見つけた人と見つけられなかった人では、結果が違うと思う。だからといって、何もしないのもおかしい。正直どうすればいいのか分からない。」

 悩んだ。この行動がまた誰かを不幸にするかもしれない。
 でも何もしなかったら、誰も助からないかもしれない。
 何か解決の糸口になるなら、試してみる価値はある。
 犠牲が出たとしても、その犠牲は仕方ないものだ。
 誰もがハッピーエンドなんて、ありえるのだろうか?

 「じゃあ俺、数字打ってみるよ。」
 「龍徳くんが解いたんだから、龍徳くんが打てば?」
 「いや、ここで龍徳を失ったら、それこそ終わりだ。みんなが助かるためには、龍徳が必要だと思う。」
 「そうだな。」
 「みんなに忠告をする。また何かが飛び出てくれるかもしれない。何かが起こるかもしれない。それは分からない。だから警戒しておいてほしい。俺は、みんなのために一歩進んでみる。」

 尊流は一歩一歩、電卓のもとに進んだ。
 そして終わりのような顔をした生徒たちの間を通り、さっきのロッカーの前までやって来た。
 数メートルなのにひどく長く感じた。

 「みんな。教卓の後ろに隠れてくれ。」
 
 念のためにみんなを避難させた。
 これから俺はミッションクリアする。
 けど、何が起こるか分からなかった。
 俺に何かが吹き飛んで、胴を貫通して死ぬ可能性もある。
 困惑していた頭が、ようやく治まってきたというのに、こんな状況になるとは。
 神様も優しくは無いようだ。

 「いくぞ。」

 尊流は深呼吸をして、震える指でボタンを押した。

 「ピッ、ピッ、ピッ。...」

 最後のボタンがなかなか押せない。
 心臓は破れんばかりに伸縮し、脈の流れを感じる。
 
 「...押せよ。」
 「指が震えるんだよ。」
 「無理はしないでね。死んでほしくないよ?」

 いろはも心配そうな顔で言ってきた。
 ここまで来て男がビビっていたら、みんなは救えない。
 俺は決心をした。
 指が“0”のボタンに近づく。

 「ピッ...!」

 何も起こらなかった。
 正確には、俺には何も起こらなかった。
 後ろから鈍い音と、悲鳴が聞こえた。
 後ろを振り向きたくなかった。
 尊流がそっと後ろを振り向こうとしたとき。
 
 視界が急に変わった。
 どこか見慣れた場所だった。
 体育館だった。
 俺以外にも3人ほど生徒がいた。
 恐らく同じ状況で、ミッションをクリアした生徒達なのだろう。
 だがとても不思議だった。
 身動きも取れなければ、会話もできない。
 ずっと金縛りになっているような状況だった。
 そもそもこれは一体なんなんだ?
 
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