毒蝕の剣

谷川裕也

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1 そもそもの原因

1 剣を振るう

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 そもそもよくある話だ。
 誰もが望んでやまないもの、それは人為を超越した力である。
 素手であらゆるものを叩き割り、不可視のエネルギーを使いこなし、奇跡を起こす。
 そんな物語。絵空事。机上の空論。
 あっていいと思う。だって、空想だから。
 目指していいと思う。でも、それは現実じゃない。
 現実じゃない? いや、それは想像力の限界だ。
 目指してみよう。初めは無理でも。そこに向かえば、きっと届くはずだ。
 そう信じた馬鹿者と、それを阻む現実こそ、真の戦いであろう。

 剣を振り続けた。そうすれば、もしかしたら誰も届かない高みに届くと信じていた。
 けど、現実はそれを許さなかった。どれだけ剣を振っても、汗を流しても、血を失っても、失うのは時間と体力だけだった。
 僕にそれ以外の望みはない。お金も、友達も、名声も、恋人もいらない。
 だから毎日、剣を振り続ける。いつ届くかはわからないけど、必ず辿り着くはずだと信じている。
 周りからは馬鹿にされ、変人扱いされ、笑われた。でも、僕は気にしなかった。
 だって、みんなが僕に投げかける言葉は全て納得できるからだ。
 そもそも、朝から晩まで剣を振り続ける男に、何の価値があるのだろう。
 友に見捨てられ、親に見捨てられ、僕は独りになった。
 生活は何とかなった。自給自足の生活であれば、お金がなくても暮らしていくことはできる。
 だから、生きる全ての時間を、剣に費やすことができる。それで僕は幸せだった。
 僕は信じている。剣を振り続けていれば、はるか夢見たあの光景に届く。
 昔、母親が聞かせてくれた物語。剣1本で地を割り、空を切り、天を裂く勇者のお話。
 僕の原点。目指す目標。憧れのステージ。
 そんな力を手にしてどうしようだなんて、考えていない。そこに至ることそのものが、僕の目指す場所だ。
 けど、至ってしまったら、僕はどうするのだろう。
 それだけは、考えていない。
 必ずたどり着ける。その確信だけしか、僕にはなかった。

 ありふれた物語。誰もが夢見て、挫折した伝説。
 でも、信じてさえいれば、届くのではないか?
 信じることをやめたから、目を背けたから、神様は手を差し伸べてくれないのだ。
 僕はやめない。諦めない。
 だって、必ずたどり着けるから。
 君はどう考える? 実際のところ、君の意見に興味はないけど。
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