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3 夢見の城
16 浅い眠り
しおりを挟むデュランの母クウェナは、独り庭の椅子に腰掛けていた。麗らかな陽気の届かぬ影で、どこか遠くを見つめている。
彼の息子は、今朝早く発った。まるでピクニックに行く子どものように、爛々と目を輝かせながら。
「(どうして……)」
クウェナは怯えていた。息子が死ねば、家には女2人が残される。無力な我々に、一体何ができるというのか。息子の死を思えば思うほど、将来が暗然とする。
「(どうして……)」
デュランは、小さい頃からああだった。子どもの好む娯楽より、戦いを好んだ。遊戯より鍛錬を好んだ。父親に挑み、全力をぶつける時に笑っていた。
母親として、愛情を欠いたつもりはない。だが、息子の目はいつもどこか遠くを向いていた。彼の妹のように、親に甘え心を緩める姿など見たことはなかった。
「(どうして……!)」
父の死の報せにも、デュランは涙1つ見せなかった。ただ目を伏せ、一生懸命何かを考えているようだった。
「どうしてなのです……」
「それは、貴女のせいではありません」
背後から突然かけられた声に、クウェナは驚いて振り向いた。そこには、見たこともない青年が立っている。
「急な訪問、大変失礼いたしました。私は王国の使いでございます。どうか、ご無礼を容赦いたしますよう」
慇懃に男は礼をする。クウェナは、なんの気配も無く背後に立つ男に、恐怖を隠せない。
「何のご用です? 息子は今、任務で外出しておりますが」
「私は、貴女に会いに参りました」
「私に?」
「そうです。こちらをご覧いただきたい」
そう言って、男は1枚の書類を見せる。書類には、いくつか資料が貼り付けてあった。クウェナは男から書類を受け取り、ざっと目を通す。
「謀反……!? そんなバカな、私の息子のことですか!?」
「疑いでございます。ご子息は、組合の冒険者と共謀して王城の使用人を殺害した容疑をかけられております」
クウェナは心臓を鷲掴みにされたような気がした。
「何かの間違いです。私の息子はこの王国に尽くしております。今までも、これからも」
「承知しております。であるからこそ、王城に来て弁明していただきたい。我らとて、優秀な騎士を失うことは望んでおりません」
男はあくまでも冷徹に、クウェナを諭す。クウェナはそれ以上何も言うことができず、椅子にへたり込んだ。
「ご子息は現在任務中であるため、あくまでも秘密裏に事を進めております。クウェナ様は、ご子息の様子に不審な点がなかったか、お教えください」
クウェナは男を睨みつける。
「そのようなもの、ありません。我が息子を疑うとは、無礼極まります」
「ご子息同様、私は任務を遂行しているにすぎません。貴女の言葉はそのまま上官へと報告いたします」
「ならば伝えてください。私の息子は、常に王国を思い力を尽くしている、と。謀反など露ほども考えておりませんわ」
その言葉に、男は表情を歪めた。
「本当に、そうでしょうか?」
突き返されるような言葉に、クウェナは一瞬ひるんでしまう。
「……どういう意味です?」
「クウェナ様は、ご子息の事を完璧に理解されていますか? 息子とはいえ、違う肉体を持った人間です。ご子息が考えている事を、貴女はすべて見通せるというのですか?」
クウェナは虚をつかれ、言葉を飲み込んだ。当たり前だ、という反論が、彼女の意思に反して口から出ないのだ。
男はその様子に見て、再び表情を消した。
「申し訳ありません。疑うのが我らの仕事、気を悪くされませぬよう」
そう言って、男は立ち去った。残されたクウェナは、ざわざわと荒れる胸中に流されるように、屋敷へと走った。
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